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賃貸で猫と一緒に暮らせる物件はあまり多くはありません。「ペット相談可」なのに「猫はダメ」と言われるケースもあるといいます。そんな中、今回ご紹介するのは「猫と暮らすことが入居条件」という異色の賃貸住宅「ねこのいえ」シリーズ。お部屋の改装を自ら手がけた一級建築士でペットシッターのいしまるあきこさんに、猫と人間が一緒の空間で快適に暮らすための工夫をお聞きしました。
猫が映える色合いの壁が迎えてくれる築60年の長屋
いしまるさんの住まい兼仕事場「平井ねこのいえ」と隣接する猫向け賃貸の最寄駅となる江戸川区の平井駅(JR総武線)までは、新宿から電車で約30分。近くには荒川も流れ、川沿いのいい風が吹いています。
まずは現在入居者を募集している築60年の長屋を改装したお部屋「平井ねこのいえ・奥のみぎ」へ。こちらのお部屋は猫を3匹まで飼うことができます。玄関のカラフルな壁は写真を撮ったときに猫たちが映えるようにと、猫にはない色味をセレクトされたとのこと。いしまるさんの愛猫のくろちゃんとしろちゃんの毛色がとても映えます。棚板に猫が通れる穴が開けられている青い「ねこくつだな」を、黒猫のくろちゃんがさっそく登っています。
人間にもうれしい広い玄関は猫用のトイレを置くのにぴったり。「猫トイレの嫌な臭いは下にたまりやすいので、段差があると部屋に臭いがやってきにくいのです」といしまるさんが教えてくれました。
玄関を上がった先の3畳間では、床置き式ユニットバスの先駆け「ほくさんバスオール」がお出迎え。すでに生産は終了しているものですが、根気よく探すとまだまだ状態の良い現役のものが見つかるそう。もともと浴室がなかったというこの部屋のために、いしまるさんが探してきた逸品です。
猫の安全のために台所を仕切るドアを設置、床はコルクにバスオールの向かいの壁に備え付けられた「ねこだな」は、猫だけではなく、人間も一緒に使用できるというこの部屋にあわせて造り付けられた棚。「家具を人と猫が共用で使えるようにしています」といしまるさん。なお、3畳間の床材には、猫が高いところから万が一落ちても衝撃をやわらげるコルクが使われています。
「ねこだな」の横にある台所に続くコンパクトなドアにもこだわりがありました。台所はコンロや包丁など、猫にとっても危険が多い場所です。
「猫たちは台所にも入りたがりますが、コンロの火でやけどをしたり、猫がコンロの点火ボタンを押して火事が起きることもあります。また、猫が口にしてはいけない食材を食べてしまわないように、台所へは勝手に出入りできないようにしたほうが安全です」
そういった配慮からいしまるさんがちょうど合うサイズで猫が開けにくい取っ手を引いて開けるドアを探し、後から設置したそうです。
猫を見上げる新体験。インテリアも家にあわせてセレクト居住スペースとなる和室は開放感のある吹抜けの空間。白さが印象的な壁の漆喰(しっくい)は、猫が爪を研ぎにくいだけでなく、消臭効果や調湿効果もあり身体に優しいそうです。また、天井を吹抜けにしたことで現れた梁の上を伝って猫たちが部屋の上部を自由に行き来できるようにしています。
ふと顔を見上げると目に入った赤色がかわいらしい装置。こちらは、いしまるさんが自ら探してきたというレトロなサーキュレーター。
暖かい空気は上にたまる性質があり、吹抜け上部にたまる部屋の暖かい空気をこのサーキュレーターで床まで届けます。レトロな照明もこの部屋に合うようにいしまるさんがセレクトしたアイテムです。猫がいたずらしにくい場所に配置するなども配慮されています。なお、2階はありませんが、梁を伝って行ける猫専用のロフトが設けられています。人間はハシゴを使って登ります。
貸主にとっては猫を飼っている入居者は長く住んでくれるというメリットも猫と人間がともに暮らしやすい工夫がされている「ねこのいえ・奥のみぎ」は家賃6万8000円(共益費込み)。また入居条件には「猫を飼っている方、またはこれから猫を飼う方限定」という条件があります。さらに詳しくその条件の理由について聞いてみました。
――入居条件が「猫を飼うこと」ですが、物件が気に入っても猫を飼っていないと入居できないのでしょうか?
