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「田端駅」と聞いて、みなさんは何を思い浮かべるだろうか? 首都の中心を走るJR山手線沿線でありながら、やや知名度が低く、新宿や品川、上野などに比べるとやや地味な印象が否めない田端。そんな田端の現状を憂い、何とかスポットライトを当てようと活動しているのが地元出身の櫻井寛己(さくらいひろき)さん、27歳。生粋の「田端っ子」である櫻井さんに地元を案内してもらいながら、その魅力を聞いてみることにした。
「僕には田端しかない」櫻井さんのあふれる田端愛
山手線の上のほうにある田端駅。SUUMO住みたい街ランキング2017年版では100位にも入っていない。しかし、「穴場だと思う街(駅)ランキング」では7位に食い込んでいる。じつは田端、じわじわ来ているのだろうか?
「そう、田端はもっと評価されていいはずなんですよ!」
そう力説するのが、こちらの男性。田端をテーマに活動している櫻井寛己さんである。田端に特化したWEBマガジン『TABATIME』の運営や、田端をテーマにしたLINEスタンプの制作など、田端の啓蒙(けいもう)にいそしんでいる。
今回は、そんな田端大好き櫻井さんの活動を聞きながら街を散策してみた。知られざるその魅力がきっと見えてくるはずだ。
待ち合わせ場所に指定されたのは「テラス」というお店。櫻井さん宅から徒歩「5歩」の喫茶店だ。
こちらのお店では決まって、ランチ限定のワンプレートをオーダーするとのこと。
―― まず、お聞きしたいのですが、櫻井さんは何者なんですか?
「仕事はコンビニの店長ですね。うちは元々、曽祖父の代から田端に住んでいて、最初は魚屋さんだった。そこからレストラン、コンビニと、時代とともに業態が変わって今に至ります」
―― コンビニの店長がなぜ田端の広報活動をしているんですか?
「そもそものきっかけは3年前。何か面白いことを発信したいと思って『やってみたいことをやってみる協会』というのを立ち上げました。でも、そこで何を発信しようかと考えたときに、自分にはこれといった趣味もないし、武器といったら田端しかないなと。それで田端に特化した『TABATIME』を立ち上げたり、田端をテーマにしたLINEスタンプをつくったりするようになりました」
地元民に聞く!「田端の魅力ってなんですか?」さっそく櫻井さんに田端の魅力を教えてもらおうと思ったのだが、彼は田端を愛しすぎているため、客観的に評価するのは難しいかもしれない。まずは冷静な意見を述べてくれそうな大人に聞いてみよう。
そこで、「テラス」のマスターに伺ってみた。田端の魅力ってなんですか?
すると、「今の田端には魅力はないねー」と満面の笑顔。代わりに、「昔の田端」の魅力を語ってくれた。
「バブルのころなんて周りは工場地帯だったからお客さんは多かったし、みんな羽振りが良くてね。ホステスさんなんて、新聞を読み終えたらお釣りはもらわないで帰るんだよ。格好良かったな」
なるほど、それはいい話だが、知りたいのは「今の田端」の魅力である。
……気を取り直して、次の店に移ろう。
続いて訪れたのは櫻井さんが小さいころ、おつかいに行っていた「鈴木豆腐屋店」。
せっかくなので、「鈴木豆腐屋店」のおかあさんにも田端の魅力を聞いてみよう。田端、好きですか?
「私は葛飾区生まれだから葛飾のほうが好きだね」
……なかなか田端の魅力が出てこない。櫻井さん、いったいどうなってるんですか?
「まあ正直なところ、田端の魅力を言葉で表現するのって難しいんですよ。コレっていうものがあるわけじゃないから。でも、改めて考えると、良さがたくさん見つかると思う。
まず、下町の名残があって人が温かい。小学校の運動会とはべつに街の大人たちが参加する運動会もあったりして、地域のつながりを感じますね。田端って横の結びつきを大事にしているから、自営業が多く生き残っているんだと思います。
あと、健全な街ですよね。駅前に夜遅くまでやっているお店が数軒しかないのは少し不便だけど、キャッチのお兄さんもいないし、ラブホやキャバクラもない。だけど、スナックはたくさんある。それも田端らしさかな。
アクセスも山手線と京浜東北線が使えて便利です。実は田端駅以外にも尾久駅も近いし、京成線や舎人ライナーも使えますしね。ほかにも……」
何かを取り返すかのように魅力を語る櫻井さん。確かに田端は山手線沿線では家賃も手ごろ(ワンルームアパートの家賃相場は7万円を6万円)で、静かな雰囲気もいい。住み心地は抜群に良さそうだ。実際、近年はマンションの数が増え、人口も右肩上がりだという。
老舗おもちゃ屋さんは小学生のたまり場続いて、やってきたのはおもちゃ屋兼駄菓子屋の「ぐぅふぃー」。田端民に長年愛される老舗のおもちゃ屋さんだ。
―― ここには櫻井さんもよく通われたんですか?
「よく来てましたね。駄菓子も好きだったけど、夢中になったのはカードゲームだったかな」
この日も、店内は学校終わりに寄り道をする小学生たちであふれていた。ゲームをやるわけでもなく、おもちゃを買いに来たわけでもなく、ただ駄菓子を食べながらまったりしている。そういえば、こういう小学生のたまり場って、最近はあまり見かけない気がする。
長年、田端に住んでいるというトシちゃんにも田端の魅力を聞いてみた。
「まぁ悪い人がいないよね。だから大物も出てこないんだけど(笑)。ここで50年以上やってきて毎日のように子どもを見てきたけど、良い子が多い。それは今の田端の治安につながっているんじゃないかな」
櫻井さんの「タバタドリーム」とは?最後に櫻井さんに聞いてみた。今後、どんなふうに田端を盛り上げていきたいですか?
「とりあえず、今は『TABATIME』を、“街の回覧板”にしていきたいと思っています。回覧板って元々地元にいる人は見る習慣が残っているけど、マンションとか一人暮らしの人ってあまり見ないじゃないですか。それだと昔から住んでいる人にしか地域の情報が伝わらない。
今、せっかく街に新しい人が増えているので、改めて田端を知ってもらう回覧板のような『地域のための媒体』を目指したいです。それから、今後はネタ系記事も増やして全国的に田端という街を知ってもらい、住むきっかけにしてほしいですね。
マイナーということはネガティブにとらえられがちだけど、それってじつは大きな武器だと思うんですよ。だって、逆に考えたら伸びしろがあるとも言えるからね」
今回、一緒に散策をしてみて分かったことは、田端に暮らす人々の雰囲気の良さ、温かさである。地元を過度に誇ることもせず、若干自虐的にとらえつつもこの街を離れられないのは、そんな人たちがつくり出してきた居心地の良さがあるからなのだろう。
実際、櫻井さんの活動に対しても地元の人々は協力的だという。今回巡ったお店も、田端のPRになるならと快く取材に応じてくれた。
東京生まれには「帰る場所」がないなどと言われることもある。だが、田端が醸し出す空気感はまさに「ふるさと」のそれだった。
●取材協力この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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