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”笑いが響く路地に”熱海っ子の挑戦[リノベスクール生のその後]

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当記事はSUUMOジャーナルの提供記事です

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リノベスクールその後

全国各地に広がりつつある「リノベーションスクール」。単なる学びの場ではない実践の場であり、まちにビジネスを生み出す新たなまちづくりの手法として注目されています。スクールを受講した卒業生たちの「その後」を追いました。
何も知らずに参加!? 家業を継いだ熱海っ子

JR熱海駅から徒歩約15分、名前にふさわしく潮風薫る海沿いのまち。それが「リノベーションスクール@熱海」から生まれたアーティストのためのアトリエ兼ギャラリー付き賃貸住宅『nagisArt(ナギサート)』のある渚町です。スナックや定食屋の看板に昭和の薫りが色濃く残る路地裏は、オーナー・吉田奈生さん自身が生まれ育った場所。

【画像1】現在の静かな路地。カラオケ、酔っぱらいの声、お店の扉が開いたり閉じたりする音。それが、奈生さんにとって渚町らしい

【画像1】現在の静かな路地。カラオケ、酔っぱらいの声、お店の扉が開いたり閉じたりする音。それが、奈生さんにとって渚町らしい”にぎわい”だった(写真撮影:hato)

「昔はこの路地に、お店の子どもたちがいっぱいいたんです。夜遅くまで明るいし、車も通らないから子どもたちだけで遊んでいても危なくない。そんな”にぎわい”をもう一度取り戻せたら、と思っていました」

学校卒業後、父の営む質屋や不動産業を継いでいた奈生さん。とはいえ奈生さんは、最初から「まちを何とかしよう」と思ってリノベーションスクール(以下スクール)に参加したわけではありません。

そもそもは熱海にあるコミュニティ・カフェ『CAFE RoCA』オーナーで、まちづくりNPO『atamista』代表でもある市来広一郎さんから「(奈生さんの実家が所有する)物件を貸してくれない?」と打診されたのがきっかけでした。それがスクールの「対象案件」(課題となる空き家・空き店舗)ということも理解せずに承諾し、さらに「勉強会があるから参加しない?」と誘われて何気なく行った場所。それが、多くの受講生が口をそろえて「死ぬほど大変」「でも、最高に楽しい」と言うリノベーションスクールだったのです。

「もともと社交的なほうではないんです。初日は頭が痛くなってしまって、オープニングパーティーには出ずに帰って寝ました(笑)」

地域外からの受講生のおかげで再発見した「渚町の魅力」

奈生さんが参加したユニットの対象案件は、奈生さん自身が父から引き継いだ築55年、面積84m2の木造長屋。つまり受講生でありながらオーナーという、ちょっと変わった立場で物件の再生プランを考えることに。

奈生さんの目に映っていたのは、ボロボロでカビ臭く、不要品でいっぱいの元スナック2軒。そして、昭和25年に発生した熱海大火の被害をもまぬがれ、まわりから取り残されたように昔の街並みを残す路地。「壊して駐車場にしたいくらい」だったその建物や、「キレイに整備されたらいいのに」と思っていた路地に対する見方を変えてくれたのは、講師である大島芳彦さん(ブルースタジオ)と、主に地域外から熱海にやってきたユニットのメンバーたちでした。

「大島さんが”この路地がいいね”と言ってくれたんです。ユニットのメンバーたちも”味がある”と褒めてくれて、”あれ、そんなに悪いまちじゃないのかな?”と思い始めました。褒められて調子に乗ったんですね(笑)」

渚町を若い人たちが住むまちにしたい、もう一度、子どもたちの笑い声が響く路地にしたい。そんな人と人とをつなぐ仕掛けとして「若いアーティストが住むアトリエ兼ギャラリーをまちに開き、子どもからお年寄りまで遊びに来られる場所」としてnagisArtが誕生します。

「”やれるかな……”とためらっていた私の背中を押してくれたのは、大島さんの”奈生ちゃんが楽しいと思ったらやればいいんじゃない?”という言葉でした。講師が大島さんじゃなかったら、きっとやっていませんでしたね」

もう一人の講師、ロイヤルアネックスや青豆ハウスのオーナーである青木純さん(メゾン青樹)の言った「大家さんも入居者を選んでいい」という言葉も、それまで「借りたいというお客さんがいたら、相手が誰でも貸すのが当たり前」と思っていた奈生さんにとって衝撃的でした。

