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昨年夏、東京・お台場で開催されレポートした[HOUSE VISION 2016]。そこで展示された「吉野杉の家」は展覧会後に地元の奈良県吉野町へ移築。Airbnb(エアビーアンドビー)に登録され、宿泊客と地域を結ぶコミュニティ施設としての運営が始まった。
奈良→東京→奈良、家は吉野のレガシーにUターン!
建築家・長谷川豪によるデザインの「吉野杉の家」、お台場に展示されたときの様子。
吉野川を彷彿させる細長いファサードと木づくしの空間に心奪われた筆者は、「絶対、泊まってみたい!」と思っていた。
HOUSE VISION展でのタイアップ企業であった、世界最大の宿泊施設サイト『Airbnb』にホスト(オーナー)=吉野の「地元の人」、で登録されていてコミュニティ運営のようだ。
吉野に縁がある筆者は早速、どんな様子になっているのか現地へ宿泊体験に向かった。
東京方面からは京都経由で奈良へ入り、橿原(かしはら)神宮からまだ先の吉野まで電車の旅は5時間近くかかる。
縦長の奈良県、その丁度真ん中に位置する吉野町。桜の名所である吉野山だが、実は奈良時代に修験道が開かれた地。簡単に行けないからこそ、今も山深い自然が豊かに残っている。
町の中央を流れる吉野川(和歌山に入ると“紀ノ川”)沿いに、「吉野杉の家」が移築された。
川岸に建つ「吉野杉の家」、ケヤキの大木を両脇に携え堂々と!
「吉野杉の家」のホスト(…クラブでは無く、『Airbnb』の宿主(笑)をホストと呼ぶ)は、指定管理者として運営を吉野町から委託されている[Re:吉野と暮らす会]。地場産業である製材所の若手経営者など十数人が集まり、地域おこしの一環として運営にかかわっている。
お台場での展示前に、吉野で一度組み上げて解体輸送。お台場で建築、約1カ月の展示会後にまた解体輸送され、吉野に帰還。再々建築したという“家の旅話”を伺った。
「実は、移築場所が決まるまでも紆余曲折があり……大変でした」と、石橋さん。
当初、吉野町側が提案した場所にNGを出したのは、ジョー・ゲビア氏(Airbnb社の共同創設者兼CPO)。
今回のプロジェクトは、Airbnbで初の「コミュニティ投資基金」を活用し地元に貢献できる仕組みをつくるとあって、「外国人旅行者が求める立地では無い!」とシビアに却下、現地視察に余念が無かったようだ。(流石、世界的な起業家!)
そのゲビア氏も納得した場所が、この吉野川沿い。ここには、昔、材木の検査場があり上流の山から丸太が流れ着く船着場になっていた。
「この林業のバイブルとも言える『吉野林業全書』の挿絵、こんな風景だったと思われます」、と石橋さんが興味深い本を開いてくれた。
「貯木(ちょぼく)」の町、吉野町のレガシーと言える場所に「吉野杉の家」は帰って来たのだ。
縁側に座って、目の前を流れる吉野川を眺めながら……100年前を想像してタイムスリップ。
外国人宿泊客と吉野住民が、この川辺の縁側で交流する。そんな風景が、もうすぐ見られるようになる。
杉&ヒノキづくし、五感で堪能する木の豊かさ日が暮れ明かりで照らされると、赤味がかった吉野杉の幻想的な空間に変わった。
杉の香りには鎮静作用があるらしく、夜が更けるとともに気分も落ち着いてくる。無垢の床は、柔らかく温もりが感じられ心地よい。
今夜はホストの製材所若旦那お二人が、特別に鍋でもてなしてくれた(食事付きではないので、キッチンにて自炊形式)。[Re:吉野と暮らす会]のメンバーが順番にホストを務め、宿泊運営に問題が出ないよう誰かが宿直するとのこと(これは結構、大変なことだ!)。
地元材のカップやお皿(全て商品化されている)も備え付けられていて、手触り口当たりの良さを体験できる。
そして、楽しみにしていた、2階三角形のロフトで就寝。木で覆われた低い空間は、眠りに適しているようで快適な朝を迎えた。
外から見た2階三角窓の部屋、奥と手前に2室あり朝日と夕日がそれぞれ見えることになった。
家だけじゃない! 吉野を楽しむ企画で町民と世界が交流吉野町が「吉野杉の家」の事業を推進する目的は、木のある暮らしと吉野の魅力を発信すること。
そこで、宿泊客に吉野を満喫してもらうべく、[Re:吉野と暮らす会]を中心に町民が体験イベントなどを企画している。森林セラピーやウッドクラフト・和紙・割り箸工房、酒蔵ツアーなども楽しめる予定。
初宿泊客となった筆者は、地場産業のメッカである製材団地「吉野貯木」を石橋さんに案内してもらった。製材所や原木市場、製品市なども見学し木を満喫!
吉野は豊臣秀吉の時代から、城や神社仏閣の建築に適した高級建材として扱われてきた。また、木の匂いが強過ぎず酒樽などにも重宝されるという特徴がある。
「同じ日本の杉でも、産地で特徴がかなり違うんですよ」と、石橋さん。
吉野材の特徴は、“密植”という木と木の間を詰めて植林する手法によって永年築かれたもので
「密植の山林に丁寧な枝打ちや間伐を施すことで、吉野ならではの細い年輪の間隔、節の無い赤味がかった上品な杉になるのです」
芯が円心にあり曲がりが少なく、年輪幅が適度に細かく均一。年輪幅が細かく均一であるということは、強度が高いということにつながり、高級建材として神社仏閣にも採用されてきたのだ。
「印刷シート材も木目はリアルになりましたが、完成時が最も美しいのが印刷製品。本物の無垢材は年月がたつにつれ味わいや美しさが増します」、“本物”の意味を石橋さんが熱く語ってくれました。
木も人間も“本物”なら、年がたつにつれ魅力が増すもの、と教えられた気がする。
既に、Airbnbゲビア氏も宿泊。「吉野杉の家」を設計した建築家:長谷川豪氏に関心がある人など、世界各国から予約が入っている様子。デザイン関係者など感性の高い人がここを訪れると、異次元のインスピレーションが生まれるに違いない。
[1泊9996円~(2017年4月11日時点)、詳しくは下記Airbnbサイトにて]
本物の木づくしの空間に泊まり、その木のルーツや建材となるプロセスも知ることができ、ますます木の魅力にとりつかれた吉野の旅だった。
●取材協力この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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