「はい、猫と一緒の方しか入居できません。私自身、5匹の猫と暮らせるいまの家を苦労して探した経験から、猫向け賃貸が必要だと感じて始めました。猫を3匹まで飼っていいと許可をしている賃貸は本当に数が少ないので、猫と暮らす方に入居してほしいので、こちらの条件にしています。飼い主さんが長期間の留守のときの餌やり代行もペットシッターでもある私が対応できますし、猫との暮らしについてもできる範囲でサポートやアドバイスもします。この住まいを猫たちと一緒に楽しんでもらえる方に住んでほしいと思っています」
――こんな猫に住んでほしいという希望はありますか?
「『平井ねこのいえ・奥のみぎ』は猫が快適なロフトに上がることが多いと思いますので、これから猫を飼うという人より、猫を呼んでちゃんと降りてきてもらえるように、すでに猫と信頼関係を築いている方のほうがいいですね。高さもあるので足腰の丈夫な若めの猫たちが向いています。先日、シニア猫をお連れの方から内見のお申し込みがありましたが、安全面からお断りしました」
――猫を飼っている人に入居してもらうことで、貸主にメリットはあるのでしょうか?
「猫は柱で爪を研いだり、住宅に傷をつける可能性がありますが、例えば、その柱の近くに、より研ぎ心地が好みの爪とぎを用意すれば解決することもあります。部屋の中での粗相も、原因はトイレが小さいことや数が足りていないことでトイレが猫にとって不快な場所になっているという場合もあります。トイレを広くしたり、清潔に保って適切な場所に置いたりすれば減る可能性が高いです。
猫は変化を嫌がる動物ですから、猫と暮らす方は引越しをしたがりません。一度お部屋を気に入ってもらえれば長く住んでくれる方が多いので、貸主にとってもメリットがあると思います」
「3匹まで」OKにしている理由は、猫のことを考えた結果――「平井ねこのいえ・奥のみぎ」で一緒に暮らせる猫を最大3匹までにしているのはどうしてですか?
「猫は4匹以上になると、猫同士の仲がなかなかうまくいかないと言われています。仲間はずれのような猫がでてきやすくなるのです。もし、4匹以上の場合でも猫同士が仲良しでしたら、入居のご相談にのります」
古い家は住み方に工夫は必要だが、楽しんで住める人にはおすすめ古い建築が好きで、ご自分でもその活用方法を実践してきているいしまるさん。続いて、築60年という古い家ならではの魅力についても聞いてみました。
――大家さんから借りた古い長屋をDIYして貸し出しているんですよね。
「大家さんに許可をいただき、自分たちで改装しています。住まい兼仕事場の『平井ねこのいえ』もDIYです。漆喰やペンキを塗るだけでなく、天井をあげる際には寒さ暑さ対策として屋根面に断熱材も入れています。DIY前と印象はかなり変わりました」
――いしまるさんが感じる、古い家の魅力とはなんでしょうか。
「落ち着きますよね。和の住まいは窮屈な感じもないですし、猫たちと目線が近くて仲良くなりやすいのも魅力の一つです。畳でごろ寝すると、必ず猫たちがお腹に乗ってきますよ。この家は築60年になりますが、古い家は放っておくと失われてしまいます。自ら住むことで、まず活かしています。昔ながらの木製建具や下見板張りなどは、私にとってはかけがえのないものです。いま、これを建てようと思っても簡単ではありません。温度の調節など、古い家は住む側に少し適応能力が必要ですが、その点を楽しめる方にはおすすめしたいです」
筆者も賃貸住宅で猫と暮らしていますが、猫と人が快適に長い時間を共に暮らすには、互いにストレスのない環境づくりと工夫がかかせません。自ら野良猫の保護活動に取り組むなど、多くの猫たちと触れ合い、暮らすいしまるさんのお話は、猫が好きというだけでなく、猫のことを知り、どうしたらお互いが快適に暮らせるかを気づかせてくれるものでした。
●取材協力この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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