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大阪府大阪市住吉区にある、60歳以上のシニア層と外国人が共に暮らす女性専用シェアハウス。企画運営をしているのは、母と息子が2人で切り盛りをしている小さな不動産会社です。なぜ、シニアと外国人なのか、シェアハウスでの暮らしはどのようなものなのか。居住者にもたらす影響や地域との関わりは? 西都ハウジングの松尾重信さんに話を聞きました。
大阪・長居駅から徒歩6分、元・文化住宅をリノベしたシェアハウス大阪市最南端の街、住吉区。大阪メトロ御堂筋線「長居」駅から徒歩6分ほどの住宅街にある「コモンフルール」は60歳以上のシニアと外国人が共に暮らす、女性専用のシェアハウスです。近くにはイベントなどが開催されることもある大きな公園のほか、駅周辺にはスーパーや病院もあり、コモンフルールのプロジェクトを共に進めた大阪市立大学へは自転車で15分ほどの立地で、暮らしやすい環境です。
建物は、1962年に建てられた文化住宅をフルリノベーションしたもの。1階にはシニア向けの個室が3室とキッチンやダイニングなどのコモンスペースがあります。2階は外国人が暮らす部屋が6室の間取りです。
コモンフルールの間取り。1階(左)は7畳以上のゆったりとしたシニア用スペースとキッチン、リビングお風呂場がある。2階(右)の外国人用の部屋は1部屋7.5~9.1平米のコンパクトなつくり。現在は満室、5人以上が内見を待っている人気ぶり(画像提供/西都ハウジング)
コモンスペースは窓を開けるとウッドデッキにつながり、ハンドケア体験やアジア料理交流会といったイベントを行うなど、地域の人たちとの交流の場にもなっています。
インドネシアの「ソトアヤン」という麺料理とコーヒーを提供したアジア料理交流会の様子。外国人の居住者が共用キッチンで料理をつくり、近隣の人も交えてアットホームな雰囲気(画像提供/西都ハウジング)
シニア女性と外国人が共に暮らす、その毎日は?コモンフルールの住人たちは、それぞれが独立して生活しながらも、時には一緒にご飯を食べたりしているそう。1階の共用部分はシニアの人たちが掃除を分担し、2階部分は松尾さんが作成した当番表をもとに、外国人居住者が掃除とゴミ出しをしています。
現在居住中の外国人は日本語学校に通うインドネシア国籍の人2名、ワーキングホリデーで来日した中国籍の人、韓国籍の人それぞれ2名ずつの計6名。
建物の躯体が古い木造住宅のため、足音やシャワー、トイレの水の音などが響きます。共同生活をしていく上で必要な「靴は下駄箱に入れましょう』「シャワーに入る時間は23時まで」などの基本的なルールは、入居前に松尾さんから説明するそう。ゴミの出し方も、みなさん理解して日本の生活ルールに合わせています。
外国人入居者はインドネシア、中国、韓国と国際色豊か。生活する上での問題が起こったときは住人同士で話し合ったり、松尾さんに相談したりして最低限のルールを決める(画像提供/西都ハウジング)
そしてシニア3名は全員60代で健康な人ばかり。「夫が亡くなって住み替える部屋を探したものの、ワンルームのアパートは不安」だという人や、「娘の近くに住みたい」と県外から越してきた人、現在も個人事業主として仕事をしている人、とさまざまです。
コモンフルール開設前のユーザーインタビューの様子(実際に入居する人とは異なります)住人たちはそれぞれが独立して暮らしながらもお互いの顔が見える関係(画像提供/西都ハウジング)
シニア女性たちからは「これまでインドネシアの若い人と接することなどなかったけど、コーヒーの文化の違いひとつをとっても刺激的!」「家庭料理、インスタント料理でも面白い」などの声が聞かれます。松尾さんは「異文化に触れ、日常的に適度な距離感で関わることは、シニアと外国人の双方にとって良い刺激となって、生活に張りが生まれている」と感じているそうです。
