/
“防災用品”と聞いて思い浮かべるものは、水や食料、非常用トイレ、防寒グッズなどさまざま。消火器は火事に備えるために必要なアイテムだが、赤くて目立つ、場所をとるなどの理由で生活空間に置くことを躊躇(ちゅうちょ)している人も少なくないだろう。そんなイメージを覆すのが、2019年1月に発売された「+maffs(マフス)」の「+住宅用消火器」。白と黒のマットな質感のボディが美しい、インテリアに溶け込む“ジャケ買い”したくなるようなデザインだ。実用性重視の商品が多かった防災用品にデザイン性を与えたのはなぜか。そして、防災メーカーの社員が行っている暮らしで実践できる防災とは? 企画・開発チームに話を聞いた。
防災をライフスタイルに。防災と日常の距離を縮めたい
この消火器を開発したのは、消火器や消火設備の製造・販売・施工を行う国内防災メーカーのトップブランドであるモリタ宮田工業。「+maffs」は、企画・開発を担当した北里憲さんが入社時から思い描いていたプロジェクトなのだとか。
「日常的に防災を意識している人って、少ないと思うんです。災害が起こると一時的に防災用品がよく売れますが、熱が冷めるのがすごく早い。継続的に取り組んでもらえる選択肢として考えたのが『防災をライフスタイルに。』というコンセプトです。
防災は不安や恐怖心から考えることが多いと思いますが、それだとどうしても自分ごとにしづらいですよね。ただ、誰かを守るため・自分の身を守るため・大切な人を守るためというポジティブな感情に従って備えることだと伝えることで、自分ごとになると思っています。例えば、キャンプやDIYなどのように、自分たちが興味のあるものが防災につながっているという伝え方をするだけで、防災とライフスタイルの距離感が近くなるのではないかと考えました」
デザインは機能のひとつ。見えるところに置けば初期消火に対応できる住宅用消火器が備えられている家庭は一般家庭の41%程度だと言われているそう。しかし、使用期限切れなどで実際は火災発生時にすぐ使える消火器がある家庭は少ないようだ。
「近年では、ガスコンロにセンサーがついたり住宅の火災警報器が義務化されたりと防災に関する法整備は進んでいますが、一方でタコ足配線などの電気器具を起因にした火災が増えています。
火災は、発生してから2・3分以内で初期消火を行うと、70%程度消火が成功するというデータがあります。だからこそ消火器を家庭の目立つところに置いてほしいのですが、邪魔だからと隅に追いやられてしまったり、物置にしまってしまったりすることがあるんですよね。実際に、僕の実家でもそうなってしまっていました。それだと初期消火が難しくなってしまう。だからこそ、インテリアに調和するデザインであるということはひとつの機能だと思っているんです」(北里さん)
では、実際に購入した場合、どこに置くのがベストなのだろうか。
「消火器は火を扱うキッチンに置くというイメージがあると思うのですが、避けたほうがいいのはコンロの真横。熱がずっと当たってしまうと製品劣化の原因になる等の理由もありますが、それよりも、実際に火災が起こったときに火が邪魔をして消火器に手が届かなくなってしまうのが問題なんです。あとは、高温多湿、常時濡れるような場所は避けたほうがいいです。
消火器を置くのに適した場所とよく言われているのが、キッチン・リビング・玄関。多くの家庭がリビングとキッチンは近い場所にあると思うので、リビングのような家族がよく集まる場所に置いて、消火器の存在をしっかりと認知・共有できる場所が一番望ましいですね」(北里さん)
防災は、大切な人への愛情の形モリタ宮田工業は防災メーカーだというだけあって、社員で家庭に消火器や防災用品を置いている割合が高いという。マーケティング担当の清水範子さんは、3回分の非常用トイレをはじめ、食べるものや水、マスク、ウェットティッシュなどを常にカバンに入れて持ち歩いているという。清水さんは、小さいころから防災が身近にある暮らしをしてきたのだとか。
「このプロジェクトに関わることになったとき、『世の中、こんなにも備えていないのか!』『自分に防災は関係ないと思っている人って結構いるんだな』と非常に驚いたんですね。というのも、防災というのはわが家では普通のことだったんです。祖父母からは関東大震災や戦争の話を幼いころから聞いていたし、親は防災用品を3日間分は常に用意していました。備蓄食料から何かを食べてしまったら申告して買い足すというローリングストックのようなものも自然とできていましたね。
毎年、年末の大掃除の際に、水・備蓄食料・非常用トイレなどの防災用品をすべてチェックするんです。そして、お正月料理に飽きたら賞味期限が近い缶詰などを消費していくというのがわが家のスタイル。“大掃除=家のダメな部分の見直し”なので家のメンテナンスもするし、今年修繕が必要そうな箇所の洗い出しもしていました。そういう家庭で育ててもらって、いまでは“防災=愛情”なんだと実感しています。何かあったときに絶対大切な人に辛い思いをさせないんだという親の思いが常にあったし、私もそれを実感していました」(清水さん)
重要なのは、防災意識を高める教育「+住宅用消火器」が発売されて約2カ月。清水さんは印象的な出来事があったという。
「この間、『+ 住宅用消火器』を購入してくれた友人の家に遊びに行ったら、玄関のシューズクローゼットに『+住宅用消火器』を置いてくれていたんです。しかも、友人の子どもがこの消火器をすごく気にいってくれて。ちゃんとメモリータグにも購入日と使用期限を記入していて『ちゃんと家族で書いたよ!』と教えてくれたり、消火器の使い方を聞くと『火元から消すんだ』としっかりと受け答えしたりしていたんです。
そのとき、やはり防災は愛情だなと思って。こういう製品が接点となって家族の防災意識が上がるということは絶対的にあり得ると実感したので、『防災をライフスタイルに。』というコンセプトをきちんと伝える活動をしっかりとやっていきたいと思っています」(清水さん)
「防災への意識を高める教育がとても重要だと思うんです。日常に起こりうる被害想定ができないと、消火器や非常用トイレを買おうとは思わないんですよね。防災メーカーの責務として、災害が起こったときの被害がイメージできるようなストーリーを伝えることは今後も意識したいなと思っています」(清水さん)
「まずは、家庭の中で消火に携わるものをアップデートして新しくリニューアル・拡充していきたい。その後には、家具やインテリアなどライフスタイルにまつわる商品をつくっている人と一緒にものづくりをしたり、ライフスタイル文脈のイベントなどを企画したりしていきたいと思っています。防災を学ぶために行くのではなくて、自分の興味のあるライフスタイルのイベントを学び・体験しに行って、実はこういうところに防災との接点があるんだ、と気付けるような。日常の防災を少しずつ重ねて提案していきたいですね」(北里さん)
災害が起こったとき、家ではどのようなことが起きて、なにが必要になるのか。それを想像するのが、防災をライフスタイルにする第一歩だ。イメージすることは、大切な人と生きる未来へつながっていく。はじめの第一歩として、防災との接点を見出すことから始めてみては。
>HP
住まいに関するコラムをもっと読む SUUMOジャーナルこの記事のライター
SUUMO
173
『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
ライフスタイルの人気ランキング
新着
カテゴリ
公式アカウント