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全盲の大学1年生、賃貸探しは困難だらけ…。一人暮らし物件20件以上で拒否、視覚障がい者の住まい探しサポート利用でようやく入居へ

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当記事はSUUMOジャーナルの提供記事です

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障がいのある人が賃貸住宅に入居しようとするとき、住まい探しには困難が伴うかもしれないことを、なんとなくイメージする人は多いと思います。しかし、実際に障がいのある人たちは、住まい探しでどのような思いをし、どのような点に困難を感じているか、十分に知る機会のある人は少ないのではないでしょうか。

そこで、全く視力がない(全盲)状況で一人暮らしをするため、実際に住まい探しをしたKさんと、視覚障がいがある人の外出などをサポートする「同行援護」のサービスを提供する株式会社mitsuki代表取締役の高橋昌希(たかはし・まさき)さんに話を聞きました。

20件以上の物件で断られ…全く目が見えない中での住まい探し

Kさんは、この春から都内の大学に通っている1年生。発展途上国の支援に興味を持ち、NPOでのボランティア活動に積極的に参加しています。大学入学に際して、初めて一人暮らしのための住まい探しをしました。

大学への入学が決まったのは2月の末。それから約1カ月の短い期間で、入居できる住まいを探す必要がありました。通学に便利な駅をピックアップし、その駅前にある不動産会社に相談したり、ネットで検索して問い合わせたり。全く視力のない全盲の状態であるKさんにとって、入居できる部屋を見つけることは思っていた以上に大変でした。

「まず、間取り図や写真を自分で見ることはできません。玄関に入って右側に何があるかなど、実際に歩いてわかるような説明まで細かく対応してくださるオペレーターさんなどがいれば助かるのですが……」(Kさん)

Kさんは最初に何度か目の見える人と一緒に歩いて道を覚えれば、大学へも一人で通うことができる。パソコン操作も音声読み上げ機能などがあれば問題なく、取材当日もWEB会議機能を使って話を聞かせてもらった(画像/PIXTA)

Kさんは最初に何度か目の見える人と一緒に歩いて道を覚えれば、大学へも一人で通うことができる。パソコン操作も音声読み上げ機能などがあれば問題なく、取材当日もWEB会議機能を使って話を聞かせてもらった(画像/PIXTA)

また、不動産会社に問い合わせをしても視覚障がいのことを話すと「ほとんど断られてしまう」そう。
山梨県の実家にいる母やmitsukiの高橋さんの助けも借りて何十件も問い合わせをしたのですが、なかなか住まいが決まりません。

結局、Kさんは知り合いから視覚障がいにも理解のある不動産コーディネーターを紹介してもらい、20件以上も粘り強く問い合わせ・交渉してもらった結果、3月の半ばも過ぎたころにギリギリで今の住まいを見つけることができました。

視覚障がいのある人が求める住まいの条件は? 一人暮らしで初めて気づくことも

住まい探しにあたって、Kさんが不動産会社に出した条件は、次のとおりです。
1)家賃(70,000円以内)
2)防犯の面から、1階よりは2階以上
3)ワンルームではなく、キッチンと部屋が分かれた1Kの間取り
4)キッチンがIHコンロであること
5)大学までなるべく近く、乗り換えの少ない経路で通学できること

いずれの条件も、視覚障がいの有無にかかわらず、一人暮らしをする女性であれば、ごく一般的な希望条件ではないでしょうか。最終的にKさんは、1Kで管理費込みの家賃が70,000円、大学からは電車1本で3駅隣という、ほぼ希望に沿った住まいを見つけることができました。

「駅から歩いて10分くらいかかりますが、シンプルでわかりやすい道。駅から近くても曲がり角が多いなど複雑な道より歩きやすいことが重要です。IHコンロを希望しているのは、ガスコンロだとこちらから『使わない』と言わないと事故につながることを懸念する管理会社やオーナーさんから入居を断られることが多いことがわかっていたためです」(Kさん)

目が見えなくても、訓練やこれまでの経験から日常生活は問題なく過ごせる人もたくさんいる。しかし、ガスコンロの物件は火災になる恐れから、視覚障がい者の入居を断られることも多いそう(画像/PIXTA)