不動産会社の後継者として、社会問題に取り組む松尾さんは大学で空間デザインなどを学び、父が設立した創業30年を越す西都ハウジングに入社しました。「このプロジェクトを立ち上げたのは、会社としても不動産をただ仲介するだけでなく、何か新しいことに取り組んでいかなれば生き残れない、とちょうど方向性を模索しているころだった」と当時のことを振り返ります。
「高齢者や外国人が賃貸住宅を借りにくいというのは、不動産業界ではごく一般的な課題認識としてあり、私自身も今後ますます高齢者の入居問題は増えるだろうと考えていました。とくに大阪市では、全国平均と比べても高齢者の単身世帯率が高く、高齢単身世帯は夫婦世帯よりも借家率が高い状況にあります。さらに大阪市の中でも住吉区の空き家率が高いこともあり、この状況を解決する方法はないものか、と長く考えていました」
大阪市は全国平均に比べ単身世帯率が高く、単身世帯は借家率が高い(画像提供/西都ハウジング)
大阪市の中でも住吉区の空き家率は高め(画像提供/西都ハウジング)
「また、2019年にカンボジアに視察に行く機会があり、日本語と介護を教える学校の校長先生の『カンボジアの若者たちに日本で介護を学ばせて次の世代に継承させていきたい』という言葉がとても印象的でした。日本で働く外国人の数が増えているのは知っていましたが、その言葉を聞いて私も日本で頑張る外国の若者たちを応援したい、という思いが強くなっていったんです」
外国人労働者数と外国人労働者比率の推移
日本における外国人労働者の数や比率は年々増え続けており、今後も増えていくであろうと言われている(資料/厚生労働省「外国人雇用状況」よりリクルートワークス研究所作成)
「空き家を活用して再生したい」大学や一般社団法人の協力も得て実現した改修この課題意識をもとに松尾さんは「高齢者と外国人の介護士が暮らすシェアハウス」というアイデアに辿り着きます。そこで「以前から気になっていた」という、元のオーナーが管理しきれずに空き家になっていた文化住宅を買い取ることにしたのです。更地にして建て替える検討もありましたが、松尾さんにはなんとかこの歴史ある建物を残して活かしたいという思いがあり、蘇らせるための設計士を探しました。
文化住宅とは、主に昭和の高度成長期に建設された木造モルタル2階建ての集合住宅のことをいう。昔の長屋のようなイメージだが、トイレや台所は各部屋に配置されている(画像提供/西都ハウジング)
しかし築60年になる建物は構造を示す図面等も見つからず、無闇に手を入れるのはリスクが大きすぎると、多くの設計士に断られたそうです。それでも諦めきれず、同じような事例がないかを調べ、大学の研究室や一般社団法人など、多くの人たちの協力を得ることでリノベーションを実現することができました。
大正・港エリア空き家活用協議会や大阪市立大学 建築学科 建築計画・構法研究室とプロジェクトを進めることになり、古い文化住宅(上)はシェアハウスとして生まれ変わった(下)(画像提供/西都ハウジング)
さらに、国土交通省の「住まい環境整備モデル事業」に採択され、補助金を得て改修工事ができたことで、松尾さんの想いが具現化していったのです。ただ、入居対象者については、変更せざるを得なかった面も。
「プロジェクト立ち上げ当初の『後期高齢者と、介護の仕事に従事している外国人のシェアハウス』構想は、後期高齢者だと世代的にシェアハウスに住む選択が難しいだろう、という結論に達し、対象を60歳以上のアクティブシニアに変更しました。外国人もコロナ禍で人を集めることが難しかったため、介護職以外の人へと対象を広げたのです」(松尾さん)
当初のコンセプトを表す図。単身の後期高齢者と外国人介護士による、緩やかな交流で支え合うシェアハウスを想定していた。現在の入居対象者は少し変わったものの、松尾さんはこのような形のシェアハウスを諦めたわけではないという(画像提供/西都ハウジング)
