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JR国立駅と谷保駅の間に位置する、国立ダイヤ街商店街。精肉店や鮮魚店、青果店が軒を連ね、昔から地元の人たちに愛され続けている場所だ。その一角にあるのが日用雑貨を扱う「musubi」。ここは、店主の坂本眞紀さんと夫で建築家の寺林省二さん、一人娘の吟ちゃん、愛猫のトトが暮らす自宅でもある。道具を扱うプロと、家づくりのプロの生活を見せてもらった。【連載】その道のプロ、こだわりの住まい
料理家、インテリアショップやコーヒーショップのスタッフ……何かの道を追求し、私たちに提案してくれるいわば「プロ」たちは、普段どんな暮らしを送っているのだろう。プロならではの住まいの工夫やこだわりを伺った。昔ながらの商店を彷彿とさせる仕事場兼自宅
日用雑貨が並ぶ店内の奥に目を向けると、一段高くなった場所にダイニングキッチンが見える。昔ながらの商店を彷彿とさせるつくりの雑貨店「musubi」。約8年前、自分たちの仕事場と自宅を兼ねた場所として、夫の寺林さん自ら設計した。
「以前はここでお昼ご飯を食べているときにお客様がいらして、扉を開けっ放しにしていて丸見えだったっていうこともあります(笑)。でも、周りの商店街はどのお店も奥に暮らしの気配があるから、それはそれでいいかと思って」と坂本さんはこのつくりを気に入っている様子。「この場所には、もともとクリーニング店があったんです。リフォームして使いたいほど気に入っていたんですが、難しい状態だったので、結局、ほぼ同じ間取りで建て替えました。だから、昔ながらの商店の感じが残っているのかもしれません」
箱のような状態からスタートした家「家具も収納もきちんと決めていなくて、ただの箱のような状態だったんです。住みながら少しずつつくってきた感じ」と坂本さんは振り返る。約14坪弱の敷地に建てた自宅は、家、事務所、店という3つの要素を一つの場所に共存させるために、見極めるべきことが多かった。だからこそ、最初に細部まで決めすぎず、住んでみてから自分たちに必要なことを見極めていったという。「暮らしているうちに、ここに棚板があったら便利だな、ここに収納をつくればいいな、と考えていきました」と寺林さんも続ける。
例えばキッチン。シンクやガス台の下には、食材を入れたカゴやカトラリーを入れたバット、ゴミ箱などがきちんと収まっている。「ここも最初は何もない空間だったんです。引越してきてからは、紙袋や空き箱をいろいろ使ってみて、どんな大きさの収納道具が必要か考えていきました」。食材はどんなものをどれくらいストックするか、必要なゴミ箱の大きさと数はどれくらいか、よく使う調理道具はどこに置けば便利か、全てを暮らしながら見極めていったのだ。そうして坂本さんが自らスケッチを描き、必要な棚やキャスター付きの箱などを寺林さんにお願いしたという。全てをしまい込まず、頻繁に手にする調理道具は、使う場所の壁面にバーを設置してつるすようにもしている。出し入れしやすいということは、つまりは片付けやすくすっきりした状態を保てるということにつながっているのだろう。
家具は最初にそろえず、暮らしながら必要なものだけをつくる食器棚も本棚も、そこにしまう食器や雑誌、文庫本のサイズに合わせてあつらえている。決して広いとは言えない空間だからこそ、きちんとものが収まるように工夫されている。「最初は、クローゼットも布団を入れる場所もなくて。奥行きがどれくらい必要か、どの高さなら届きやすいか、どこにあったら便利か考えて、この形になったんです」と坂本さんは話す。自分たちの洋服の量をきちんと把握し、奥行きや幅を考えてクローゼットをつくった。布団も上げ下ろしがしやすい高さに棚板を設置して、使いやすい収納になっている。
