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夢のマイホーム。特に注文住宅においては長い時間をかけて打ち合わせを重ね、理想の住宅を実現していくことになります。
家づくりは親が白熱するあまり、打ち合わせ中はお子さんたちは置き去りにされ、退屈になってしまいがち。そんな小さなお子さんたちにも、家づくりに参加してもらうことはできないか。そんな思いから、お子さんと一緒にダンボールハウスを設計する「ダンボールハウスけんちくじむしょ」を社内に立ち上げた工務店があると聞き、取材しました。
ホロスホームの山口さん(左)と長坂さん(右)。ダンボールハウスを前に(撮影:筆者)
「ダンボールハウスけんちくじむしょ」は愛知県三河地区を中心に注文住宅の設計施工を手掛けるホロスホームの新サービスです。広報の山口謙三郎(やまぐち・けんざぶろう)さんと、一級建築士の長坂和久(ながさか・かずひさ)さんにお話を伺いました。「『ダンボールハウスけんちくじむしょ』は、ホロスホームに注文住宅を依頼してくださったお施主さん向けに、子ども用のダンボールハウスを設計するサービスです。実際にお子さんと打ち合わせをして、どんな家にしたいか要望を聞いたうえで作成した図面をもとに、ダンボールメーカーに切り出してもらった部材を各ご家庭に納品します。実際に中に入って遊ぶこともできるようにするため、構造的にも問題がないように仕様を検討しているんですよ」(長坂)
お子さん相手とはいえ、お客様の要望をヒアリングして設計するプロセスは、実際の住宅設計と同じ。具体的にはどのように設計を進めていくのでしょうか?
「お子さんには、壁面に開ける窓の位置やかたちを考えてもらうようにしています。すべてを1からデザインするのは難しいので、ベースとなる3つのパターンのなかから1つを選んでもらうんです。近未来的な『宇宙』パターン、西洋風のお家をイメージした『煙突』パターン、少し複雑なデザインに挑戦した『お城』パターンの3つを用意しています。どのパターンを選ぶか、きょうだいで喧嘩になってしまうこともありますが。基本的には一度の打ち合わせでデザイン案を固めて、あとはデザインを図面に起こしてダンボールメーカーに発注する流れとしています。組み立ては親子で取り組んでもらうので、できるだけわかりやすいパーツ構成にしているのもこだわりです」(長坂)
打ち合わせの際に使用する模型。実際のダンボールハウスと同じつくりとなっている。左から「宇宙」パターン、「煙突」パターン(画角の関係で煙突は隠れている)、「お城」パターン(撮影:筆者)
「宇宙」パターンの完成品。大人でも中に入ることができる大きさ(画像提供:ホロスホーム)
お子さんの要望を汲み取るのも、ひと工夫必要になりそう。
「それが、思っている以上にお子さんたちは自分がこうしたい、というのをきちんと伝えてくれるんですよ。小さい子向けには考えるヒントになるように、図案サンプルを用意しています。図面をもとに絵でコミュニケーションしていることも大きいですが、自分ごととして、真剣に取り組んでくれるからこそとも思います。どうしても構造上、描いてくれた絵の通りにはいかない部分は私の方で微調整を加えて確認していただいています。そのやり取りは実際の住宅における仕様調整と同様ですね」(長坂)
姉弟との打ち合わせの様子。長坂さんの説明を、皆真剣に聞いてくれたという(画像提供:ホロスホーム)
デザイン検討のメモ。ダンボールの強度が保たれるよう調整を加える(撮影:筆者)
調整された最終図面(「煙突」パターン)。黒い部分が切り抜く箇所、グレー部分は切り込みを入れて表面の紙を剥がす箇所(画像提供:ホロスホーム)
組み立ての様子。小さなお子さんでも作業できるように設計されている(撮影:画像提供:ホロスホーム)
きょうだいで意見が合わない場合でも、一度の打ち合わせでデザインを決めるために建築士としての経験が生かされるのだそう。
「壁が4面あるのでこっちの面はお姉ちゃんの面、こちらは弟さんの面、というように分けることで解決したりしています。お姉ちゃんが猫、弟さんが恐竜、といったように別々の図柄を入れるので違和感のあるデザインにならないか、心配される親御さんもいらっしゃいましたが、木々を植えることで統一感を出すなど工夫しがいがありますね。なかには口を挟みそうになる親御さんもいらっしゃって、なんとか我慢して見守っていただいています。実際の家づくりでも夫婦で意見が割れた際にはどう落とし所をつけるかが重要になりますが、その疑似体験にもなるのではないかなと思っています。ダンボールハウスの設計を通じて、家づくりにも興味をもってもらえると嬉しいです」(長坂)
