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災害の多い日本に暮らしているなら、いざというときに慌てず行動できるようにしておきたいもの。地域や学校、職場では定期的に避難訓練が行われていますが、災害や緊急時のことを体験しながら詳しく学ぶことができれば、より安心です。防災について体験しながら学べる施設は、実は全国各地にあります。3月11日を前に、筆者は編集部のKさんを誘い、東京・墨田区にある「本所防災館」で防災体験をしてきました。
全国の「防災体験センター」で、防災・救護体験ができる
地震、火災、水害……いつ何時、わが身に災難が降り掛かってもおかしくない災害大国の日本ですが、とはいえ、ほとんどの人は命の危機を感じるような大災害に直面したことがないのでは? 筆者もその1人。東日本大震災時に震度5弱の揺れに遭遇したことと、幼少時に家でぼやが発生したことが最大の被災体験です。どちらも大事には至っていません。
筆者が今回、防災体験センターに行こうと考えたのは、夫が職場の防災訓練の一環で、「立川防災館」で防災体験をし、私にも勧めてきたことがきっかけ。「万一のときに自分がどう行動すべきか判断しやすくなる。一度体験するのとしないのとでは、大げさだけど天地ほども違う」という夫の言葉に突き動かされたのです。
防災体験ができる施設は基本的に消防署など公的機関が運営しているので、誰でも無料で利用することができます。施設名は「◯◯防災センター」「◯◯防災教育センター」「◯◯防災館」などと違いがあり、体験できる内容も施設によって異なるので、行く際は事前に調べて予約の上、出かけましょう。
全国屈指の内容を誇る「本所防災館」で体験ツアーに参加私がKさんと向かったのは東京消防庁・本所消防署に併設された「本所防災館」。展示内容の充実ぶりは全国屈指という施設です。一般の方をはじめ、小中学生の校外学習や企業の研修に利用されたり、外国の防災関連の方々が視察で訪れたりと、平日でも多くの人でにぎわうことが多いそう。
4フロアある館内には、ガイドツアー方式で防災体験できるコーナーと自由に見学できるコーナーがあり、ツアーは1日6回、基本コースとショートコースの2種類に分かれています。私たちは基本コース(地震・消火・煙・応急手当体験+防災シアター)を予約しました。ツアーは防災インストラクターさんによる詳細な解説を交えて進められます。そのため、コース終了時点ではさまざまな防災知識が身に付いた状態になっています。
●基本コース(1時間50分)
4体験(地震・消火・煙or都市型水害・応急手当or暴風雨※)+防災シアター
※暴風雨体験は休止中でしたが、3月11日にリニューアルオープン。
●ショートコース(1時間10分)
2体験(地震・煙)+防災シアター
ツアー冒頭で、20分ほどの3.11ドキュメンタリーを防災シアターで観覧します。被災された方々が撮影した日本各地の震災動画など、今も心震わされるようなシーンが映し出されます。大震災で起こったつらい事実を改めて確認し、さらに地震と津波のメカニズムを学びます。そこで語られた「幾度もの大地震から学んで日本は強くなっていった。備えが大切だ」という言葉が心に重く響きます。
次章以降では、体験して感じたこと、学んだことを印象の強かった順に紹介します。
【体験1・地震】震度7は何もできない。身の安全の確保に専念地震体験コーナーで震度7強を体験しました(下の動画1・2でその地震の強さをご覧ください)。
経験したことのない揺れの強さに抗うことができず、テーブルの下に潜り込むだけで精いっぱい。何もできない状態に恐怖心が襲ってきます。
途中、家具に見立てたスポンジが落下しますが、本物の家具が倒れてきたら確実に人を襲う“凶器”になります。家具の転倒防止対策、さらに、ガラスの飛散対策(飛散防止フィルム・ガラスを踏んでも大丈夫な履物など)が大切だと気づきます。
大きな揺れが発生したら、まずは身の安全を確保することが最優先。揺れが収まったら、火元を確認し、出入り口を確保する(建物の歪みでドアが空けられなくなるのを防ぐ)、電気のブレーカーを落とす(通電後に火災が発生するのを防ぐ)などを必ず行います。
ちなみに関東大震災の教訓から、以前はよく「地震だ、火を消せ」と言われていましたが、強大な揺れの最中に火を消すのは至難の業。消そうとしてやけどをする事例がかなり多かったそう。ガスメーターとIHクッキングヒーターには、震度5以上の揺れでストップする機能があるので、その点は安心です。
【体験2・心肺蘇生】「119番通報&AED」を頼み、心臓マッサージ30回+人工呼吸2回心肺蘇生法の手順を学びました。
ドラマなどで蘇生シーンを見る機会はよくありますが、実際には細かい手順を知らないという人も多いでしょう。筆者もそうでした。特に、家族など大事な人が急に倒れ、一分一秒を争うような事態を想像すると、これは是が非でも知っておくべきことだと強く感じました。
おおまかな手順は次のとおり。
1. 両肩を叩きながら声を掛け、反応を確かめる。