また、随所に棚板を取り付けているのも、ものを収めるのにとても役立っている。キッチンでは食器棚の上、シンクの上にそれぞれ1枚あり、鍋やカゴなどの道具類が置かれている。シンク前の窓にはすのこ状の棚板があり、洗った器や道具などを置いて乾かすのに最適な場所になっている。さらに、トイレ兼洗面所にも奥行きの浅い棚板が1枚あり、洗面道具などの細かなものが並び、隣の洗濯機の上にはタオルがきちんと収まる棚板が2枚取り付けられている。「どれも、奥行きはそこに置くものにサイズを合わせて取り付けています」と寺林さん。使う場所の近くに収納場所を設置することで、出し入れがしやすいというメリットが生まれているのだ。
さらに、階段下も見逃さず、坂本さんの事務スペースとして活用している。「収納にするかどうしようか迷っていたんですが、ここに机を置いてみたらいいんじゃないかということでやってみたんです。最初はふさごうと思っていたので、階段の裏まできちんと仕上げができていないんですけど、これはこれでいいかなと思って」と寺林さんは教えてくれる。坂本さんにとっては、料理などの家事をしながら、事務仕事や店番もできて、とても便利なスペースになっている。
また、2階では、本棚やクローゼットが壁としての役割も果たしているのもこの家の特徴だ。もともとは、がらんとしたひとつながりの空間だった。そこに本棚とクローゼットを設置することで間仕切りになってスペースが生まれている。今は一人娘である吟ちゃんの部屋になっているが、ここはもと寺林さんの事務所だった場所だ。
さかのぼれば、建てた当初は、事務所は1階の雑貨店のスペースに併設していた。店で扱う品が増えてきたことから、2階の一角に事務所を移動。「1階で使っていた本棚を2階で間仕切りのように使うことで事務所スペースにしたんです」と寺林さん。吟ちゃんはというと、リビングの壁面に学習机と収納を設置して使っていた。成長とともに自分だけの空間が欲しいということになり、寺林さんは別の場所に事務所を借りて、吟ちゃんは無事に自分のお城を手に入れたというわけだ。
好きなものは我慢せず、でも、分量は決めて管理するものに合わせた収納だからこそ、きちんと収まってはいるものの、やはりどうしても好きな食器や本は増えてしまうという。「狭いからこそ、棚に収まる分だけと決めています。ここからあふれそうになったら、家族みんなで『ガサ入れ』して、不要なものがないか探すんです。使わないものは誰かに譲ったり、売ったりしています」と坂本さん。一人娘の吟ちゃんもその習慣がしっかり身についていて、読まなくなった絵本や使わなくなったおもちゃなどをダンボールにまとめて『ご自由にどうぞ』と自ら書き、お店がお休みの日に家の前に置いていることもあるのだという。
商品の使い心地を、自身のキッチンから伝える「musubi」では、扱っている商品のほとんどを坂本さんが自身で使っている。「使い込んだらどんな状態に変化するか、知りたいお客様も多いんです。そういうときは、ダイニングキッチンから持ってくることもあるし、実際に使い心地を試してもらうこともあります」と坂本さん。また、寺林さん自身の作品として自宅をオープンハウスにすることもある。どこにどんな家具や収納が欲しいか、この家を見ながら打ち合わせることもできるというわけだ。
最初に決めず、生活とともに家をつくればいい坂本さんも寺林さんも、自分たちの暮らしをよく観察し、それに合わせた家をつくり続けてきた。最初から家具を一式そろえたり、システムキッチンを組み込んだりという考えはなかったという。「小さい家だから、どこに何が必要かしっかり見極めたかったんです」と二人は話す。結果、店の形態の変化とともに、事務所が移動し、娘の成長に合わせて子ども部屋が生まれることになった。
最初から決めつけなくてもいいのだ。暮らし方も好みも変わっていくものだから、家も一緒に変化していけばいい。少しずつ、自由に、生活に合わせてしつらえていけばいい。
寺林家は、これからもきっとどこか変わっていくのだろう。「子ども部屋の棚も新しくしたいし、リビングに合うソファもつくろうかと思っているんです」。寺林さんはそう楽しそうに教えてくれた。
この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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