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不倫を選ぶ女性たちの背景には何があるのか、またこれからどうするのか、垣間見えた胸の内をご紹介します。

この既婚男性は、外見が良く弁が立ち、愛想よく女性に話しかけては懐に飛び込むのがうまい人だった。
親近感を持たせて個人的な話をするようになれば、一気に好意を見せて距離を縮めるやり方は、Tさんからも聞いていた。
一方で、一部の女性から「遊ばれた」「結婚しているのに平気で女性に手を出す」と不評を買っているのもまた、事実だった。
Tさんと不倫関係になったのも、シングルマザーとして懸命に働く彼女にいたわりの言葉をかけたのがきっかけで、LINEでやり取りをする仲になってから食事に誘い、ホテルに行くまでそう時間はかからなかった。
不倫はやめたほうがいい、と当時言ったことがあるが、「好きになったのだから仕方ない」と返すTさんに、「あの人の軽さは信用できない」と伝えるのは避けた。
男性の評判の悪さはTさんも知っていたが、「噂だけだし」と常に否定していたからだ。
好きになった男を悪く言われれば、誰だっていい気はしない。
それを考えれば、外野があれこれと口を出すより、身をもってその人の本性を知るのが本人の納得する道なのだ。
既婚者を好きになり、不倫関係を持つことだけでも相当のプレッシャーを抱える。
その覚悟に水を差すことはできなかった。
それが、やはりこんな場面を迎えることになって、Tさんの憤りがはじめてまっすぐ男性に向かうのを見た。
「まさか、ここまで女好きとは思わなかったわ。
もう病気じゃないの、アレ」
冷たく笑うTさんの声は、当時の「あの人を信じている」と言い切った自分を正面から否定していた。
「別れたのですよね?」
そう尋ねると、
「うん。
ばか正直に浮気相手が誰かまで話してくれたからね、テレワーク中に同じ会社の女にまで手を出すような男なんて、本当にまっぴらごめんよ」
と、Tさんは憎々しげに言った。
「よかったじゃないですか、本性に気がつくことができて」
そう返したが、今度は無言だった。
「……」
ああ、“本性”はいけなかったか、と焦ったが、Tさんの気持ちは別のところにあった。
「そういう人って、前から言われていたのにね。
不倫して、もうひとり別の女もなんて、私はいったい何だったの?」
ぽつんと落ちた最後の疑問は、後ろめたい関係だからこそ自分なりに男性を大切に思っていたTさんが突きつけられた、虚しさだった。
「……」
不倫はどこまでも不倫でしかない。
やはり、それは言えなかった。
結婚していながら後ろ暗い関係をたやすく選べる男に、誠意など期待してはいけないのだ。
どう切り込んでもTさんは「不倫の相手」以上の存在ではなく、別の女性を選ばれることを責めても、不毛でしかない。
何も報われない。
「こんな男にすら、私は大事にされないのね」
力を失った言葉は、「こんな男を選んでしまった自分への絶望」だった。
Tさんは、夫の不倫が原因で離婚した過去がある。
だからこそ、当事者ともいえるTさんが不倫を“する側”になるのは避けるべきだと思っていたが、「好きになったのだから」と真剣な顔で口にする彼女を見れば、その抵抗は消えるのが人の気持ちなのか、と考えた。
だが、こちらがどれほど真摯に愛しても、相手にとっては不倫でしかない。
配偶者のように責任を負うつながりではなく、隠れて別の女性に手を出せるのも、Tさんの存在は“その程度“の証拠だ。
「不倫相手にすら大事にされない自分」ではない、そんな関係を選んだのは自分であり、みずから価値を落としているだけなのだ。
離婚で相当苦しんだことは少し打ち明けてもらっていたが、その痛みを乗り越えているとしても、不倫で解消できるものは何もない。
「……次は、いい人を見つけましょうよ」
出てくるのはこれくらいの言葉で、何の慰めにもならない自覚はあるが、独身という最大の“メリット“を、もう一度思い出してほしかった。
「うん」
ありがとう、とつぶやくTさんの声は、消え入りそうなほど小さくなっていた。
この記事のライター
OTONA SALONE|オトナサローネ
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