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「火災保険」。そのカバー範囲は名前から想像できぬほど広い。前回、台風被害でも火災保険が適用されることを紹介したが、壁にうっかり穴を開けてしまった場合も対象かもしれない、ってご存じでしたか? わが家の壁も最近子どもが穴を開けてしまったばかり……。真偽のほどを確かめに、大手損害保険のMさんに火災保険についていろいろ教えていただいた。
壁に穴があいちゃったんですけど…、ズバリ補償されますか?――かなり初歩的な質問ですみません! 壁に穴をあけてしまった場合も、火災保険で補償されると聞いたのですが、本当ですか?
はい、タイプにもよりますが対象の範囲内です。「火災保険」という名前からは想像しづらいかもしれませんが、火災保険は火災以外にも、「風災」「水災」「盗難・水漏れ等」「破損等」を補償範囲としています。壁の穴は「破損等」に入りますので、そこまでを補償するタイプに加入している場合は、対象の範囲となります。加入している保険商品によってタイプはそれぞれあると思うので、補償内容を確認していただきますようお願いします。
――タイプにもよるけれど、「火災保険」が「壁の穴」まで補償するというのは本当なんですね。補償されるかどうかを決める条件などはありますか?
簡単に申し上げると、「故意」ではない「事故」であることがポイントになります。
【画像1】5つのリスクに対してどこまで補償するか選べる。破損等リスクには「うっかり」が2カ所にわたって表記されている(出典:東京海上日動火災保険「住まいの保険」パンフレットより抜粋)
【図1】保険料はマンションか一戸建てか、一戸建てでも耐火構造かで大きく異なる。また、破損等を含むかどうか、建物のみ、家財のみなどでも異なる(東京海上日動火災保険「住まいの保険」HPを参考にSUUMOジャーナル編集部で作成)
――わが家は賃貸なのですが、まさに先日子どもがうっかり壁に穴を開けてしまいまして……。賃貸の場合だと持ち家と何か違う点がありますか?
はい、少し違いがあります。保険に入る場合、「建物」補償と「家財」補償があり、対象を建物のみ、家財のみ、両方にするかはお客様に選んでいただいていますが、建物は大家さんが所有者であり、建物と家財で所有者が異なりますから、賃貸の方が入る保険は基本的に家財のみが一般的です。
壁は「建物」になりますので、大家さんが入っている火災保険で手当てをするか、または、入居者が入る火災保険で一般的にセットされている「借家人賠償責任リスク」を補償するような保険や特約で、補償することになります。
部屋を借りた人は、元の状態に戻して返さないといけない、という原状回復義務があるので、壁の穴もそうですし、建物部分を損傷してしまった場合に備えて、この借家人賠償責任補償の保険にご加入されることをお勧めしています。まずは大家さんまたは不動産会社に相談してみるのがいいでしょう。
どうして「火災保険」という名前なの?――ちなみに、「火災保険」なのに、風災や水災などさまざまなリスクに備える保険だということは分かったのですが、そもそもそれなら、「火災保険」という名前じゃない方がいい気がするのですが……
火災保険は元々火災リスクのみを補償していたのですが、徐々に補償が拡充し、住まいのリスク全般を補償する今の形になりました。「火災保険」はその名残です。昔は木造の建物が多く火災リスクがとても高かったのですが、昨今の新しい住宅は不燃材が進化して住宅の防火性能が上がっていたり、火災報知器の設置が義務化されたこともあり、以前に比べれば発生頻度は少なくなっています。とはいえ、火災被害は甚大な事故となりますので火災リスクに備えることは大事です。
一方、火災に比べて最近では、落雷や洪水による被害、泥棒、水道管の破裂、マンションの老朽化による水濡れ被害など、そういった日常の被害の発生頻度が高くなっています。
以前は、どの保険会社の商品も基本的に保険の内容や掛け金が一緒だったのですが、1996年の金融ビッグバン以降、保険の自由化が進み、今では各社各様の商品が提供されています。
ある保険会社では2010年から火災保険を「住まいの保険」という商品に変更して提供しておりますし、各社「火災」というよりは「住まい」を補償する保険ということが分かるような名前になってきているようです。ただし保険の分類上「火災保険」と言っていただいて問題はありません。
また、火災保険を含む損害保険は通常1年更新なのですが、賃貸の場合は賃貸借契約に合わせて2年契約になっていることが多く、住宅ローンの場合は住宅ローン期間に合わせた契約になっていることが多いです。満期がくれば更新時には新しい商品名で契約をしているはずですが、2010年以前に住宅ローンを組んだ方の保険は「火災保険」のままかもしれません。
2015年10月から火災保険の内容が変更、変更ポイントは?――そうだったんですね。賃貸を借りる際や住宅ローンを借りる際も「火災保険」という言葉でやりとりしていたので、商品名が変わっていることに気づいていなくて失礼しました。ちなみに、2015年10月から変更になっている料金と期間について教えてください
はい、10月から各社一斉に火災保険の料金が改定されました。各都道府県で料率が上がったり下がったりと混在しているのですが、料率が上がる原因はおもに台風による水災・風災被害の増加です。例えば台風被害が多い九州は3割近く上がっているケースもあります。
――なぜ各社一斉にあがるんですか?
保険会社が料率を決める際には「損害保険料率算出機構」が出した料率を参考に決めています。各社はみなこの機構に事故データを提供しており、一社だけでなく全社のデータから機構が「参考純率」というものを算出しています。事故データなどは母数が多い方が算出精度が上がるからです。今回「参考純率」が変更となったため、結果的に各社一斉に火災保険の料率を見直したのです。
――では保険期間が最長で10年になったのはどういう理由ですか?
住宅ローンが35年なら、火災保険も35年というのがこれまでの火災保険だったのですが、2015年10月以降の新規契約はすべて最長で10年までとなりました。自然災害についての将来予測において、不確実な要素が多くなってきて、長期のリスク評価が難しくなったということが大きな理由です。
――取材を終えて――
これから家を買う方は住宅ローンが35年だったとしても火災保険は10年契約しかできません。35年などで契約した火災保険は長期のため割引されていたのですが、その恩恵にはあずかれなくなってしまいました。
「保険のプロの方たちが10年以上先の自然災害リスクが読み切れないといっている、こんな時代の、地震の多い日本で、実は私、これから一戸建ての家を買おうと思っているんですがだんだん不安になってきました……」と取材の最後に心情を吐露すると、「リスクに備えるために保険があるんですよ」とMさんは話された。なるほど、確かにそう考えることもできます。
リスクに備えるやり方は、お財布事情にもよるし考え方にもよりますが、火災保険は多くの人(世帯)が加入しているであろう保険。建物や家具が思わぬ被害にあった場合は「火災保険」ならぬ「住まい保険」の存在を思い出し、保険会社や大家さんに相談してみてはいかがでしょうか。
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この記事のライター
SUUMO
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