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後ろ指をさされる関係とわかっていても、やめられない不毛なつながり。
不倫を選ぶ女性たちの背景には何があるのか、またこれからどうするのか、垣間見えた胸の内をご紹介します。

Dさんがカップに指を伸ばしたのを見て、
「でも、その人と付き合うなら不倫はやめないと」
と、強い口調で言ってみた。
そんなことは本人が一番よくわかっていることだけれど。
「旅行の約束なんか、キャンセルしちゃえばいいよ。
好きな人ができたって正直に言えば、向こうも追ってはこないでしょ」
それが不倫なのだ。
独身側が「まともな恋愛」を手にする機会を邪魔できないのが既婚者側なのだ。
Dさんが抱えているのはおそらく罪悪感だろうと思いそう言うと、Dさんが顔を上げた。
こちらを見返した彼女の瞳には、今日はじめて目にする光があった。
「今日ね、これから彼と会うんだ」
「え?」
唐突な言葉に面食らって聞き返すと、
「その後で、マスターとご飯に行く約束もしているの。
私、ふたりの男とコソコソ会っていて、何しているのだろうってずっと苦しくて。
何か、勇気が湧いてきた。
ありがとう」
Dさんは早口にそこまで一気にしゃべると、手に持ったカップの中身をぐっと飲み干した。
「え、ちょっと待ってよ」
帰り支度の気配を感じて慌てて言うと、Dさんはテーブルのソーサーを見つめながら
「どちらとも、なんて、無理よね。
それは願ってはいけないことよね」
とつぶやいた。
「……」
それが本音なのか。
帰るのかと思ったDさんは、カップを戻すとまた黙り込んだ。
上がった両肩から緊張していることが伝わり、この言葉を一番言いたかったのだと気がついた。
「……」
力が抜けて、「どちらとも関係を続けたいなら、私は止めないけれど」と静かに言うと、彼女はゆっくりとこちらを見た。
「二股なのに?」
強張った表情は、責められるのを恐れているようだった。
既婚者との不倫と、独身男性との普通の恋愛。
その両方を手にしていたいと思う自分の異常さが、よくわかっているのだ。
「二股でも何でも」
視線を外し、自分のカップの中を覗きながら続けた。
「責任を取るのは自分だからね」
冷たい響きだと自覚できたが、そうとしか言えなかった。
「不倫は無理」、電話で彼女はそう口にした。
好きな人ができたから不倫相手とは別れたいと、この時間の最初に言った。
背中を押してほしくて呼び出されたのかと思っていたが、彼女の本音は正反対のところにあった。
それなら、選択は彼女に任せるしかない。
「あなたがこう言ったじゃない」と責任転嫁されるのを避けるには、続けろとも止めろとも言わず、彼女の本音を受け止めるだけが最善なのだ。
こちらの態度が変わったことに気づき、Dさんから出たのは
「軽蔑するよね、不倫もして別の男とも付き合うとか」
という、自嘲とも投げやりとも取れる言葉だった。
「……」
どうでもいい。
軽蔑なんてしない。
問題はそこじゃない。
「昔さ」
ぽんと出た言葉だったが、Dさんの体がびくりと揺れるのが視界に入った。
「好きな人ができないって悩んでいたことがあったよね」
「……」
「好きな人って、どんな存在なのだろうね」
淡々と続けながら、テーブルの隅に置かれた伝票に視線をやった。
「……」
Dさんは黙ったままだ。
「さっき、その人と付き合うなら不倫はやめなよって言ったけど、あなたの本音が違うなら聞く必要はないからね」
以上。
伝票をつかんで立ち上がり、会計を済ませてドアを開けながらテラス席に目をやると、入ってきたときと同じくぼんやりと背中を丸めるDさんの姿があった。
不倫している人を「やめておきなよ」と止めることはあるが、このケースは別だった。
本人に自覚がないまま間違った道を進んでいるのなら、口を挟むのが冷静を取り戻す手段になるかと思うのだが、本音を隠したままで選択をこちらに委ねようとする人は、何の覚悟も持っていない。
Dさんは、おそらく最初の電話で言った通り、不倫をやめる方向に気持ちは流れていたはずだ。
だが、いざ他人からそれを強く勧められると、抵抗する気持ちが湧くのだ。
本音は違うからだ。
それを手放したくないから、土壇場で正反対の言葉が飛び出す。
本当は別れたくないし、新しくいい関係になった男性とも何とか付き合っていきたい。
こんな汚い願望を人に知られたくないと思う一方で、知られた上でどうすればいいかアドバイスがほしい。
せめて素直にそう言ってくれていたら、「不倫相手とは別れるべき」とはっきり言葉を返せるが、本音をこちらに汲ませて選択まで求めるのは、フェアじゃない。
それは依存だ。
その姿勢が、不倫でも恋愛でも出てくる。
泥沼と想像がつくはずなのに答えが出せない時点で、責任を取る覚悟など持っていないのだ。
人間関係はどこまでも自己責任であり、その自覚が自分にとって正しい選択をさせる。
アクセルを踏みながら、Dさんが納得のいく道を歩めるよう、祈るばかりだった。
この記事のライター
OTONA SALONE|オトナサローネ
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