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後ろ指をさされる関係とわかっていても、やめられない不毛なつながり。
不倫を選ぶ女性たちの背景には何があるのか、またこれからどうするのか、垣間見えた胸の内をご紹介します。

「写真……」
目を見開いてつぶやくKさんからは、こちらの言葉に意表を突かれたことが伝わってきた。
「うん?」
コーヒーのカップを戻しながら聞き返すと、
「そうね、写真か……。
うっかりしていたわ」
シフォンケーキのかたまりに刺したままのフォークを置いて、Kさんがこちらを見た。
「え?」
「友達と行くって、その友達と一緒に写った写真を見せられない」
「ああ」
それは、その友達に見られたら恥ずかしいと言われたから出せないとか適当な言い訳ができるだろう。
そう言おうとすると、
「その子ね、夫も知っている子なの」
と、緊張した響きで言葉が飛んできた。
「……」
ということは、「友達」の事情でふたり一緒の写真は隠す、は難しいのか。
おそらく今はじめてその事実が意味することに気がついたのだろう、Kさんは身を固くして黙り込んだ。
「スマホの電池が切れちゃって、写真を撮れなかったの」
「別にあの子と一緒のやつなんて、見なくてもいいでしょ」
「あんまりいい写りのものがなくて、あの子に見せないでって言われているの」
ないものをあえて見せずに済ませる言葉は思いつくが、どれも夫が「それでも見たい」と言えば詰む。
ふたりともスマートフォンの電池が切れていたなんて、観光地ではありえない。
Kさんはそんな“うっかり”をするタイプではない。
「……」
Kさんは無言で考えている。
夫も知っている友達と行くと言った手前、ふたりで写っている写真は「見せることができて当たり前」なのだ。
写真を隠すことに不審感を持たれて本当は誰と一緒だったのか追求が始まれば、逃げることはできない。
ここで不倫相手ではなくまた別の誰かを用意しても、「家族に嘘をついて誰かと旅行に出かけた」、この事実で家族の絆に大きなヒビが入る。
なぜ、気が付かなかったのか。
「どうしようか……」
小さなつぶやきには、「見せずに済む方法」「あやしまれない言い方」がないことへの焦りが滲んでいた。
夫や家族に嘘をつくのなら、その後始末まで手を回しておかないと、追い詰められるのは自分なのだった。
「あのさ」
言わないほうがいいのかとも思ったが、不安なことはここで整理するべきかと思い直して、恐る恐る口を開いた。
黙ったまま顔を上げたKさんの表情には、最初に不倫相手と旅行に出かけることを打ち明けたときとは正反対の、焦りと不安に支配された暗さが張り付いていた。
「その、お友達には、ちゃんと了解を取っているんだよね?
名前を使うよって」
低い声で続けるこちらの言葉に、ほうと息を吐いて「それは大丈夫、うん」と短く答える。
その友達は独身でKさんの不倫を知っているらしく、今回の旅行も「私と行くことにすれば」と向こうから提案してくれたそうだ。
「……へえ、そうなんだ」
何とも複雑な気分でそれだけ返したが、「友達の不倫旅行に自分の名前を貸す」ことのリスクを、本当に理解しているのだろうか。
実は別の既婚男性と旅行に行っており、それを知っていて自分の名前を使わせたことがKさんの夫にわかれば、それなりに責めを負うだろう。
「夫も知っている友人」は、心理的な近さが安心につながる一方で、ネガティブなことでは「悪いことを応援していた人」として一気に印象は下がる。
バレないなんて保証はどこにもないのに、万が一を考えない底の浅さは、やはり罪悪感がないからなのだと思った。
その適当な設定で不倫相手と旅行に出かけるうかつさが、写真のような小物で破綻する。
嘘をつくことの代償は大きく、また影響も自分の予想以上に広いのだ。
「……」
Kさんは意気消沈した様子で、フォークが刺さったままのシフォンケーキを見つめていた。
家族からすぐにOKをもらえて簡単に進むだろうと思っていた不倫旅行が、「その後」でつまずく可能性を、出発ギリギリの今になって思い出しているのだ。
二年の間、家庭と不倫とうまくやってきたと思っているのは自分だけで、実はほかにも穴があったのではないか。
無言には、おそらくこちらと同じ不穏さを感じているのが伝わってきた。
本当に夫を騙せているのか。
ここまでたどり着くと、不穏は一気に「取り返しのつかない現実」への不安に変わる。
罪悪感に苦しむことなく100%楽しめる不倫など、この世にはないのだ。
油断が招くのは自分と不倫相手の破滅であり、それがいつ訪れるのか、実は気がついていないだけなのか、いまKさんの全身を襲うのは猛烈な焦燥だった。
この記事のライター
OTONA SALONE|オトナサローネ
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