目が見えなくても、訓練やこれまでの経験から日常生活は問題なく過ごせる人もたくさんいる。しかし、ガスコンロの物件は火災になる恐れから、視覚障がい者の入居を断られることも多いそう(画像/PIXTA)

実際に住み始めて困ったことは、宅配ボックスのタッチパネルだといいます。Kさんは実際に住むまで気がつかなかったそうですが、タッチキーは凹凸がないため、正しく操作できません。

「一度開けられなくなってしまって、たまたま母が訪ねて来たときに開けてもらいました。その後、管理会社に相談したところ、私宛てに届く荷物については宅配ボックスに入れようとすると、あえてエラーが出るように設定してくれています」(Kさん)

全盲のKさんにとってタッチパネルの操作は難しい(画像/PIXTA)

全盲のKさんにとってタッチパネルの操作は難しい(画像/PIXTA)

視覚障がいの程度も、どのような部屋が良いのかも、人それぞれ

実際に住まい探しをしてみて、Kさんが感じたことは、「視覚障がい者全てを同じように考える人がとても多い」ということでした。

「よく、『一人で大丈夫なんですか』とご心配いただくことがあります。でもどこまで自立して生活できるかは、人それぞれで一括りにはできません」(Kさん)

Kさんは新しい住まいでも、スイッチの場所などを最初に教えてもらえれば覚えて使いこなせるし、家事もほぼ一人でできます。Kさんの場合、間取りや設備の特別な配慮等は必須ではないのです。
また視覚障がい者に同行援護サービスを提供しているmitsukiの高橋さんは「視覚障がいのない人が気にする日当たりや景観も、障がいのある人にとってはそれほど気にならない」といいます。

「Kさんのように全く見えない人は視覚障がいのある人のうちの1~2割程度。ほかにも視野が狭い人や、視野があってもすりガラスを通したようにしか見えない人など、症状はいろいろです。職業や収入などと同じように、障がいのある無しはその人の一要素に過ぎません。Kさんのように訓練などによって、できる範囲が改善されることも理解していただきたいです」(高橋さん)

視覚障がいといっても、その見え方は人によって違う。当然、できることや難しいことも人によって異なる。そして全盲の人もさまざまな工夫をしながら、日常生活を送っている(画像提供/mitsuki)

視覚障がいといっても、その見え方は人によって違う。当然、できることや難しいことも人によって異なる。そして全盲の人もさまざまな工夫をしながら、日常生活を送っている(画像提供/mitsuki)

無償で住まい探しをサポートするmitsuki。不便や理不尽を感じることも……

mitsukiは主業である同行援護サービスを提供して対価を得ており、そのサービスの一環として、高橋さんたちは視覚障がい者の住まい探しを無償で手伝っています。Kさんも住まい探しで感じる不便さとして挙げていますが、周辺環境の雰囲気など、視覚障がいのある人が入手しにくい情報や、不動産会社とのやり取りに慣れていない部分もあるからです。

高橋さんは、あらかじめヒアリングフォームで条件や優先順位を聞き、ネットで物件情報を検索したり、代理で不動産会社に問い合わせをしているそう。

「視覚障がいのある方が新たに生活する場所を検討する際、周辺環境を気にされる方は多いです。同じ『徒歩3分』の希望でも、歩道と車道が分かれていることを優先する人もいれば、横断歩道がない方が良いという人もいますね」(高橋さん)

希望する条件や優先順位は人によって違う。それぞれのニーズを掴むため、高橋さんはヒアリングフォームで障がいの症状や希望条件、入居人数などをあらかじめ確認している(画像提供/mitsuki)

希望する条件や優先順位は人によって違う。それぞれのニーズを掴むため、高橋さんはヒアリングフォームで障がいの症状や希望条件、入居人数などをあらかじめ確認している(画像提供/mitsuki)

しかし、これまで何人もの住まい探しに携わってきた中では「契約当日になって断られるケースもある」のだとか。

「入居を断るにしても、理由をいってもらえないことには納得できません。『障がい者だから』でも良いんです。断るのならせめて理由をいうのが人としての礼儀ではないでしょうか」(高橋さん)

