/
神奈川県相模原市藤野。自然豊かな地域のなかでも一層山深い“限界集落”に、ひときわ目をひく珍妙な建物がある。廃棄予定の木材や古タイヤ、トタンなどをかき集めてつくった異空間「廃材エコヴィレッジゆるゆる」だ。「廃材」といっても、残念な貧乏くささは感じられない。外観からしてカッコよく、男心をくすぐる秘密基地感にあふれている。足かけ3年、ほぼ一人でこの場所をつくった人物に話を聞いた。
廃材のみでつくられた、遊びゴコロ満載のヴィレッジ
なにはともあれ、まずは建物をご覧いただきたい。
上が昨年の秋ごろの写真。
ここからさらに進化して、現在はこうなった。
まるで子どものころに空想していた秘密基地を実体化したようなたたずまい。この板の配置、色合い、外観を眺めているだけでワクワクさせられる。
さらにじっくり見ていこう。
一方、こちらは物置。
物置の脇には階段が掛けられ、そのまま母屋の屋根へとつながっている。建物自体がアスレチックのようになっており、登ったり降りたり、立体的に遊べるのが楽しい。子どもたちも喜びそうだ。
廃工場を300万円で買ってリノベーションこんなイカレ……もとい、すてきな空間をつくったのは、いったいどんな人なのだろうか?
彼の名前は傍嶋飛龍(そばじまひりゅう)さん。元々絵描きで今は万華鏡作家。そして、この「廃材エコヴィレッジゆるゆる」のオーナーである。25歳から藤野在住。2013年にもともと廃工場だった物件を300万円で買い取り、3年がかりで自らリノベーションしたという。
「大きなオモチャを手に入れた感じ。まだ内装が全然できていないんだけど、一通り設備が整ったら仲間で使えるシェアスペースにしようと思ってるんだよね。イベントをやったり、ゲストハウスみたいに使う感じかな。オープンのメドは来年の春くらい。でも、去年も一昨年も『来年の春にオープンする』って宣言して結局できていないから、また延びるかも(笑)」
そう語る飛龍さん。なんとも自由な空気感を漂わせる人である。「勉強は全然できなかった。というか、やらなかった。教科書重いから学校に持っていかなかったし」という言葉どおり、子どものころからずーっと遊んで生きてきたような雰囲気がある。それでも、なんというか、「生きる力」みたいなものが全身からみなぎっている。こんなオトナになれるなら、ランドセルはスカスカでもいいのかもしれない。
「未完成」だという母屋の内部も見せてもらった。
大工仕事は「絵を描いている感覚」なお、飛龍さんに大工仕事の経験はなく、完全なる自己流。手に入った廃材からインスピレーションを働かせ、思いのままに組み立てている。素人なのに感性だけでここまでのものをつくってしまうとは、さすがアーティストである。
「自分のなかである程度のビジョンはもっているんだけど、基本的にはその場のひらめき。つくってはひらめいて、またつくっての繰り返しだから。それって、どこか絵を描いている感覚に似ている気がする。即興だからこそ、想定していないモノが出来上がったりもして面白いんだよね」
「初めは材木の釘抜きやサイズ調整から始まったんだよ」。飛龍さんが話すと楽しそうに聞こえるが、実際に自分がやると考えると恐ろしい。3年あまりもモチベーションを維持できる情熱はどこから来ているのだろう。
「もちろん、この場所を使っていろいろやってみたいという目標はあるよね。俺は藤野という地域、コミュニティを大事にしていて、ここを仲間と楽しく遊ぶ基地にしていきたいというのもあるし、あとは『お金のかからない生活』の研究をしていく拠点にもなると思う。いずれは、ギャラリーをつくってアーティストの発信の場にしたり、親子向けの合宿なんかもやってみたい。価値のない廃材から価値を生み出していけるような、そんな場所にしていきたいよね。まあ、結局は遊び場なんだよね。エコとかって真面目に考えすぎると続かないけど、遊びにしてしまえば持続可能性があると思うから。だから俺も、飽きずに続けられてるんだと思う」
「天才」のまま大人になった当面は仲間内でのシェア利用を考えているが、いずれはFacebookなどで参加者を募り、地域外の人と交流を深める場所にしていきたいという飛龍さん。となると、ますます完成が待ち遠しいが、来春、本当に予定どおりオープンできるのだろうか?
「たぶん(笑)。ただ、来年の春にオープンとは言ってるんだけど、それで『完成』ではないんだよね。むしろ完成はない。外だってこれで満足しているわけじゃなくて、受付用の小屋もつくりたいし、敷地全体を囲う『城壁』みたいなものをつくって要塞感を出したいんだよね。やりたいことが山ほどあって、まだ20%ぐらいしか実現できてないんだよ。それに何年か経てば、逆にどこかが壊れ始めたりするだろうし。でも、それで良いと思う。不完全さが完全、みたいな」
「シュヴァルの理想宮って知ってる? フランスにある有名な“奇怪建築”なんだけど、あれって完成までに33年かかっているんだよ。そう考えると俺なんて始めて3年だから、まだまだだよね」
そう言って笑う飛龍さん。自ら「変態建築」と語るこの場所は、既成概念にとらわれない彼の生き方をそのまま表現しているように思えた。だからこそ、見る者をこんなにも魅了するのかもしれない。
インタビュー中、飛龍さんは「子どもって、誰でも天才なんだよ」と語っていた。廃材エコヴィレッジにはそんな子どもの遊び心、自由な発想力、抑えられない制作意欲、先が分からないワクワク感が詰まっていた。この場所をベースにした飛龍さんの「遊び」は、きっと一生続くのだろう。
●取材協力この記事のライター
SUUMO
172
『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
ライフスタイルの人気ランキング
新着
カテゴリ
公式アカウント