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管理会社や管理組合が物件の点検や修繕を行うマンションとは異なり、一戸建ての場合は自主管理が中心だ。だが専門の知識や経験をもたない普通の人が、自分の家を維持・管理するハードルは高い。
一方で、住宅業界では2018年4月から「宅地建物取引業法(宅建業法)の一部を改正する法律」が施行され、既存住宅の流通活性化を目的にインスペクション(建物現地調査)が推進される。こうした動きを背景に、一戸建ての資産価値に注目が集まっている。
そこで、今回は、戸建管理に特化した「家ドック」というサービスを取材した。「家ドック」はいわば「建物の健康診断」で、一般の人も利用できる。どんなサービスなのか、密着取材をさせてもらった。
「オオゴト」になる前に異変に気づける「家ドック」
今回取材したのは、株式会社 日本戸建管理が展開している「家ドック」。一戸建ての維持管理に関するサポートを月会費1080円(税込)で提供している。年に1回の定期点検をはじめ、設備トラブル時に緊急で駆け付けてくれるサービスなど、自主管理が必要な一戸建て所有者には気になるサポート内容となっている。
サポートサービスを行うのは、加盟しているリフォーム会社や工務店で、家ドックのサービスを提供する日本戸建管理の厳しい審査基準をクリアした加盟工務店ばかり。的確な診断のために点検担当者向けに勉強会を開くなど、サポート体制も整えている。
なお、日本戸建管理に加盟する株式会社 創建では、新しく販売を開始する分譲地で、「家ドック」のサービスを10年間無料で付帯するサポートをはじめた。「メンテナンスや管理をしっかり行っている家と、そうでない家があったとしても、リフォームやメンテナンスが資産として評価されない。これからは定期的にメンテナンスや修繕を行なっている家が正しく評価されるようにしたい」と、創建の担当者は語る。
今回、静岡県で家ドックを展開する静岡戸建管理(富士ツバメ株式会社)の協力のもと、年1回の定期点検を密着取材させてもらった。
「定期的に家の点検を行うことで、オオゴトになる前に異変に気づくことができます。細かな修繕で済むことも多く、トータルでかかるコストも抑えられますよ」と話すのは、点検担当の遠藤さん。
たしかに、大きな事が起こってからでは大変だ。実際、2階のベランダの防水処理が弱まり、1階の天井に染みができる事例もあるそうだ。家ドックで天井の点検をしておけば、実際に水漏れ雨漏りが起こる前に補修できる。 事前に異変を察知できるのは、家ドックのメリットと言えそうだ。
いざ点検スタート! 外壁のわずかなコケから修理箇所を察知今回伺った静岡県静岡市駿河区の岸本さん宅は築15年。家の建具のすべりや蛇口の水漏れなど、そろそろ細かな点が気になってきたそうだ。定期点検の診断内容は、国土交通省策定の住宅診断ガイドラインに準拠した、オリジナルの「点検チェックリスト」を用いて実施。基礎や外壁からキッチン・浴室の水まわりまで家の内外をチェック、なんと200項目をこえるチェックを実施してくれる。
点検は外観と外壁をチェックすることから始まる。まず、玄関ポーチの階段部分に小さなワレを見つけた。「躯体と階段の接着部はしっかりしているので問題はありません。小さなワレは経過措置として資料に残しておきましょう」と家ドックの遠藤さん。
その後も丁寧に外壁をチェックしていく。日当たりのいいところは紫外線による劣化、日当たりの悪いところは湿気が劣化を招くそうだ。基礎部分、屋根、とい、軒裏など、見えないところも特殊なミラーを使って隅々まで目視で確認する。
外壁に少しだけコケが発生していた。点検する家ドックの山本さんの足が止まる。顔の高さぐらいにある外壁のコケから目線を上にずらし、雨どいを凝視。なんと、雨どいの一部に隙間ができコケの原因となっていたのだ。「ここは後で簡単に直しておきましょう」と、その日のうちに修理まで完了。家主の岸本さんも気づいていなかった不具合を、あっという間に修繕してしまった。
続いて家の中へ。水まわりの「変色」に点検者の目が光る!外壁の点検が終わると、いよいよ室内の点検だ。玄関→玄関ホール→階段→リビングダイニング→キッチン→トイレ→洗面室→浴室→居室と、ひと部屋ずつ順番に見ていく。
