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夫婦共働きが、1100万世帯を超え、専業主婦世帯(約680万)の2倍近くにもなる日本の家庭。共に働く両親をもつ子どもたちは、小学校に入ると、放課後の居場所がなくなる。阪急電鉄が運営する「Kippo」はそんな共働きの親にうれしいアフタースクール。駅ナカ・駅チカの立地を活かし、放課後の子どもたちを預かり、学校でできない体験を通じて子どもたちの成長の芽を育てる、民間学童保育施設だ。阪急電鉄がなぜ「民間学童保育」に参入したのか。「駅チカアフタースクール」を企画した阪急電鉄 経営企画部課長の松本美樹さんに聞いた。
働きやすく住みやすく、街の魅力を高める事業を模索
梅田から急行で、10分。帰宅ラッシュで満員の電車から多くの乗客と共に降り立ったスーツ姿のお父さんは、改札を抜けると、そのまま、駅ビルの通路を少し歩いた。ガラス戸の右、セキュリティー対策のインターホンで名前を告げると、ドアが開き「お帰りなさい!」というスタッフの声とともに、小学1年生の長男が出てきた。
今日はちょっと遅くなるお母さんに変わって、お父さんがお迎えの日だ。
「小1の壁。というのがあります。延長保育もある保育園に預けることで働くことのできた親が、小学校に入学すると、働き方を変えざるを得ない現実を表す言葉です」(松本さん、以下同)
働く親に代わって、放課後の小学生を実際の学校の現場で預かる公設の学童保育は、時間や、場所の制約があって、両親にとって利用しやすい施設とは一概には言えない。阪急電鉄は、「末永く住み続けたい」と思っていただける沿線づくりの一環として、働く親のニーズを満たすサービスを提供できる学童保育施設を展開することで、こうした沿線の課題を解決したいと考え、新規事業としてこのアフタースクール「Kippo」を開業した。
「沿線価値を高める施策を検討するチームが立ち上がったのが2013年です。収益性でなく、地域の社会的課題を共に解消することで沿線の価値を高める事業を模索していました」
阪急電鉄と言えば、活発な沿線開発で民間鉄道のビジネスモデルを確立した企業として知られている。
郊外人口が減少するなか、次世代の街の魅力づくりに何が必要なのか。その答えのひとつがこの事業なのかもしれない。住宅や商業地の開発だけでなく、「子育てしやすい街。その一翼を担うことで、住みたい街、末永く住み続けたいと思っていただける沿線になっていければ」
「学校が終わる時間に、阪急タクシーがジャンボタクシーで学校までお迎えに行きます」
子どもたちは「Kippo」周辺の学校からここまで、プロの運転手が運転するジャンボタクシーでやってくる。
「小学校の教員免許や保育士の資格をもったスタッフもおり、子ども10人に1人以上が見守れる体制で、子どもの入退出時刻は、リアルタイムで親にメール配信されます」
事業主体が公共輸送機関であることで、子どもたちの「安全」には特に留意しているという。
「例えば、フリーランスの職業の方は、曜日によって勤務時間が異なり時間が不規則になるため、延長で21時まで食事もできるアフタースクールは、便利だと聞きます。それと、台風が来て学校が急に休みになっても、職場は休みにはなりません。私たちはスタッフに緊急招集をかけて、お預かりできる体制を整えます」
今の時代、働き方は多様だ。在宅で仕事をこなすワーキングマザーにとっても、放課後の子どもの居場所があれば、仕事もしやすい。しかも必ず利用する駅が子どもとの接点になれば便利だ。
子育てと仕事を両立させるために子育て世代に今求められているサービスと立地とは。働きやすく住みやすい街づくりを担う「Kippo」。お伺いした豊中店は開業以来2年の間に、順調に利用者を増やしている。出店リクエストも寄せられており、その声にこたえて、「豊中駅」「西宮北口駅」に続き、この春、4月には「池田駅」に3店舗目の出店を果たす。
「学び」「遊ぶ」多彩なプログラムで最初の一歩の体験を「Kippo」のネーミングの由来は、KIDS+IPPO一歩(いっぽ)だ。何事にも一歩踏み出すそのお手伝いをしようと「学び」と「遊び」のプログラムが組まれている。例えば、社会・しごとの体験では、駅長さんにインタビューをしたり、電車の工場見学や阪急電鉄の駅コンビニ「アズナス」での店員体験もある。ほかにも、郊外に出かけていく野外活動や、料理や工作物のものづくり体験など、学校では体験できないプログラムも用意されている。
電車の工場見学などは、子どもの興味を引く電鉄会社ならではの体験プログラムだ。「Kippo」は、子どもを預かるだけの施設ではない。もちろん、今までの学童保育施設の立地イメージにはない駅チカの便利さ、保育の時間の長さをメリットと感じている人も多いが、その「学び」「遊ぶ」中身が評価されている。実際に、子どもたちが楽しいと言うから通っているという親の声も多いという。
利用しているママたちの声を紹介しよう。
「週1回程度21時までの延長利用と夕食をお願いして、思いっきり残業するなどメリハリをつけた働き方をしています。「Kippo」がなければ、私のキャリア継続は難しかったと思います。子どもも、公立学童保育施設や家では宿題もきちんと取り組むことができずにいましたが、ここではプログラムに参加するため、まず、集中して終わらせます。低学年のお友達とのコミュニケーションを通しての成長も感じています」(中学年男子の母)
「台風のときなど警報が出て学校が休みになっても迅速に対応してもらえたり、働く親にとってとても心強い存在です。家族が一緒に参加できるプログラムがあるのも気に入っています」(低学年男子の母)
「体験プログラムが充実しているところが気に入っています」(低学年女子の母)
話を伺った豊中駅のスクールは、駅の改札からすぐ、同じ建物の中にあった。ワーキングマザーが増え続ける今、その市場の将来性を見越して、多彩な業種が民間学童保育に参入しているなか、鉄道事業者ならではの立地を活かした「kippo」。これからは、会社帰りのお父さん・お母さんが、小学生と手をつないで帰る風景も、いつもの駅でよく見かけることになるかもしれない。
●取材協力この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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