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今年で4回目となる「リノベーションオブザイヤー 2016」の授賞式が2016年12月15日に開催され、「この1年を代表するリノベーション作品」が決定しました。受賞作品はどれも、リノベーションの大きな可能性や魅力、社会的意義を感じさせてくれます。その最新傾向を探ってみました。
空き店舗の可能性を見い出した作品がグランプリに
リノベーションオブザイヤーとは、「リノベーションの楽しさ、魅力、可能性」を感じさせる作品を表彰する、一般社団法人リノベーション住宅推進協議会主催のコンテストです。リノベーションとは、建物の性能を向上させたり、価値を高めたりすること。「中古住宅を購入してリノベで自分らしい家に変えたい!」「魅力的なリノベ済み住宅が欲しい!」という消費者の方々のリノベーション住宅に対する期待は年々高まっています。
そうした意識の高まりからか、「リノベーションオブザイヤー 2016」にエントリーされたのは過去最多の161作品。多くの候補作品の中から、グランプリ1作品、部門別最優秀作品賞4作品、特別賞8作品が選ばれました。まず、グランプリと部門別最優秀作品賞の特徴を紹介します。
●総合グランプリ
アーケードハウス / 株式会社タムタムデザイン
福岡県行橋市にあるアーケード商店街の空き店舗となっている2階部分を住居としてリノベした物件。この商店街で生まれ育ったお施主さんにとって、愛着のある商店街の風景をリビングに取り入れた住まいとなりました。十分な採光が望めない状況に対し、インナーバルコニーを設けることで家中に自然光が入るように設計。
空き店舗をカフェや雑貨店、アトリエなどに活用する例は浸透していますが、住居としての活用に着目した点が「発想の転換」「ここに住んじゃうのはインパクト大」だと高い評価を受け、満場一致でグランプリとなりました。
(エリア:福岡県、築年数:37年、施工面積:114.21m2、費用:1800万円、対象物件:元店舗)
●部門別最優秀作品賞〈500万円未満部門〉
「ただいま」より、「いらっしゃい」が似合うカフェ部屋ライフ。 / REISM株式会社
寝室部分が五角形という活用しづらい間取りの賃貸物件。工事現場の足場板をリサイクル活用した床や、ウッディなカウンターなど、ヴィンテージ感漂うこだわりの愛着空間に仕上がっています。
「トレンド的な素材遣いに度胸の良さを感じた。完成度の高さがある」「洗練された賃貸としてやりきった感があって、好印象」といった点で評価を受けました。
(エリア:東京都、築年数:18年、施工面積:33.47m2、費用:420万円、対象物件:マンション)
●部門別最優秀作品賞〈800万円未満部門〉
“高品質低空飛行“に暮らす家〈暮らしかた冒険家 札幌の家〉 / 棟晶株式会社
「リノベ前の薪消費量9m3、無理なく薪割りできるのは3m3。だから家の燃費を3分の1に」というお施主さんの希望のもと、2020年に義務化される省エネ基準適合住宅よりも高い断熱性気密性を付加した家です。南の窓を大きくとり、冬の日差しを室内に入れ、壁、玄関ドア、サッシを高断熱のものに。
住宅性能を向上させるリノベには、暮らしの快適性を高めるだけでなく、命を守る(ヒートショックによる死亡が多い点を踏まえて)大きな社会的使命があるという点が、この物件で改めて見直されました。
(エリア:北海道、築年数:31年、施工面積:104.14m2、費用:680万円、対象物件:一戸建て)
●部門別最優秀作品賞〈800万円以上部門〉
三角屋根のブロック造の家 / 株式会社スロウル
昭和28年制定「北海道防寒住宅建設等促進法」を具現化した、補強コンクリートブロック造の家。北海道遺産ともいえる貴重な姿を活かしつつ、結露、狭さ、古さなどを克服するリノベを敢行。外断熱に変更し高断熱サッシに交換することで断熱性能を高め、ブロック壁、鉄骨梁、小屋裏などをあらわしにすることで居住性を高めています。
その土地で培われたものを活かしている点、中古住宅の弱点である省エネ性に挑んでいる点で評価されました。
(エリア:北海道、築年数:43年、施工面積:88.30m2、費用:2600万円、対象物件:一戸建て)
●部門別最優秀作品賞〈無差別級部門〉
カフェ&お宿『シーナと一平』 / 株式会社ブルースタジオ
とんかつ店が閉店して空き家だった建物が、手芸で人の交流を育む「ミシンカフェ」&宿に生まれ変わりました。豊島区が2015年から取り組んでいる「豊島区リノベーションまちづくり構想」の第1号物件。
