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今回は、多くの夫婦から相談を受ける行政書士、ファイナンシャルプランナーの露木幸彦が「離婚時の親権」という問題に迫ります。
相談者・後藤絵里奈(42歳。仮名)には夫との間に9歳に息子さんがいます。息子さんをどうのように育てていくのか…夫と考えが合わず、喧嘩が続くので、息子さんのために離婚した方がいいのではないと考え始めていました。息子さんはもともと手のかかる性格。学区内の公立小学校に通っていたのですが、なかなか馴染めずに孤立していました。そんななか夫は「今まで甘やかしすぎたんだ。あいつの性根を叩き直さないと社会に出たとき、大変なことになるぞ!」と言い、息子さんを全寮制の小学校に転校させたのです。
あることがきっかけで絵里奈さんは息子さんを「主人と引き離さないといけない!」と思い至ったんだとか。12年間の結婚生活のなかで何があったのでしょうか?
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『「息子にとって夫は、害でしかない!」教育方針の違いで離婚する場合。妻が「親権」を獲得するには?』
本記事は、本人が特定されないように実例から大幅に変更しています。また夫婦の年齢や教育方針の違い、子どもの年齢や性格、特徴、そして離婚に至る経緯や親権の行方などは各々のケースで異なるのであくまで参考程度に考えてください。
<家族構成と登場人物、属性(すべて仮名。年齢は現在)>
夫:後藤楽人(44歳)→会社員(年収500万円)
妻:後藤絵里奈(42歳)→派遣社員(年収250万円) ☆今回の相談者
子:後藤飛朗斗(9歳)
【行政書士がみた、夫婦問題と危機管理】
学区内の公立校から、いきなり地方の全寮制への転校。息子さんの希望はいっさい無視で夫が独断でめた進路でした。
筆者は「それでどうなったんですか?」と聞くと、絵里奈さんは「悪い予感が的中しました」と答えます。転校から11ヵ月後、校長から連絡があったそうです。「これ以上、うちでは面倒をみきれません。そちらで引き取ってください」と匙を投げられてしまったのです。
息子さんは何をしたのでしょうか?何の前触れもなく、同級生の筆箱を二階から投げ捨てたと言うのです。環境の変化により、息子さんがストレスや不満、イライラをため込んでおり、そのときに爆発したのは想像に難くありません。
しかも、同級生や先生が問い詰めても「悪いのはそっち。僕は悪くない!」と言い放ち、謝ろうとせず、反省の態度も見せないのです。その結果、同級生は「また同じことをされるかもしれない」と疑心暗鬼になり、学校へ行かず、授業の席につかず、部屋に引きこもってしまったのです。最終的に同級生は転校したのですが、喧嘩両成敗という感じで、校長は息子さんにも転校を求めたのです。
そして息子さんは自宅に戻ってきたのですが、明らかに様子がおかしかったそうです。ある日は大人2人前の食事を平らげたかと思えば、ある日は食事の時間になっても自室から出てこない…そんなふうに過食と少食を繰り返したのですが、絵里奈さんは「前はこんなじゃなかったのに」と嘆きます。筆者は「摂食がおかしくなったのは(全寮制で)父親の期待に応えられなかったことが原因なのでは?」と声をかけました。
息子さんの体調が酷いにもかかわらず、夫は平気な顔で元の小学校に戻そうとしたとか。しかし、転校の経緯が経緯です。息子さんが同級生から変な目で見られるに決まっています。息子さんは小学校に通えず、欠席を続け、不登校の状態に陥ったのです。どうやら夜に十分、眠れず、昼に寝ているようなのです。
文部科学省の統計(児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査)によると小学生、中学生のうち、不登校生徒の割合は全体の5.3%にのぼります。
筆者は「旦那さんがやったことは息子さんのためじゃないですよ。自分の手に負えない息子さんを厄介払いしただけじゃないですか?」と指摘すると、絵里奈さんは鼻をすすりながら、「本当に先生の言う通りです」と返答します。
さらに「息子のことはこれ以上、主人には任せられません。息子にとって主人は悪影響でしかないんです」と言います。絵里奈さんは「主人と離婚しようと思っています。いったんは私の実家に戻り、地元の小学校に通わせるつもりです。今月(3月)中に離婚すれば、新学期には間に合うじゃないかって」と切実に訴えかけます。絵里奈さんが筆者の事務所へ相談しに来たのは、離婚を決断したタイミングでした。