玄関部分ではドアの開閉はスムーズか、上がり框(かまち)は壊れていないかなどを確認する。その後、どの部屋でもまず床を踏んでみて、たわんだりしないかを確認するそうだ。巾木(はばき)、壁紙のはがれや汚れなど、普通の人でも気づきやすい箇所ももちろん点検していくが、遠藤さんいわく大切なのは天井部分だそうだ。
「意外と自分の視線より上を見ていないことがあるんですよ。小さなシミや壁紙のハガレから、雨漏れの予兆が分かることもありますから、目視しておくのは大切ですね」と遠藤さん。
リビングダイニングの点検にさしかかると、出入口のドアの建て付けが悪く、引っかかりが気になった。家主のご家族も、長年、気になっていたそうだ。「ドアの建具のネジがアンバランスなようです。簡単に直りますよ」と遠藤さん。続いてキッチン。水栓からの水漏れが気になっていたそうだが、これも水栓を変えれば簡単に直るとのこと。原因がはっきりすると、それだけで安心できる。
洗面所の点検では、洗面室の洗面台の下のパイプに変色を発見。「これは意外とオオゴトかもしれない」遠藤さんの目が光る。 防臭キャップが外れて水漏れをしている可能性が大きいという。キャップはその場で簡単に入れなおしたが、万が一、床下への水漏れがあれば今のうちにすぐ修繕工事を行う必要が出てくる。やはり水まわりは問題が起こると大変なので、しっかり見ておくことが大事なようだ。
このように、住人が気付いていない些細なことでも、プロがチェックすると発見できることもある。それによって、わが家に「オオゴト」が起こる前に、手を打つことができるかもしれないのだ。
ラストは床下&天井! 住人も一緒に床下をのぞいてみよういよいよ点検も終盤だ。ロフト部分にも上がって、屋上のバルコニーを点検する。ここではバルコニーの床の防水処理がはがれていないか、傷がないかなども確認する。屋根の目視も含めて、雨漏りの原因になりそうなところは徹底的に調べる。雨漏りの有無は建物の寿命にかかわる大事な問題だからだ
天井や床下の点検口も丹念にチェックする。「こちらは2×4工法(2インチ×4インチの角材と合板を接合する耐性の高い工法)で建てられているので、天井もしっかりふさがれています。また床下もきれいでパイプもきちんとした状態ですね」と北川さん。岸本さんもその話を聞いて安心したようだ。
普段は見ることができないところも、この機会に確認できるのはありがたい。希望があれば住人自身ものぞいて確認できる。
取材中に驚いたのは、ちょっとした不具合は当日できる範囲で修繕してくれることだ。ドアの開閉は、ネジの調整ですぐにスムーズになった。最初に点検した雨どいの水漏れも、コーティングすることで簡単に直ってしまった。
診断結果は、最終的に200項目以上の診断書にまとめてくれる。
点検者の遠藤さんが気を付けていることは、なんでもかんでも「オオゴト」にしないということだ。
「いたずらに、あそこも悪い、ここも悪いと言われると、住んでいる人も気持ちのいいものではありません。本当に大きな問題になるところ以外は、経過観察をお勧めします。毎年、検査していると悪くなっているところ、直したほうがいいところは自ずと分かってきますから」
家の診断も人間の診断と同じで、悪いところばかりを指摘されると逆に気分が落ち込んで病気になってしまう。「ここは簡単に直りますよ」と言われると、それだけで安心できる。小さな故障のうちに直しておけば、費用も結果的に節約になる。
報告を受けた岸本さんも安心した様子だ。「実はずっとキッチンの蛇口が気になっていたんですが、建てた工務店に連絡してもなかなか来てくれなくて不安でした。今回診てもらって安心しました」と岸本さん。
「家ドック」とは人間ドックの住まい版だ。何より、戸建の住宅管理に関する相談窓口があることは、安心感も大きい。今後、インスペクションが浸透していけば、同じエリアの同じ築年数の建物でも、売却価格に差が出てくるようになるだろう。マイホームで快適に暮らすためにも、そして資産価値の維持のためにも、頭に入れておきたいサービスだ。
●取材協力この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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