街の個人商店が減ってきている時代にあって、元々愛されていた場所が再び愛されるように引き継いでいくことの重要性や活用方法の大きな可能性を示しています。
(エリア:東京都、築年数:44年、施工面積:111.78m2、費用:DIY等のためプライスレス、対象物件:店舗付き一戸建て)
グランプリ、部門別最優秀作品賞のほかに8作品が審査員特別賞を受賞しています。審査員特別賞には「賃貸DIY推進賞」「空き家活用まちづくり賞」「インバウンド賞」などがあり、個々の受賞作品や部門名からも分かるとおり、リノベーションの領域は広く、果たす役割は多様であることを示しています。今年は特に次の5つのトレンドに注目しました。
(1)地域のつながりを活かした「空き家リノベ」が街を活性化させる
全国に820万戸あると言われている空き家。なかには、建ぺい率容積率の制限により現在の建築基準法下では建て替えが困難という空き家も数多くあります。そんな打ち捨てられている空き家や空き店舗の問題を解決する手法としてリノベが用いられる事例は、ここ数年さまざまな形で見られます。
昨年のグランプリを受賞したホシノタニ団地の空き団地再生に続き、今年はアーケードにある空き店舗を魅力的な住空間として活用するというグランプリ受賞作品のように、地域性を活かし、街とつながる新しい住まい方が示されました。
(2)「DIYリノベ」がより浸透多様化
DIYは昨年に引き続き今年も住まい業界の大きな潮流となっていて、ノミネート作品にも多くのDIYリノベが登場しています。
特別賞受賞の「DIY先生がいる工房付、賃貸一棟マンション!」(下写真参照)は、何から手をつけていいか分からないという人々を意識し、最初の一歩を手助けしてくれる人がマンション内にいて自分でリノベして完成させる「DIY賃貸」。総戸数58戸の約半数が空き家だったという問題のあるマンションをDIYリノベによって解決する一つの手法を示している点でも注目です。
部門別最優秀賞の「カフェ&お宿『シーナと一平』」「“高品質低空飛行”に暮らす家〈暮らしかた冒険家 札幌の家〉」も内装のほとんどがDIY作品。自ら手をかける人が増えているようです。
(3)リノベが、魅力的な「お宿」をつくる
昨今のインバウンド(訪日外国人旅行)増加による宿泊施設の需要の高まりからか、今年は「お宿」のリノベ作品が目立っていました。特別賞受賞の「開放感あふれるデザインモーテル SPICE MOTEL OKINAWA」(下写真参照)は、いかがわしい雰囲気だったというモーテルを洗練されたスタイルに変えた点で評価。ほかに「シーナと一平」もとんかつ店をインバウンド向けの「和のお宿」に変えるなど、さまざまな取り組みが見られました。
(4)住宅性能を高めることはリノベの使命でもある
築古の家は断熱性や気密性、耐震性などが基準に達していないケースが多く、そうした問題を解決するのはリノベの本質でもあります。特に寒冷地の住宅では断熱対策が必須。今年は北海道の性能リノベ作品が2部門で受賞するなど、性能リノベの需要の高まりが見てとれました。
(5)コンパクト物件を魅力空間に変える
暮らしづらい狭小空間を、住み手の暮らし方に合わせて快適空間に変えるのもリノベの腕の見せどころです。今年はコンパクトなリノベ作品も目立っていました。
リノベ作品というとデザインや構造などハード面を追求する事例が目立っていましたが、今年は、グランプリ作品「アーケードハウス」、特別賞作品「DIY先生がいる工房付、賃貸一棟マンション!」、下記の「トラスム」などのように、発想を転換して新たな住まい方使い方買い方を提案する、ソフト面を大胆に追求した事例が目立っていました。それは高いコンサルタント能力をもつリノベ会社が増えてきている証。そうした提案力によって、ユーザーの選択肢はますます多様化し、暮らしが豊かになるのだと感じました。
●SUUMOジャーナル関連記事価値が低いとされている建物にまったく異なる価値をもたらすのが、リノベの一番の醍醐味(だいごみ)。さまざまな制約のもと、自由な発想でリノベされた多彩な受賞作品、ノミネート作品それぞれに、人を幸せにする「再生の物語」を垣間見ることができました。
「リノベーションは街を変える力がある」
グランプリを受賞された方のそんな受賞コメントに、リノベーションの自由な発想や大きな可能性を感じとった授賞式となりました。
●取材協力この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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