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ドイツの空き家活用[前編]ドイツ版・家守から学ぶ日本の空き家解決へのヒント

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当記事はSUUMOジャーナルの提供記事です

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ドイツの空き家活用[前編]ドイツ版・家守から学ぶ日本の空き家解決へのヒント

旧式のストーブに石炭がくべられた暖かいアパートの一室。若者たちがバンドのセッションに興じている。ラテン音楽の演奏を楽しむのは、みなこの建物をシェアハウスとして共同生活する留学生を含む若者たちだ。冬が訪れたばかりの中部ドイツの都市、ライプツィヒ東地区にある、数年前には電気も通じていなかった廃墟同然のアパートが活気にあふれている。
ピーク時の6割まで人口減少を経験したライプツィヒ

わが国においても近年、空き家問題がクローズアップされ、行政を含めてその対策に頭を悩ませている。
ライプツィヒにおいては、空き家仲介団体「ハウスハルテン」(hausHalten e.V. 訳:家を守る)が、空き家対策についての活動に取り組んでいる。

ライプツィヒはドイツを代表する近代産業都市である。その栄華を誇ったのは意外に古く、1938年に人口は約71万人とピークに達し、第二次大戦後は一貫して人口が減り続けた。旧東ドイツ時代には、ベルリンに次ぐ第2の都市であったものの、1990年の東西ドイツ統一後、旧西ドイツ地域への人口流出もあり1998年には約44万人と、ピーク時のじつに6割にまで人口が縮小した。

【画像1】ライプツィヒの人口推移 注:2000年の増加は市町村合併による(資料提供/大谷悠)

【画像1】ライプツィヒの人口推移 注:2000年の増加は市町村合併による(資料提供/大谷悠)

人口減少に伴い空き家の増加など都市の荒廃が進んだ。これに対処するため、2000年に新たな都市計画が打ち出された。02年、ライプツィヒ市はほかの旧東独都市とともに10年後のオリンピック招致に向けて都市再生に着手し、その予算の一部は空き家率の高い衰退地域の底上げに使われた。

空き家問題が特に深刻だったのは、19世紀後半から20世紀初頭に建設された市街地(グリュンダーツァイト)や元工業地帯で空き家率が70%にも及んだリンデナウ地区であった。とくに、文化的価値の高い歴史主義建築群である市街地は、東ドイツ時代に適切な補修や改修を行われず放棄されており、ファサード改修や建物のリノベーションが急務であった。

ところが、これらの19世紀末前後までに形成された市街地で、空き家の所有者は大部分がライプツィヒに住んでいない不在地主だという。彼らの多くは、東西ドイツ統一直後に投機目的で不動産を買いあさったが、その後不動産価値がまったく上がらず目算が外れた。地域にゆかりのない所有者たちは、買った建物をそのまま放置した。

行政が建物の改修に補助金を付けたとしても、その後に賃借する居住者がついて家賃収入を見込めなければ、投資を回収できないので、建物の改修や保全に興味を示さない。

「使ってもらって建物のケア」を目指した家守事業

所有者による一部改修資金負担を期待していては、改修実施の目処はまったく立たない。そのため、考え方を変えて、空き家となった建物が現状以上傷まないように最低限のケアをしてくれる人に建物を「使ってもらうこと」を検討した。

この「利用による保全」を基本方針に掲げて、2004年に空き家仲介団体・ハウスハルテンが市の職員や学生らによって設立された。2005年、リンデナウの空き家所有者と交渉して、家賃を無料にして利用者を募集した。アトリエを探していたアーティストや格安のオフィスを探していた起業家が集まり、これが最初の「家守の家(Wächterhaus)」となった。2016年までに45棟ほどが仲介されてきた。

「家守の家」のしくみ(画像2を参照)は、所有者と利用者(=家守)双方にメリットがある。所有者は、建物の維持管理を免れ、家守にいてもらうことで自己負担なしにヴァンダリズム(破壊行為)による建物へのダメージを未然に防ぐことができる。また5年間の契約期間内にその建物にどれくらいの需要があるか検証することができ、その後の投資を考えるうえで目安にできる。一方で、家守は、原則家賃負担なしで活動できる空間を得られる。「家守の家」では利用者が好きなように空間を改変でき、いわゆる現状回復義務はない。