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そして夫婦が今後について話し合う場をもうけたのです。筆者は前もって「息子さんのため、夫婦が離婚するしかないと訴えましょう」とアドバイスしました。なぜなら、夫は「俺のせいかよ!」と大声を出し、絵里奈さんが「他に誰がいるのよ!」と大声で返し、家庭内ではたびたび “ 火山が噴火 ” していたからです。息子さんが「いつ口喧嘩が始まるか」と怯えながら生活するのは可哀そうです。
そのことを踏まえた上で絵里奈さんは「飛朗斗のことを第一に考えて、出した結論なの。分かって!」と切り出しました。夫は「もう俺に気持ちがないってことか!」と的外れな言い方で反発。絵里奈さんは「とっくの昔に気持ちなんて切れています。飛朗斗のために夫婦をやってきただけ!」と応戦します。そうすると夫は「お前のことなんて、こっちから願い下げだよ!」と切り捨てた上で、「それなら飛朗斗は俺が引き取って育てるからな」と言い出したのです。
そこで絵里奈さんは「それじゃ、飛朗斗のために何かしようって考えているの?」と尋ねました。学習塾や家庭教師、英会話教室、そして全寮制の小学校。今まで夫がやったことはことごとく裏目に出ています。絵里奈さんは夫のやり方では上手くいかないと思っているのですが、夫は「いや、いろいろ」とはぐらかし、「お前はどうなんだ!」と逆ギレしたのです。
絵里奈さんは「県がやっている教育センターを頼るつもり。専門のカウンセリングとかやっているみたいだし」と答えます。今度は逆に絵里奈さんが「飛朗斗がちゃんと眠れていないって知っているの?」と尋ねると、夫は首を横に振ります。「そんなことも知らないんじゃ…小児の診療内科に連れていって薬を出してもらおうと思うの。一時的にはしょうがないじゃないかって」と畳みかけます。息子さんを立ち直らせるため、心の底から真剣に考え、具体的なプランを持っているのは絵里奈さんの方でした。
このように息子さんには、成長や教育の遅れ、情緒の不安定、人格形成の歪みが生じているのは明らかですが、全寮制の小学校に転校させたことで拍車がかかってしまいました。そこで筆者は事前に「良心の呵責に訴えるのはいかがですか?」と提案しました。
そこで絵里奈さんは「こうなったのは誰のせいなのよ!」と問い詰めたのですが、夫は「ああ、俺のせいだよ。でも今さら振り返っても仕方がないだろ?!前向きに考えようよ」と返してきたのです。我が子のことなのに、まるで他人事のように軽口を叩くので、絵里奈さんは「良心の呵責はないの?!悪いと思っているのなら、もう飛朗斗には関わらないで!」と叱責したのです。
筆者は「旦那さんが息子さんのことにこだわるのは、奥さんの言いなりになりたくないからではないでしょうか?」と指摘。結局のところ、夫はどこまで行っても子どもより自分のことが優先なのです。絵里奈さんはそのことを踏まえた上で、「飛朗斗を育てるのがどれだけ大変か分かっているでしょ?!毎日、クタクタだし、自分の時間なんてほとんどないわ。いつも心配で神経をすり減らされるのに?」と投げかけたのです。
逆にいえば、夫が自分1人で再出発すれば、時間的にも体力的にも、そして精神的にも。今まで以上に余裕が生まれるのです。最終的に夫は「好きにすればいいだろ!」と投げやりな感じで息子さんのことをあきらめたのです。そして夫が絵里奈さんに毎月5万円の養育費を支払うことで離婚が成立したのです。
厚生労働省の統計(2022年、人口動態統計)によると、夫婦が離婚する場合、子どもが1人のとき、母親が親権を持つ割合は全体(4.5万人)の92%(4万人)。残りの8%は親権を持つことが叶わず、父親に子どもを連れていかれ、母親と引き離されているのだから、油断は禁物です。また交渉の上、父親を説得し、母親が親権を持ち、離婚後も子どもと一緒に暮らせるだけでは十分ではありません。母親が子どもを引き取った場合、父親から一度でも養育費を受け取ったケースは42%しかいません。(厚生労働省の2021年、全国ひとり親世帯等調査)
母子家庭の半分は養育費なしで子どもを育てているのが実情です。2012年以降、離婚届には「養育費の取り決めの有無」をチェックする欄が新設されました。同統計によると母子家庭のうち、「取り決めをしている」のは26%、「まだ決めていない」のは6%に対して、「チェックしていない」、「チェックしたか不明」は63%にのぼります。そのため、親権の獲得で安心せず、離婚時にきちんと養育費の条件(月額、期間、一時金など)を取り決めることが極めて重要です。
この記事のライター
OTONA SALONE|オトナサローネ
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