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ゲイやレズビアン、トランスジェンダーなどの、いわゆるセクシャルマイノリティ。最近は「LGBT」という言葉も広く浸透し、偏見や風当たりも、ひと昔前に比べれば薄れてきたように映る。しかし当事者にしてみれば、まだまだ苦労も少なくない模様。そのひとつが「住まい」。マイノリティであるがゆえ、物件探しで壁にぶつかることがあるというのだ。
LGBTの住まい探し。当事者が語る苦労とは?去る5月4日、そんなLGBTの住まい事情について思いを共有し、語り合うトークセッションが、東京・中野で開催された。なお、中野区はLGBT当事者の人口密度が最も高いと言われる街らしい。なかのZEROで開催された本イベントに参加した登壇者、見学者も中野区在住のLGBT当事者が多かった。
イベント前半は、そんな中野に住むLGBT当事者3名が登壇してのトークセッション。
まず、2011年から中野区在住の河津レナさん。交際9年目の同性パートナーと愛犬と区内の一戸建て賃貸で暮らしているが、現在の住居に行き着くまではやはり苦労もあったようだ。
「まず、私たちの条件に合う物件を探すとなると、そもそもの選択肢がかなり狭まってしまうんです。いくら夫婦同様とはいえ、世間的には『お友達』。なので、友人同士のシェアがOKであること、さらに私たちの場合はペットがOKであること。そうした条件に加え、パートナーが派遣社員として働いていて収入面での不安定さもあり、それでも住めるところとなると、かなり妥協せざるを得なくなる。幸運にも最終的にはとてもいい家が見つかったんですが……その物件に出合うまでは結構いろいろありましたね……。
例えば、女性同士で物件の内見に行くと『どういう関係なんですか(ニヤニヤ)』みたいに聞かれたり。あとは不動産会社にLGBT当事者であることを明かし理解してもらっても『大家さんには言わないでください』ということは結構言われましたね。大家さんに知られると、やはり入居審査ではじかれる可能性が高くなる現実はあると思います」
続いて、トランスジェンダーの浅沼智也さん。なお、浅沼さんは性別適合手術を経て、現在は戸籍上も男性として暮らしている。
「僕は今年、中野に転居してきました。今回の引越しは性別も変更済みでしたので特に問題なくスムーズでしたが、戸籍変更前の部屋探しでは壁にぶつかることもありましたね。外見上は男なのに、戸籍上は女性ですから、不動産会社に身分証を提示したときにやはり聞かれてしまうんです。そこでどうしても自分のセクシャリティをカミングアウトしなければならなくなる。河津さんがおっしゃったように、不動産会社は親身になって頑張ってくれても、大家さんが受け入れてくれないというケースも結構ありました」
最後に編集者・ライターの山縣真矢さん。ゲイ活動家として「NPO法人 東京レインボープライド」共同代表理事を務める山縣さんは、中野に住んで20年になる。
「20年の間、同じ中野区内で5~6回は引越しています。現在はパートナー名義のマンションで二人暮らしですね。中年男性2人で暮らしていると、やはりそれなりに周囲から不思議な目で見られたりはします。隣室が管理組合の理事の方なのですが、つい最近『どういう関係なんですか? 兄弟ですか?』って質問を受けました。顔も全く似ていないので、多少ゲイだと疑われているのかなとは思いつつ、そこはうやむやに対応しています」
いかに中野にLGBT当事者が多く住むといっても、3者が例に挙げたようにマイノリティであるがゆえの苦労は少なくない。今後、同じ境遇の人たちが部屋を探しやすく、より暮らしやすい街にしていくためには何が必要なのだろうか?
山縣さんは、「僕らのように年をとってくれば、将来何かあったときのために近所づきあいもそれなりにしておくべきなのかもしれない。でも、やはり深い近所付き合いをして詮索されたくないという人も多いと思うんです。ですから、例えば中野区が行政の立場で地域の人にセクシャルマイノリティの人が隣に暮らしているのが当たり前の時代なんですよ、中野区もそういう街なんですよ、といった情報を流していただくとか。そうした雰囲気が区全体として醸し出されるようになっていけば、もっと住みやすくなるかなと思いますね」と、さらに多様性を受け入れる文化、空気感の醸成を望む。
また、浅沼さんからはこんな意見も。「部屋を借りるときに自分のセクシャリティを開示しなくてはならないストレス、大家さんに受け入れてもらえるかの不安や恐怖感。そうしたことが少しでも取り除かれるといいですね。例えば、不動産会社のホームページに『LGBT当事者受け入れ可能物件です』などと書いていただければ、スムーズに部屋探しができるのかなと思います」
物件の大家はLGBTの入居希望者をどう見ている?一方、イベント後半にはリクルート住まいカンパニーの田辺貴久氏が登壇。自らも社内でカミングアウトしている田辺氏はLGBTの住まいの実態を探るべく、当事者と大家にアンケートを実施。その内容の一部を紹介した。
「物件のオーナーさんに『LGBTの方が入居を希望してきたらどう思うか』聞いたところ、男性同士のカップルの場合で『入居してほしくない』という回答が27.2%、女性カップルで19.4%という結果でした。2~3割のオーナーは住んでほしくないと考えているようですが、これはLGBTに限らずマイノリティな属性を持つ人を敬遠したり、『男性同士だとうるさそうだから』という理由もあるのではないかと思われます。現に、ゲイとは限定していない『男性の友人同士のルームシェア』でも『入居してほしくない』という回答は28.2%でした。
なお、LGBTの入居を敬遠する理由としては、オーナー自身が生理的に嫌だからとか、経営者の観点から他の入居者の方が嫌がるんじゃないかとか、心理的な面が大きいようです。しかし、集合住宅に住むストレート(異性愛者)の方に聞くと、『単身のゲイの方が隣に住んでいたら入居しなかった』と答えた人は10%程度。ですから、他の入居者への配慮という点では、オーナーが思うほど近隣は“気にしていない”ケースが多いのではないでしょうか」
また、10%のLGBT敬遠派も、その理由を聞くと「なんとなく」という回答が多くを占めたという。今後LGBTに対する理解が進めば、この数値はさらに下がっていくだろうと田辺氏は読む。
「企業活動でも多様性を認める『ダイバーシティ』が注目されていますが、街でも同様に多様な人たちが住める環境は魅力や活力を生む源泉のひとつではあるはずです。ですから、このようなイベントをきっかけに中野区が先陣を切り、個性派の人を受け入れる街となるといいなと思いますね」(田辺氏)
まだまだ「特殊な事情」とみなされ、窮屈な思いを強いられているLGBT当事者たち。近年は単身高齢者をはじめ、住まい探しが困難な人を行政が支援する取り組みも進んでいるが、今後は高齢者のみならず、LGBTを含む多様なケースをサポートする仕組みが望まれる。
●取材協力この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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