【画像2】家守の家のしくみ(資料提供/大谷悠)

【画像2】家守の家のしくみ(資料提供/大谷悠)

【画像3】市内にあるハウスハルテンの事務所(写真撮影/村島正彦)

【画像3】市内にあるハウスハルテンの事務所(写真撮影/村島正彦)

家主の意向によって賃貸契約の期限が決まる「増改築ハウス」

最初に紹介したアパートは、ハウスハルテンのしくみをさらに発展させた「増改築ハウス(AusBauHaus)」という試みだ。

「家守の家」が5年の利用期限付き、しかも居住を前提としていない。これに対し「増改築ハウス」は、家主の意向によって期限付きないし無期限で通常の賃貸契約を結ぶことができる。所有者と利用者の双方が、居住を含む長期的な視点で建物の利用計画を立てられる仕組みになっている。「家守の家」同様、屋根の防水と基本的な設備系統以外、補修・改修工事は利用者の責任範囲だという。

実は、筆者は2013年6月に、この増改築ハウスを訪れており、そのときは居住者がみんなで大改修に取りかかっている最中だった。建物に電気も通っておらず、隣の建物から電気をもらいながら作業をしていたのが印象的だった。再生工事の真っ最中の部屋に、ベッド代わりのマットレスが無造作に置かれ生活する学生たちの生命力のたくましさに舌を巻いた。

【画像4】居住者たちがセッションを楽しむリビング。写真左:3年前の改修中。写真右:現在(写真撮影/村島正彦)

【画像4】居住者たちがセッションを楽しむリビング。写真左:3年前の改修中。写真右:現在(写真撮影/村島正彦)

【画像5】シェアハウスの寝室。写真左:3年前の改修中。写真右:現在(写真撮影/村島正彦)

【画像5】シェアハウスの寝室。写真左:3年前の改修中。写真右:現在(写真撮影/村島正彦)

【画像6】浴室。写真左:3年前の改修中。写真右:現在(写真撮影/村島正彦)

【画像6】浴室。写真左:3年前の改修中。写真右:現在(写真撮影/村島正彦)

日本でもNPOが核となり空き家をマッチング

人口縮小における建物の保全・活用は、日本において自治体などが運営する「空き家バンク」がそれに当たるだろう。ただし、運営者がより踏み込んで空き家の掘り起こし、新しい住まい手とのマッチングに取り組んでいるのは、そのうちの一握りにすぎない。

代表的な例としては、広島県尾道市の山手地区だ。坂の街として映画の舞台にもなり有名な東西2kmの地域。約2000戸のうち300~400戸が空き家だとされている。坂の街の高齢化は著しく空き家化が進む一方だ。
また、坂の街特有の暮らしは、現代生活とはミスマッチな不便な側面も多い。不動産業者も、仲介しても月2~3万円という賃料の空き家は仲介手数料も少なく手間もかかることから積極的にはなれない。建物と街並みの荒廃は進む。

この問題に対処しようと立ちあがったのがNPO尾道空き家再生プロジェクトだ。2009年から市の空き家バンク事業を受託するほか、空き家の掘り起こし、環境整備、居住者の教育・マッチングまで、空き家の荒廃からの救出・地域の若返り再生を目指す。既に100件を超える空き家再生、新規居住者のマッチングを実現している。また、ライプツィヒの改造ハウスさながら、新しい居住者が自らの手で改修を行ったりもしている。

わが国の2060年の人口予測は約8500万人。現在の水準より35%減である。50年後には、日本全土がライプツィヒと同水準の人口減を示すことになる。縮小都市の先達から学ぶことは多い。

●参考文献等
・「縮小都市ライプツィヒの地域再生 前編 ハウスハルテンと『家守の家』」大谷悠(「季刊まちづくり38」学芸出版社)
・ハウスハルテン(独)
・日本の家
・尾道空き家再生プロジェクト

在ライプツィヒ、ミンクス典子氏、大谷悠氏には視察現地コーディネート・情報提供等たいへんお世話になった。感謝申し上げたい。

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この記事のライター

SUUMO

『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。

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