完成した「煙突」パターンのダンボールハウス。扉や窓の開け閉めもできるよう、細かな部分までつくりこまれている(画像提供:ホロスホーム)
「お城」パターンの完成品。「これまでのところ、どの案も同じくらい人気で、設計者としては嬉しいです」と長坂さん(画像提供:ホロスホーム)
子どものいる家族と家づくりを行う課題を解決する一手になぜこのようなサービスをはじめたのでしょうか。
「うちに注文住宅を依頼してくださるお客様は、皆さん家づくりに対するこだわりも強くて、どうしても設計期間も打ち合わせも長くなる傾向にあるんです。スイッチひとつにしても、標準ラインナップから選んでください、などということはなくひとつひとつ丁寧に提案しています。自社で工房ももっているので、流通していないものは自分たちでつくってしまうこともできるので。そういう家づくりに共感してくださる方が依頼してくださるので、われわれも張り切って提案しています。そうなると打ち合わせの間、お子さんが手持ち無沙汰になってしまうことが気にかかっていました。半日かかる打ち合わせを5回、6回と重ねていくことになりますから」(長坂)
「ホロスホームのホロスとは、”全体”を意味するギリシャ語です。お客様に家を売るのではなく、暮らしの全体を売る、という思いが込められています。外構も含めて請けていたり、趣味を楽しむ家づくりを大切にしているなど楽しんで暮らす家を提供したいと考えています。
また楽しく暮らすためには家にお金を使いすぎてもいけないので、DIYでお客さんと一緒に壁の塗装をするワークショップなども実施しています。家づくりのプロセスも暮らしの一部として楽しんでほしい、そのために、お子さんにも関わってもらうことができると良いのではないかと考えたんです。弊社に依頼してくださるお客様は多趣味で人生を楽しんでいる方が多いので、こうした取り組みには共感してくださる方が多いだろうなと思います」(山口)
お子さんにとっては、親御さんがどんなことに頭を悩ませているのか、知るきっかけにもなると山口さんはいいます。
ショールームには暖炉や植栽が設えられており、暮らしを楽しもうという姿勢が見て取れる(画像提供:ホロスホーム)
「この企画の発端は、弊社が運営しているカフェやインテリアショップにコンサルタントとして関わっていただいているクリエイティブディレクターの佐藤ねじさん(ブルーパドル)からいただいたアイデアでした。佐藤さんのお子さんが、ダンボールハウスを自作していたそうで。プロの建築士と一緒にダンボールハウスをつくるサービスがあったら面白いんじゃないかとご提案していただいたんです」(山口)
その提案が、打ち合わせ中にお子さんが退屈してしまうという課題への対策として合致したのだそう。
「佐藤さんに弊社の工房なども見ていただいたところ、これだけこだわって家づくりに取り組んでいるのであれば、お子さんにもそのこだわりを体験してもらうのはどうだろう、というのが入口でしたね。はじめは単純に面白そうだしやってみよう、ということで検討を進めていきました。ほかの工務店さんにはないサービスですし、こうした取り組みを行うことで、『面白い会社だな』と思っていただくことが弊社を知るきっかけにつながるのではないかと思い、立ち上げることにしました」(山口)
工房内部。さまざまな工具や材料が積まれ、造作の家具やオリジナルの部材がつくられる(撮影:筆者)
「立ち上げの際に、弊社のお施主さんに限らず公募での無料キャンペーンを実施しまして、事前のトライアルも含めると11件制作しています。これからは弊社に住宅を発注していただいたお施主さんに付帯サービスとして無料でご提供していく予定です」(長坂)
「弊社を知っていただく広報活動の一環として位置づけています。これまでご依頼いただいた方ですと下は幼稚園の子から、中学生の子まで幅広い年齢のお子さんがいらっしゃいました。きょうだいの方が多く、家族の良い思い出になってくれるといいなと思います」(山口)
お子さんとの暮らしを大切にするためにもマイホームはこだわりたいもの。ただそのプロセスで置いてけぼりにされてしまうと、せっかくの家づくりにネガティブな思い出が残されてしまうかもしれません。つくる過程も含めて家づくりを楽しめるような取り組みが増えていくと、その先の暮らしにも良い影響を与えるのではないでしょうか。
完成したダンボールハウスが使い倒されていくのが楽しみです。
●取材協力
ホロスホーム(ハウス成田建設株式会社)
この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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