「渚町にとっていい使い方をしてくれる入居者に住んでほしい、と思うようになりました」

【画像2】スナック『みゆき』改修前の様子(写真撮影:小林久見子)

【画像2】スナック『みゆき』改修前の様子(写真撮影:小林久見子)

【画像3】改修後のnagisArt。外観はほとんど変わらないが、1階内部はギャラリースペースに生まれ変わった。レザー調の壁は元からスナックにあったものを活かした(写真撮影:hato)

【画像3】改修後のnagisArt。外観はほとんど変わらないが、1階内部はギャラリースペースに生まれ変わった。レザー調の壁は元からスナックにあったものを活かした(写真撮影:hato)

【画像4】2階の住居スペースは入居者であるアーティスト自身がほぼDIYで改修(写真撮影:SUUMOジャーナル編集部)

【画像4】2階の住居スペースは入居者であるアーティスト自身がほぼDIYで改修(写真撮影:SUUMOジャーナル編集部)

お金をかけずにワークショップで改装! つながり始めた人と人

大島さんの言葉で心が決まった奈生さん。限られた予算のなかで、人が住めるようにリノベーションするため、さまざまな作業をワークショップとして公開し、いろんな人の手でDIYしてもらうことを考えました。でも当時の奈生さんは、人に何かをお願いするのが苦手。
スクール後はひとり毎日コツコツとゴミを片付けていましたが、ゴミはなかなか減りません。そんなとき、大島さんから「そうじ、いつするの?」とメッセージが届きます。大島さんがFacebookなどで呼びかけてくれ、はじめてのお掃除ワークショップには30人ほどのボランティアが集まりました。「本当にありがたかったですね」という奈生さん、最初は申し訳なくて「せめて打ち上げ代くらいは負担しよう」と思っていたそう。

「でも一緒にワークショップを企画してくれた仲間が”お金を使わないようにしよう。使うなら建物に使おう”と。たしかにワークショップのたびにお金を出していたら続かない。だから地域で開催されるマルシェのボランティアスタッフをするなど、別の形でお返ししようと思うようになりました」

お金を介さず誰もがボランタリー(自発的)に参加するからこそ、人の輪がつながり、まちの変化が連鎖していく。その後の床張り、壁塗りといったワークショップにも熱海内外から人が集まりました。スクールとワークショップを通じて、まちへの思いを共有できる同世代の友人たちもできました。

【画像5】床張りワークショップには子どもから大人まで参加(画像提供:小林久見子)

【画像5】床張りワークショップには子どもから大人まで参加(画像提供:小林久見子)

【画像6】完成お披露目会では「裂織(さきおり)」の展示やワークショップに加え、完成までのプロセスも紹介(画像提供:小林久見子)

【画像6】完成お披露目会では「裂織(さきおり)」の展示やワークショップに加え、完成までのプロセスも紹介(画像提供:小林久見子)

スクールが変えるのは「人」。そして、人がまちを変えていく

2015年6月にはお披露目イベントとして地元のクラフト作家による展示とワークショップを開催。8月には住居としての機能が整い、いよいよアーティストが住み始めました。まさに「これから!」ですが、実は渚町、以前から何度も大規模な再開発計画が浮上している地域。

「以前は”キレイになるならそのほうがいい”と思っていたんです。でも今は、たとえ再開発されることになっても、”全国どこでも一緒”の街並みはやめてほしい。そう思うようになりました」

大事なのは建物や、街並みそのものの変化ではないのかもしれません。まず「人」の視点や考え方が変わり、その「人」が「まち」を変えていく。アートによって人と人とをつなぐnagisArtの存在は、まず熱海の人を、やがてまちを変えていく大きな力となっていくのでしょう。

「(リノベーションスクールに参加して)生き方が変わりましたね。欲が出てきました」

【画像7】お披露目会にて、長屋の路地で子どもたちが遊ぶ風景。奈生さんの夢が実現した(写真撮影:吉田奈生)

【画像7】お披露目会にて、長屋の路地で子どもたちが遊ぶ風景。奈生さんの夢が実現した(写真撮影:吉田奈生)

今後はもう一棟の長屋も入居者を募集し、DIYワークショップで改修していくというnagisArt。昭和レトロな魅力あふれる渚町と奈生さんに出会いたい人は、入居を検討してみてはいかが?

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この記事のライター

SUUMO

『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。

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