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「僕、妻のことは好きなんです。いまも。たぶん、ずっと。最初にそれだけ言っておきたくて」と語る健太さん(仮名・38歳)は、都内の中堅メーカーに勤める会社員。妻の美咲さん(仮名・36歳)と二人暮らしで、子どもはいません。結婚8年目で、傍から見れば二人の生活は穏やかそのもの。しかし、二人には “夫婦でオープンリレーションシップを始めた” という事実があるます。
オープンリレーションシップとは、恋愛や親密さを「結婚=排他」と結びつけない関係を、双方の合意によって運用する関係のあり方です。日本ではまだ馴染みの薄い言葉ですが、一言で言えば「配偶者以外との恋愛を、互いの承認のもとで認める」ということです。
「不倫の言い訳に聞こえるのが、いちばん怖いんです」と健太さんは言いました。
結婚制度のあり方に息苦しさを感じながら、それでも誰にも言えずにいる人も一定数いるはず。その息苦しさを “なかったこと” にせず、奥さまと向き合い続けた健太さんの記録です。
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◀◀前編『「一生ひとりだけ」は無理。でも、離婚もしたくない。結婚が合わないと思った僕が、妻と「オープン」を選ぶまで』
実際、二人の問題が消えたわけではありません。合意があっても、感情は別の速度で走ります。
「最初の頃、妻は毎回しんどそうでした。僕が外出するだけで、顔が強張る。”あなたは楽しそうで、私は取り残されてる”って言われたこともあります」
ーーーその言葉を聞いて、どのように思いましたか?
「きついです。でも、妻の言い分は正しいんですよ。僕が “望んだ変更” だから。妻は “望んでないのに巻き込まれた側” でもある」
健太さんはここで、”自分は正しくやっているのに” という罠にハマりかけたといいます。ルールを守っている。嘘もついていない。夫婦の時間も増やした。それでも、相手が苦しむ。
「そのとき分かったんです。”正しさ” は、安心を保証しない。妻が必要としてるのは、正しさより、安心の実感なんだって」
ーーーどうやって “実感” を作っていったんですか?
「小さいことを積みました。出かける前に、短いメッセージを残す。帰ったら必ず “ありがとう” と言う。妻が不安そうなら、”今日はやめる” って言えるようにする。”やめる権利” を言葉だけじゃなく、行動で見せる。それの繰り返しです」
印象的だったのは、健太さんが “オープン” を自分の権利だと捉えていない点です。健太さんにとってそれは、夫婦の共同プロジェクトの一部になっています。
「もちろん、うまくいかない日もあります。妻が突然泣き出して、『私、何してるんだろ』って崩れたこともある。その日は、僕も一緒に床に座って、ただ謝って……結局、何も解決しないまま寝ました」
ーーーその夜、怖くなりませんでしたか? “終わるかもしれない” って
「怖かったです。でも、そこで思ったんです。僕らは “オープンを成功させる” ために夫婦をしてるんじゃない。夫婦を続けるために、オープンという形を試してるだけなんだって。だから、形を守るより、妻を守る。それが逆転したら終わる」
健太さんたちは何度も “改定” をしたといいます。共有の範囲を減らした時期もあれば、逆に増やした時期もある。しんどさが増えるなら、一時停止して、夫婦の立て直しを優先します。
「”一回決めたから固定” じゃないんです。”二人が壊れないように、調整し続ける” って感じです。正直、普通の結婚より手間はかかると思いますよ。今も、調整は続いてます。たぶん、ずっと続くと思う。”完成” はないと思ってて。むしろ、完成しようとしたら崩れる気がする。これは “状態” じゃなくて “動詞” なんですよね。ずっと動かし続けないといけない」
今回の取材は健太さんお一人からのお話ですが、当然ながら、この話には奥さまの側の物語があります。取材の最後に、奥さまの言葉をいくつか健太さんに聞かせてもらいました。
ーーー奥さまは、今この関係をどう感じていると思いますか?
「本人に全部聞いたわけじゃないし、僕が代わりに語るのはおかしいと思うんですが……妻はこう言ってたことがあります。『私はこれを選んだんじゃなくて、選ぶしかなかった』って。離婚するか、このまま続けるか、二択だったって。その言葉は重くて、今も時々思い出します。それを聞いたとき、申し訳ないとしか言えなかった。でも同時に、それでも一緒にいようとしてくれてることへの感謝もある。妻が『選ぶしかなかった』と言いながら、それでも選んでくれた。それが今の僕らの土台なんだと思います」
ーーー奥さまが一番しんどかった時期はいつ頃だったと思いますか?
「最初の半年は、本当にしんどそうでした。でも、一番しんどかったのはたぶん、しばらく経った頃だと思う。”慣れないといけない” と思いながら、慣れない自分がいる。その自分を責めてた時期があったみたいで。ある日、『慣れようとするのをやめた』って言ったんです。慣れなくていい、しんどかったらしんどいと言う、それだけでいい、って自分に許可を出したって。その言葉を聞いて、僕も何かが楽になりました」
▶それでも離婚しなかった理由、そして二人が目指すものとは?
最後に、いちばん素朴な問いを投げかけました。「そこまで大変なら、別れたほうが楽だったのでは?」健太さんは、少し笑って首を振りました。
「楽、を選ぶなら、たぶんどっちも地獄です。離婚しても、自分の問題は残る。結婚を続けても、調整の地獄がある。だったら、僕は “妻と一緒に悩む地獄” を選びたかった」
ーーー奥さまは、いまどう言っていますか?
「最近、妻が言ったんです。『あなたの話を聞くのは辛かったけど、あなたが嘘をつく人にならなくてよかった』って。……その一言で、泣きました。僕は “自由” を欲しがっていた以上に、”嘘をつかずに生きる道” が欲しかったんだと思います」
夫婦でオープンリレーションシップを選ぶことは、誰にでも勧められる話ではありません。むしろ、多くの人にとっては向かないでしょう。合意形成の難度が高く、嫉妬や不安を”消す”ことはできません。周囲に説明もしにくい。孤独もあります。
「社会の目は怖いです。だから言えない人も多いと思う。でも僕は、”制度に合わせて自分を壊す” のが正解だとも思えなくて」
「……生活の共同体です。それと、いちばん近くで “人生を見てくれる人” との関係。恋愛の形は変わっても、そこは変わらない。たぶん僕らは、結婚をやめたんじゃない。結婚の “前提” だけを、やめたんだと思います」
取材を終えたとき、窓の外は夕方の光に変わっていました。”結婚が合わない” という言葉は、乱暴に聞こえます。しかし健太さんが語ったのは、結婚を壊す話ではなく、結婚を作り直す話でした。正しさを語るより、合意を積む。理想を掲げるより、運用を続ける。派手さのない、地味で、痛くて、それでも誠実な選択です。
「一生ひとりだけ」は無理だった。でも、離婚もしなかった。その間にある無数の夜が、健太さんたちの夫婦を、別の形で支えているようです。
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