連帯保証人・家賃保証会社への加入不要。「顔の見える関係」で信頼を担保外国籍の人が賃貸物件を探すときに困ることの一つに「国内の緊急連絡先を求められること」があります。渡航したばかりの外国人は日本に知り合いがいないことも多いため、緊急連絡先を確保できないことで万一の時に連絡がつかなかったり、日本語で対応できないことを懸念するオーナーや管理会社から入居を断られるケースが少なくありません。ところが、驚くべきことにコモンフルールでは、渡航したばかりの外国人入居者に対しては、国内の緊急連絡先の確保が難しいことから、家賃保証会社の利用を一切していないそうです。
「今のところ、家賃未払いや滞納はありません。外国人入居者で振り込みができない人もいるので、毎月私が集金にいっています。管理会社だけでなく、居住者同士も横の顔が見える関係というのが大きいのでしょう」
さらに入居希望者の審査や基準について聞くと、次のような答えが返ってきました。
「まず、外国籍の方を断る理由はありません。日本に働きにきているのか、短期の滞在なのかによって入居期間が変わるので、採算性などのバランスをどうとっていくかが大家の課題としてあるだけです。シニアの方は、介護サービスや見守りシステムなどを導入していないので、自立して生活できることが条件となります」
外国人は日本国内で緊急連絡先を見つけることが難しい。そのためコモンフルールでは渡航したばかりの外国人の入居者には緊急連絡先や連帯保証人、家賃保証会社との契約を必須にしていない(働き先が決まった後は緊急連絡先として登録)。それでも今まで家賃滞納等のトラブルは皆無だと言う(画像提供/PIXTA)
まだまだ道半ば、「増やしてほしい」の声に応えるためにオープンから3年、コロナの影響も薄れてきた現在は、たくさんの反響があるそうです。特に外国人からの問い合わせは圧倒的に増え、シニアの人も県外のみならず、海外からも問い合わせがあるほど。
「シェアハウスを選択肢として考えたい人は多くいらっしゃるんだな、と感じています。『もっとシェアハウスを増やさないのか』というお声もいただきますが、今までは継続して運営していくことに精一杯でした。ようやく順調に動き出したところなので、増やしていくかを考えるのはこれからです」
コモンフルールの建物の再生にはかなりのお金がかかっていて、当初5~6年で改修に投じた資金を回収するはずだった計画が、コロナ禍の影響もあり7~8年ほどかかる見込みだそう。また、規模が大きくなったときの管理方法、入居者が自立した生活をできなくなったときにどうするかなど、まだまだ課題が多くあります。
「資金面からもコモンフルールと同じようなことはできないでしょう。クラウドファンディングなどを活用できると良いかな、と思っています。各地のコモンフルールを行き来できるような、多拠点で繋がっていければ面白そうですね」
当初の、シニア×外国人介護士という組み合わせのシェアハウス構想が実現すれば、居住者同士でシニアの生活をサポートすることも可能かもしれません。松尾さんの夢は広がります。
現在、会社の営業担当兼コモンフルールの運営担当としてほぼ一人で駆け回っている松尾さん。居住者からは「松尾さんがシェアハウスに来る時は私もいるようにします!」と言われるくらい、慕われている様子(画像提供/西都ハウジング)
空き家を再生したい思いと、“住宅弱者”と呼ばれる人たちを受け入れたい気持ちが、うまく共鳴したプロジェクト。会社の代表である母と松尾さん、2人体制の小さな会社が、このような先進的な居住支援を実践していることに驚きを覚えました。実現のポイントは、社会課題解決への熱意と周りを巻き込む行動力。そして多くの団体や行政との連携ではないでしょうか。
外国人とシニア、入居者と運営者がwin-winでつながりながら生活を共にする関係は、新しい形の多文化共生のモデルとして、NPO法人や研究者などが学ぶためにコモンフルールを訪ねることもあるそうです。これからの活動にも注目していきたいですね。
●取材協力
・有限会社西都ハウジング
・シェアハウス「コモンフルール」
この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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