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現在、38歳。4月から東京大学に通い、8月2日から10月2日までの夏季休暇の間も英語とフランス語とプログラミングと哲学を勉強し続け、現在は毎日1限から授業を受けています。さんきゅう倉田です。職業は芸人です。
授業は週に18コマあって、105分ないし90分で行われています。一部には、毎回10時間程度かかる予習と宿題を与えてくれる素晴らしい講義もあって、放課後も土日も勉強しています。
やってもやっても次から次へとやるべき課題があって、永遠にこの時間が続くんじゃないかと思うと少し憂鬱になるけれど、概ね楽しく生きています。
稀に成人したクラスメイトとお酒を飲んだり、遅い時間までpythonというプログラミング言語ソフトでプログラミングをしたりしていると、自分の生活が充足感で満たされて輝きを放っているように感じます。
20ほども歳が離れていても違和感なく彼らと過ごせるのは、高い倫理的思考力や豊富な知識を彼らが持っているからだと思います。そういう能力は全員が持っているけれど、個々人の特性や嗜好は当然異なります。
その中でも、ぼくが特に学びたいと思っている能力を紹介します。
ぼくが仕事で出会う人やほとんどないといってもいい私的な時間で出会う人たちで無口な人はいなかった。
仕事で誰かと会えば、用があるので目の前の相手は喋るし、講演でどこかの会場にお邪魔して懇親会に参加すれば、隣にいるのはぼくと話をしたい人なのでたくさんの質問をされる。税金サークルを定期的に主宰しても、SNSでの告知を見て参加する人は他人と交流することが好きなので、それなりに自分から話をする。
中学でも高校でも、以前通っていた日本大学でも、自分から話をしない人はいなかった。でも、東大には無口な人がいて、それもたくさんいる。結構な頻度で出会う。
無口にもグラデーションとバリエーションがあるが、今回は特に秀でた無口な友人を紹介したい。

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Sくんは話さない。一人でいることを好むが、友人たちが集まる場にふらっとやってくることもある。でも話さない。
なんとなく同じ空間にいるが、その日の出来事を話したり、「それ美味しそうだね、どこで買ったの?」といった他愛のない話を始めたりしない。ただ黙ってそこにいる。
無口だからといって、Sくんは暗い人間ではない。嫌な人間でもない。
話しかけると、ちゃんと返ってくる。しっかりと答えてくれる。
ただそれまではすごく不機嫌そうな顔で沈黙している。でも怒っているわけではない。不機嫌でもない。
しかしながら、積極性は全然ない。講義中に先生に当てられても、しばらく沈黙してからせせらぎのように静かに答える。
先生が「誰でもいいから答えて」と言ったときは、もちろん答えない。一通り全員が発言しても、Sくんだけは絶対に答えない。口を開かなくていいときは絶対に開かない。
それがSくんのやり方だ。
先生が当てたときは、当ててほしくないという気持ちを十分に言葉に乗せている。先生も講義中でなかったらSくんには声をかけないかもしれない。
Sくんがプレゼンテーションをして、それに対する講評を先生がしていたとき、Sくんはやっぱり不機嫌そうだった。返事もしない。「理解した」と示すときは少しだけ首を縦に振るが、それだけだ。
この学生は話すことを好まないんだな、と先生もすぐにわかったはずだ。
ぼくだったら、先生に悪い印象を持たれたくないと、持ち前の年中張り付いたような笑顔で返事をして、質問までするかもしれない。別にそうしたいわけではないが、リスク回避的な思考がぼくをそうさせる。
Sくんは違う。芯が通っていて美しい。彼の行動は、ぼくに勇気と技術を与えてくれた。
▶つづきの【後編】を読む
さんきゅう倉田さんがSくんから学んだ勇気と技術を、東大生相手に実践してみたら…についてお伝えします。
この記事のライター
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