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家庭料理の専門家として生活情報サイト「All About (オールアバウト)」ホームメイドクッキングのガイドをする黒田民子さん。保存食や薫製を、家庭で簡単につくれるレシピを紹介した本は翻訳され海外でも好評。私は黒田さんの夫、キッチンデザイン研究家の黒田秀雄さんと懇意にしていただいていたが、4年前にご病気で他界。その遺志を継ぐように、民子さんはお料理のお仕事のほかにも精力的に活動されています。東京都調布市のご自宅に伺って、いろんなお話を聞かせていただきました。連載【あの人のお宅拝見】
「月刊 HOUSING」編集⻑など長年住宅業界にかかわってきたジャーナリストのVivien藤井が、暮らしを楽しむ達人のお住まいを訪問。住生活にまつわるお話を伺いながら、住まいを、そして人生を豊かにするヒントを探ります。38年前にスケルトン・インフィルで購入したマンション
タイル張りの重厚なマンション、築年はたっているものの管理が行き届いた建物の1階が黒田邸。中へご案内いただき廊下を抜けてドアを開けると、手前にキッチン&ダイニング、奥にリビングが広がっていました。
そのダイニングテーブルで、黒田秀雄さんと出会ったころのお話を。
黒田ご夫妻は、関西出身。民子さんが松下電器産業(現在のパナソニック)にお勤めだったときに、同社で住宅設備のデザインをしていた黒田秀雄さんと出会い、ご結婚。
「24歳で結婚後、仕事を辞めて、2人の息子を育てる普通の主婦でした。54歳で『All About』のガイドを始めるまでは……」
秀雄さんが独立し、東京で起業した1975年ごろは杉並にお住まいでしたが、
「秀雄さんが仕事で、このマンション開発にかかわっていたので、スケルトンで購入し、内装を一から彼が設計したの」
マンションの自由設計であるスケルトン・インフィル形式を、何と38年前に実践していた黒田邸! 特に、キッチンデザイナーとしても草分け的な存在であった秀雄さん、こだわりのキッチンは今も健在です。
家電類は、デザインの良いものが最小限置かれているだけ。モノトーンのキッチンにあつらえたような『バーミキュラ』のライスポットと『クイジナート』のミキサー。
「『バーミキュラ』のライスポットは、ポットヒーター(IH調理器)の中に鋳物ホーロー鍋が入っていて、ご飯がしっかり炊けておいしいのよ」
ご自身で使いこなされた『バーミキュラ』鍋のレシピ本も出されています。
キッチンはオーダーキッチンで人気の『クッチーナ』による、初期のシステムキッチンだそう。
「このシンクは、秀雄さんが開発にかかわっていた伊奈製陶(現在のINAX)時代のものです」
黒田秀雄さんはJIDA(日本インダストリアルデザイナー協会)主催「エコデザイン展」に、2003年から「エコキッチン」を作品出展されてきました。
2004に発表されたエコキッチン「LOHAS KITCHEN」(上記写真の資料右側)は、「今も“山の家”に置いてあります」
“山の家”とは、長野県にある黒田ファミリーの別荘のこと。
「息子たちが小学校のころ、もう35年くらい前に買った“山の家”ですが、秀雄さんが火の起こし方から厳しく仕込むので子どもは行くのを嫌がっていたことも(笑)。今となっては自然志向の息子たち、父親に感謝していると思いますよ」
秀雄さんは調布の自宅でも息子さんたちに、後片付けを手伝うようしつけられていたそう。
「30年以上前ですから、食洗機は普及していませんでしたしね。今は、共働きや子育て中に食洗機は必需品ですよ!」と、力説する民子さん。
「食洗機に洗い物を任せれば、子どもや家族とのコミュニケーションが増えるし、主婦がゆっくりくつろげる時間が持てると家族も幸せになるはず」とオススメ。
「私たち夫婦だけのときは、1日分をまとめて夜に洗っていました」
秀雄さんがご健在のころは、毎日の食器洗いの実態を写真付きでブログにアップされていました。(2011年から亡くなる前月の2014年11月まで、すごい実証実験!ジャーナリスト魂に敬服)
