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私の中国語は、ちゃんと上達しているんだろうか?
語学のみならずスポーツや料理など、何かの技術を身につけようとしている人は、ある程度経験を積むと、自分の成長を感じられなくなる時期がやってくるようだ。
2012年1月頃、私はちょうど、その時期にさしかかっていた。
中国語を学び始めた当初は、見るものや聞くこと、すべてが新鮮。毎日新しい単語や文法を覚えては、すぐに実生活で役立てて、日々の進歩を鮮明に感じることができた。
しかし一旦、基礎を身につけて応用編へとステップアップする頃になると、中国語に対する新鮮さは薄まってしまう。なおかつ、自分自身が成長しているという手応えも、段々と鈍くなっていく。
例えるならば、海の中へと歩いていくような感覚。
浅瀬での水位は足首くらいだったのに、沖合に進むにつれて、ふくらはぎ、おへそ、胸のあたりへと、どんどんと水位が上がっていく。海面が上昇することで、前へ進んでいるという実感もある。なのに頭の上まで水中に入ってしまうと、自分が前へ進んでいるのか、深く潜れているのかが分からなくなってくる。
そんなシチュエーションと似ている気がする。
台湾に渡って9カ月間、語学学校で学んだ甲斐あって、日常生活で困らないレベルの中国語を習得することはできた。具体的には、レストランに電話をかけて予約ができたり、タクシーの運転手さんに行き先を聞き取ってもらえるようにもなった。
とはいっても、台湾人3人以上と同時に会話をすると早口になるため聞き取れないことも多いし、テレビを漢字字幕に頼らずに理解するのも、まだまだ難しい。
そんな頃、私にショートムービー出演の話が舞い込んできた。
台湾芸能界では、お仕事の話が急に入ってきて、今日オーディションに行って来週撮影!みたいなドキドキするスケジュールのものも案外多い。だが今まではCMやミュージッククリップの撮影だったため、中国語のセリフがあったとしてもそこまで多くなく、なんとかこなしてきた。
しかし今回はショートムービーとあって、セリフもそれなりの量。しかも聞けばヒロイン役に挑戦するとのこと。
マネージャーに「明日オーディションだから」と言われた次の日、何の準備もせずに監督とご対面。
オーディション会場でもCM広告とは違い、セリフを言わされたり、即興劇を演じさせられることもない。世間話を15分くらいして、スタッフさん達と挨拶をしただけ。なのに翌日、ヒロインに決まったという連絡があった。
驚くほどとんとん拍子に話が進んだが、聞けば監督は以前に私が出演していたCMを見て、ヒロインのイメージにぴったりだと決めてくれたそうだ。
思いも寄らぬ展開に喜びに浸る間もなく、ドラマの台本が届けられた。
1話12分、全10話で計120分間にわたる、大学生のドタバタラブコメディーだ。
台本は、もちろんオール中国語。セリフもト書きも中国語で書かれている。
私がヒロインと決まった時点で、役の設定は日本からの交換留学生ということに微調整。なので、独り言は日本語にしてもいいよ、と言われたが、その日本語は自分で訳してね、とのこと。
いつかは台湾でお芝居に挑戦したい!というのが、台湾に出合ってからの私の大きな目標の1つだったのだが、まさか、こんなに早くチャンスがやって来るとは……。
戸惑いつつも、それよりも大きかったのが嬉しさや興味、好奇心。なんとしてもやってやるという思いで撮影開始までの1週間、台本と辞書にかぶりつきっぱなしだった。
撮影が行われた場所は台湾西南部にある大都市・高雄。約3週間のオール高雄ロケだ。
初めて乗る台湾高速鉄道・高鐵で約1時間半かけて、台北から高雄へと移動。
ちなみにこの高鐵、日本の新幹線と瓜二つで、日本人にはとても親近感が湧く造り。なんでも、日本の新幹線車両設備が初めて海外に輸出・導入されて誕生したのが台湾高鐵なんだそうな。
撮影時期は真冬だったものの、ドラマの設定が真夏だったため、衣装はほぼ半袖かノースリーブ。常夏の島だと思われがちな台湾だが、実は、冬の台北は体感温度なら日本と同じくらいの寒さ。湿度が高いため、気温は低くなくても寒く感じるのだ。
寒がりな私は貼るカイロをたくさん準備して高雄へと向かったが、心配はまったく無用だった。
高雄の太陽は冬でもでっかく照りつけていた。昼間は風が吹かなければ、真夏みたいな暑さ。油断すると、うっかり日焼けしてしまいそうになる。立ち並ぶヤシの木や広々とした道路も南国感満載。同じ台湾でも、台北とはまったく違う趣を持つ第二の大都市。それが高雄だった。
高雄では街中でも、中国語よりも台湾語を話す人が多い。あたりに漂うローカル感が心地よくて、撮影終了後も残って旅をしてみたいなぁ、とこっそり思ってしまったほど魅力的な土地だった。
【麻梨子的台湾案内⑥ 高雄/真愛碼頭】
名前は“
愛の桟橋”
という意味。湾の向こうには高層ビルが立ち並ぶビュースポットです。
ドラマの撮影で訪れた「真愛碼頭」。この周辺は高雄の人気観光地「愛河」や高層ビルが一望できるデートスポットとしても有名。夜はライトアップされて日中とは違った表情を楽しめます。
日本でも放送された『痞子英雄』(ブラック&ホワイト)、『轉角*遇到愛』(ホントの恋の見つけかた)など、有名な台湾ドラマでも、よく登場するスポット。ドラマを見た後で、ロケ地巡りに行ってみては?(麻梨子)
<アクセス方法>
住所:高雄市鹽埕区公園二路11号
アクセス:高雄MRT橘線「鹽埕埔」駅下車、徒歩13分
【Profile】
大久保麻梨子(おおくぼ まりこ)
1984年9月7日、長崎県生まれ。
2003年に「Sea Story Audition 2003 マリンちゃんを探せ!!」で初代グランプリを獲得し、芸能界デビュー。グラビアアイドルとして活躍する。2008年、女優業をスタート。CMやドラマ、映画で活躍するのと同時に、写真集を計9冊出版。
2011年、台湾に移住。中国語を学びながら、台湾の芸能界でタレント・女優として活動開始。2013年、日本人として初めて、台湾最大規模のテレビアワード「第48回金鐘獎」テレビ映画部門 最優秀助演女優賞に輝く。2016年TV連続ドラマ「幸福不二家」では主演を務めた。現在は次作ドラマの「四月望雨」を絶賛収録中。
目標は女優として幅広い役に挑戦することと、台湾アンバサダーとして日本と台湾の橋渡しをすること。
Text 大久保麻梨子
*次回は4/9(日)掲載予定です。
※文章・画像の無断転載はご遠慮ください
大久保麻梨子 公式Instagramアカウント→
@marilog0907
MANAGEMENT : CHEERS MANAGEMENT CO.,LTD.
AGENT : OFFICE303 ENTERTAINMENT
www.office303.jp
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