また、Kさんが不動産会社に問い合わせると、行政サービスや、障がい者の居住支援を行っている団体への相談を薦める不動産会社も多いそうですが、障がい者=居住支援の利用という構図には疑問を投げかけます。

「私は、行政などで紹介してもらえる部屋は経験上、選択肢が少なく、自分の希望が反映されるものではないと考えているので、利用しようという気にはなれませんでした。私が行政に配慮してもらう立場であることは自覚しているつもりです。しかし、目の見える人が選べる選択肢を、障がいがあるからと言って狭められることには、違和感を感じてしまいます」(Kさん)

Kさんは「日常生活は問題なく過ごせるのに、目が見えないからと言って、選べる選択肢が減ってしまうことに違和感を感じる」と心の内を語る(画像提供/PIXTA)

Kさんは「日常生活は問題なく過ごせるのに、目が見えないからと言って、選べる選択肢が減ってしまうことに違和感を感じる」と心の内を語る(画像提供/PIXTA)

不動産会社にも「視覚障がい者のリアルを伝えたい」

高橋さんが障がいのある人の住まい探しで感じたのは、不動産会社の対応がまちまちだということ。

「あくまで個人的な感覚ですが、過去に視覚障がいのある人や車椅子を利用する人の住まい探しに携わったことのある担当者は親身になって対応してくれると感じます。経験のない担当者は『わからないから怖い』『怖いから断る』ということなのでしょう」(高橋さん)

また、視覚障がいのある人へのサポートや理解度に地域差があるとも言います。

「地方では、同行援護を行うガイドヘルパーの数が全然足りていません。このような地域では障がい者への理解が進まず、目立ってしまうため、障がいがあること自体を隠して生活している人も見られます」(高橋さん)

このような状況を変えたいと考えた高橋さんは視覚障がいのある人への理解を広めるために、WEB上で記事を発信したり、不動産業界団体からの依頼でセミナーに登壇したり、不動産会社向けの動画で解説などもしているそうです。

「障がいのある人に接したことのない人が、どのように応対すればよいのかわからないのは、ある意味仕方のないことです。私もより多くの人に、視覚障がいのある人が何を必要としていて、どんな配慮が必要なのかを伝えていかなくてはならないと考えています。『法律で義務化されたから』『社会の目が怖いから』ではなく、お互い気持ちよく暮らすために、歩み寄る場所を見つけられれば良いですね」(高橋さん)

mitsuki代表取締役の高橋さん。視覚障がい者の生活支援業務に従事した後、2018年4月よりmitsukiの運営する同行援護事業所「みつき」を立ち上げた。教員免許のほか、歩行訓練士の資格を持つ(画像提供/mitsuki)

mitsuki代表取締役の高橋さん。視覚障がい者の生活支援業務に従事した後、2018年4月よりmitsukiの運営する同行援護事業所「みつき」を立ち上げた。教員免許のほか、歩行訓練士の資格を持つ(画像提供/mitsuki)

障がいのある人を含む、住まいの確保や入居後の生活に配慮が必要な人たちのためのセーフティネット住宅(※1)や、住まいの支援を行う居住支援法人(※2)は増えてきましたが、その数を増やすだけでは問題は解決しません。

「障がい者」とひとまとめにするのではなく、一人の住まい探しをしている人に対して、どのような部屋に住みたいのか、何を必要としているのか、それぞれのニーズに沿ったサービスを提供することが必要で、それは本来、障がいの有無に関係ないはずです。居住支援という言葉が必要なくなるくらい、障がいのある人もない人も共生するのが当たり前の社会になることを願います。そのために私たちは、障がいのある人をもっと知ろうとしなくてはならないと思いました。

※1:セーフティネット住宅:住宅セーフティネット制度に基づいて登録されている、住宅確保要配慮者と言われる高齢者、障がい者、外国人などの入居を拒まない賃貸住宅のこと

※2:居住支援法人:住宅セーフティネット法に基づき、住宅の確保に配慮が必要な人が賃貸住宅にスムーズに入居できるよう、居住支援を行う法人として各都道府県をはじめとする自治体が指定する団体等

●取材協力
株式会社mitsuki

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この記事のライター

SUUMO

『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。

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