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一家に1台の自家用車が当たり前、というのも今は昔。クルマをあえて持たない家庭も増えてきました。その結果、分譲マンションの駐車場も空きが増えているそうです。しかし、この状況が続くと実は困ったことになるのです。
なぜマンションの駐車場は空いているのか?
今から20年位前までは、世帯に1台クルマを所有するのは普通と考えられていました。そのため、新築マンションでの駐車場の利用者を決める抽選会ではなんとか自分の区画を確保しようと血眼になる人もいたくらいで、抽選後には長いウェイティングリストが作成されることも決して珍しくありませんでした。
しかし、それが今は様変わり。中古マンションの販売チラシでも、「駐車場空きあり」と表示されるケースが増えています。物件によっては、恒常的に3割以上も空いているような深刻な事例があります。
この背景には大きく3つの事情があるものと考えます。
(1)大都市圏で見られる「クルマ離れ」
世帯当たりの自家用車の普及台数の推移を眺めると、全国平均に比べてマンションの多い大都市圏での低下傾向がくっきりと見て取れます。
平成8年 → 平成27年(台数/世帯当たり)
[全国平均] 1 → 1.07
[東京都] 0.58 → 0.46
[神奈川県] 0.82 → 0.73
[大阪府] 0.71 → 0.66
(出典:一般財団法人 自動車検査登録情報協会「わが国の自動車保有動向」)
その背景としては、都市部における鉄道網など交通機関の整備、人口の高齢化・少子化に加えて若者のクルマ離れがあります。また、カーシェアリングの普及等に見られるように、必ずしも所有に固執しないユーザー層の増加も挙げられます。
(2)機械式駐車場の特性上の問題
多くのマンションでは、駐車スペースの制約上の問題から機械式駐車設備を設置するケースが多く見られます。しかしながら、クルマの大型化が年々進むなか、機械式パレットの物理的な制限(高さ・幅・重量)がネックとなり、駐車できないケースが増えています。
そのほか設備の構造上、車の搬入・搬出に時間がかかるなど利便性にも難があるなどの事情を抱えることから、敷地内の駐車場が敬遠され、あえて外部の駐車場を利用するケースも見られます。
(3)管理組合の利用ルールによる制約
一方、マンション独自の事情もあります。分譲マンションでは、駐車場の利用に関する条件やルールが新築当時から定められていますが、それがその後の居住者の事情や実需の変化に必ずしもマッチしていないこともあります。例えば、以下のような事例があります。
・周辺の駐車場料金の相場は下がっているのに、マンション内の使用料は高いまま放置されている。
・駐車区画の位置、サイズ制限などの使い勝手が料金体系に反映されていないため不公平感がある。
・利用者資格の制限があるために、居住者ニーズの取り込みが十分できていない。
多くの管理組合では、管理費とともに、駐車場の使用料も重要な収益源となっています。駐車場附置率の高いマンションでは、その使用料収入が管理費の半分程度を占めるケースもあります。
そのため駐車場の稼働率が低下すると、管理組合で日常的に生じる支出(管理会社への委託費、水光熱費、損害保険料、小修繕費など)を賄えなくなる恐れが出てきます。特に機械式駐車場の場合には、その設備の保守点検も実施しているため、その負担ものしかかってきます。
マンション管理組合は、どう対処すればいい?したがって、駐車場の空き問題を放置すると、管理組合の財政状況悪化 → 必要な管理や修繕が行えない → 区分所有者の負担増、もしくは資産価値の低下を招くといった悪循環に陥るリスクが高まることになります。
そのため、もし駐車場の空き割合が恒常的に2割を超えるようなら改善策を検討する必要があるでしょう。検討の手順としては、以下の方法で進めることをお勧めします。
1)住民アンケートの実施
管理組合として、なぜ空き状況が生まれているのか、今後改善が見込めるのかどうか、現況を調査することが大切です。
そのために、まずは居住者を対象としたアンケートを実施し、ニーズの有無、利用しない理由(機械式による物理的な制限、料金体系や利用区画の割当て等への不平不満など)など、なるべく多くの人からヒアリングするようにしましょう。
2)有効な対策案の検討
アンケートの結果が集計できたら、居住者による利用ニーズが見込める場合と見込めない場合に分けて対策案を検討します。
A) ニーズが見込めるケース
(1) 料金設定や利用者の制限など、ニーズのミスマッチが原因である場合
周辺相場と比べて料金設定が割高である、あるいはセカンドカーや賃借人の利用者が見込めるのに現在認められていない場合には、管理規約や使用細則の見直しを適宜検討します。
(2) 車両サイズや高さの制限が原因の場合
新型パレットへの入れ替えによって、サイズや高さの制限を緩和することも可能なので、更新時期のタイミングを見極める必要はありますが、リニューアルを実施するのも一案です。
B) ニーズが見込めないケース
(1) 外部貸しの検討
外部の利用者が見込めそうなら、管理組合の収益改善のために検討の余地はあります。直接賃貸するだけでなく、専門のサブリース会社を介する方法もあります。
ただし、外部貸しにした場合は、その収入に対して課税されることや、セキュリティ面での配慮も考慮することが必要です。
(2) 用途変更の検討
駐車場ニーズがなくとも、トランクルーム、バイク置場等へのニーズは見込める場合には、思い切って用途を変えることでむしろ居住者ニーズが満たされるかもしれません。
ただ、もちろんその場合には用途変更に要するコスト、転用後の収益状況等も考慮することが必要です。
(3) 維持管理費節減の検討
機械式駐車場の場合には、通常の場合定期保守点検を実施しているため、利用されない設備が多い場合には、保守点検を中止するなどの措置を検討してもよいでしょう。場合によっては、立駐機を解体して平置き型に戻すといった「荒療治」も必要になるかもしれません。
マンションの多い大都市圏を中心に、人口減少と高齢化は今後ますます進むといわれています。それを踏まえると、駐車場の空き問題は管理組合にとって深刻な問題に発展する可能性があります。管理組合の運営にも経営手腕が問われる時代が近づいているのかもしれません。
●一般財団法人 自動車検査登録情報協会 「わが国の自動車保有動向」 元画像url http://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2016/01/103833_main.png 住まいに関するコラムをもっと読む SUUMOジャーナルこの記事のライター
SUUMO
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