子育てしているころ、「息子たちはこのダイニングテーブルで宿題などをしていましたね。私は後ろを向いて、お料理しながらも『もう一度、朗読して!』と言ったりしてね」
キッチンをオープンにデザインしたことで、家族のコミュニケーションは自然に取れていたようです。
ご自宅にはご夫婦の仲間が20人ほど集まることもあって、「大きなダイニングテーブルと食洗機は大活躍でしたね」
幻のリフォーム計画?スケルトンならではの間仕切り収納家具「秀雄さんはいろんなものを残してくれていましてね……。これは、【我が家のリフォーム計画】」
ダイニングキッチンの収納は、隣の部屋との仕切りを兼ねたもの。壁は無いので、動かしてレイアウト変更ができる可変性のある収納なのです。秀雄さんの計画では、この間仕切り収納を移動させ、キッチン空間をより広くするレイアウトになっていました。
【我が家のリフォーム計画】に描かれたリフォームは実施されませんでしたが
「私一人になりましたからね。でも、バス&サニタリーはリフォームしましたので見ていただいて結構ですよ」
「できれば、ダイニングテーブルをむくの大きなものにしたいとは思ってるの」
【我が家のリフォーム計画 by 民子さん】も楽しみです。
普通の主婦生活を送っていた民子さんを、「ALL About」のガイドに推薦したのは、キッチン専門家としてガイドをしていた秀雄さん。その後、さまざまな仕事が舞い込んでくるたびに、尻込みする民子さんを秀雄さんは「すっごく応援してくれたの!」。セミナー講師の仕事がきたときには「会場に来るって言って聞かないから、恥ずかしかったのよ」。
家庭料理研究家の民子さんではありますが
「おふくろの味や、お菓子・パンづくりなんかも、たくさん専門家がいらっしゃるでしょ。そんなときに、秀雄さんが『君の得意な保存食がいいんじゃないか?』とテーマを与えてくれました」
梅干しやみそづくり、果実酒や薫製も得意な民子さんを“保存食の達人”として世に送り出してくれたようです。
取材日にも、「ベーコンの薫製をつくったから、食べてみてちょうだい」と出してくださいました。
少しいただいた途端、スモークされた芳醇な香りが口から鼻へと広がってビックリ!
「魚の干物やチーズなど薫製は楽しみ方もいろいろで、保存も1週間くらいはききますからチャレンジしてみて!」
薫製のほかに、果実酒づくりもご夫妻で楽しまれていたようで、すてきな瓶に保存された果実酒の数々を並べてくださいました。
知人から頂いた青唐辛子を使って「薬味味噌」をつくったと、味見させてくださいました。
「家に人を呼ぶのが好きなので、保存食があれば重宝しますよ。薫製も簡単にできるので、つくり方の話がおしゃべりのキッカケにもなってね」
おいしいだけでなく、コミュニケーションを高めるネタにしてしまうところが“達人”たるゆえんです。
最近は料理以外にも、そのスタイルを活かし読者モデルもされている民子さん。
「体力維持に水泳は続けています、週に3日ほど。週に2km以上は泳ぐようにしているの」
ちょっと驚いたのは……お履きになっていたスリッパが、左右反対!?
「これ、ボケてる訳じゃないのよ(笑)。O脚を治すのに良いって聞いてやってるの」
いくら年を重ねても、向上心がある人は進化し続けるといういいお手本です。
「これは、私が50半ばのころかしら。友人のカメラマンが撮ってくださったの」
秀雄さんの最期のノートを拝見すると、民子さんへのメッセージに「どうかいっぱい生きてください」と書いてありました。
「ただただ、感謝しかありません」と、民子さんは少し涙ぐまれましたが、私には、今輝いている彼女の姿に「たみちゃん、やるねぇ!」と笑っている秀雄さんが見えました。
飾らずシンプルに、でも時間をかけた丁寧な、ご自宅での暮らしを垣間見ることができました。「あんな風に年をとりたいな」と、素直に思える取材でした。
この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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