2. 反応がなければ、周辺に大声で助けを求めて119番通報とAED搬送を依頼する。
3. 呼吸を確認し、通常の呼吸がないようであれば、胸骨圧迫(下の動画参照)を30回行う。
4. 人工呼吸ができる場合は、あご先を持ち上げて気道を確保し、胸骨圧迫30回に対し、人工呼吸を2回行う。
(人工呼吸がためらわれる場合は、胸骨圧迫のみで対処)
5. AEDが届いた後、電気ショックが必要な人(AEDが判断してくれる)に使用して心拍を戻す。
ちなみにAEDとは自動体外式除細動器の略称で、心臓が痙攣して血液を流すポンプ機能を失った状態(心室細動)に電気ショックを与えることで正常なリズムに戻す機器。操作方法は機械が音声でガイドしてくれて、誰にでも使える仕様になっています。
【体験3・煙】姿勢を低くして、誘導灯のある扉を目印に出口を目指す火災では炎だけでなく、煙も大敵です。煙に含まれる一酸化過炭素が有害だからです。一酸化過炭素には臭いも色もないため、自覚なく吸収してしまう危険性が高く、ごく微量の濃度で頭痛、吐き気、めまい等を引き起こし、短時間で人を死に至らしめます。
ごく微量ってどの程度かと思ったら、一酸化炭素濃度0.16%の空気を吸い込むと2時間で致死となるとのこと(ちなみに、空気中の酸素濃度は約21%)。一酸化炭素濃度が0.32%だと30分、0.64%だと5〜15分(10~15分や15~30分とも言われます)、1.28%以上だと1〜3分で致死。あっという間ではないですか。何て恐ろしい……。
「初期消火」(炎が天井に届くまでに消火(※))ができなかった場合は、煙を吸い込む確率が高まるので、一刻も早く逃げるべきだそうです。「煙の広がる早さって凄まじいものがあります」とインストラクターさん。煙の充満している所は避け、煙を吸い込まないようにタオル等で鼻・口を覆い、低い姿勢で避難します。煙は空間の上へいく習性があるからです。
※「腰の高さまで」や「身長と同じ高さまで」など目安がいくつかあります
ビルなどの階段付近にある防火シャッターは、他フロアへの延焼を防ぐため、火災発生時に自動で閉まる仕組みになっています。シャッターの近くには避難口があるので、誘導灯を探して避難します。「煙の上がっていく上階でなく下に逃げる、地下にいたら地上に逃げる。階段を移動する際、誘導灯のないドアは、炎や煙を防ぐためのドアなので開けてはダメです」とインストラクターさん。
火災について学んだら、最後に煙体験です。曲がりくねった廊下に見立てた煙体験室に入り、最初は低い姿勢で煙を避けつつ、煙の侵入していないほうの真っ暗な空間では壁伝いに進んで、誘導灯が示す出口を目指します。
体験中、「これがもし実際に起きたら……」「普段行かないビル内で火災が起こったら……」などと想像すると、冷静に煙を避けられるだろうか、真っ暗な中、出口まで進めるだろうかと非常に不安になります。
万一そうした事態に陥ったら、インストラクターさんに教わったこと(煙を吸わない、煙を避ける、白&緑の誘導灯を探して脱出する)を思い出し、冷静に事に当たろうと心に刻みました。
消火器で炎を消す練習をシミュレーターで行いました。
初めての消火器、噴射時間は約45秒(サイズによって差があります)ということで、焦ってうまく火を消すことができず、残念な感じになってしまいました。消火時には「消すんだ!」という気合いをもって臨むこと、消火剤を炎の発生元に正確に当てることが重要だと感じました。
火災は自然災害と異なり、過失で起こしてしまうことが考えられます。自分で防いだり抑えたりすることが可能な災害なので、初期対応が非常に重要だと感じました。
近年、台風や集中豪雨等による水害が頻繁に発生しています。今回は体験しませんでしたが、本所防災館には都市型水害体験と暴風雨体験コーナーもあります。
筆者は、風速25m/sの暴風体験を「襟裳岬(えりもみさき)風の館」で体感したことがあるのですが、まっすぐ立つこともできず、声も出せない風の強さに脅威を感じました。風速がさらに強烈に、さらに豪雨まで加わってとなると、どうなるのか興味津々。3月11日にリニューアルオープンするので、次回はぜひ体験したいです。
今回、地震・心肺蘇生・煙避難・消火について体験し、対応方法を学んだことで、断片的には知っていた防災知識や対応方法などを大局的に把握できて、万一の場合に自分がどう行動すべきかが少し分かってきました。
東日本大震災から6年。この機に改めて、家族で防災対策を考えてみる人は多いのではないでしょうか。災害にいつ遭遇してしまうか分からない国土に住んでいるからこそ、防災を学ぶことはとても大切なこと。体験してみて、「防災を学ぶことは命を守ることだ」と実感できた日となりました。
体験しているのとしていないのとでは、対応に大きな差が生じるはず。体験センターで気軽に楽しみながら防災を学べるのは良いことです。皆さんも家族で出かけてみませんか。
●取材協力この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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