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全国に820万戸もあると言われている空き家。建物の古さや立地などが原因でなかなか活用されにくい現状に対して、『カリアゲJAPAN』という空き家流通化サービスが昨年夏にスタートし、オーナーと借り手双方にメリットがある活用方法を提案しています。そのサービス立ち上げの背景、そして運営する方々の思いを取材しました。
「貸しにくい物件」×「格安で自由に使いたい」をマッチング
『カリアゲJAPAN』が提供するのは、「空き家を貸したいけれど、改装にお金をかけられず、貸しにくい」物件のオーナーと、「家賃を安く抑え、自分でリノベーションしたい」借り手をつなぐ『カリアゲル』というマッチングサービスです。
『カリアゲル』の大きな特徴は次の2点。
●築30年以上で1年以上空き家である物件が対象(状況により築30年未満の物件も対応可能)。
→オーナーにとって、借り手がつきにくい物件でも、改修費をかけずに家賃収入を得られるメリットがあります。ただし、家賃は相場の1〜7割ほどと安い設定になります。
●改装OKで原状回復義務がない。
→借り手は自分好みにリノベーションできて、周辺物件に比べて格安の家賃で借りられます。ただし、契約期間は6年間もしくは2年以上と決められています。契約延長はカリアゲパートナー(カリアゲJAPANに登録の運営事業者)やオーナーとの話し合い次第。
カリアゲパートナーと借り主が直接契約をし、カリアゲJAPANは契約事務手数料、入居サポート管理費(各種相談、工具貸し出し等)などを得る仕組みです。
さらに、オーナーと借り手をマッチングさせるだけでなく、物件状況によってはカリアゲJAPANが借り上げ、物件の魅力を引き出すリノベーションをして転貸する、いわゆるサブリース事業である「カリアゲ」も行っています。オーナーにとっては、収入は家賃の1〜7割(物件の程度による)と安くなりますが、全てを任せられるので手間がかかりません。
「空き家を楽しんで活用してもらうことで、豊かな暮らしをつくりたい」全国にある空き家はおよそ820万戸。総住宅数のうち空き家の占める割合は年々増加し、2013年には13.5%と過去最高値を更新しています(総務省調べ)。
空き家の数が増えるにつれて、空き家問題も深刻化しつつあります。空き家問題とは、管理されていない放置空き家があると、近隣に悪影響を及ぼすというもの。例えば、廃棄物の不法投棄、倒壊、放火、不審者の侵入、害虫の発生などにより近隣に迷惑や危険を及ぼす可能性が生じます。
「全ての空き家の1%でもいい。空き家だからこそできる可能性を探り、とことん使い倒したい」
「空き家を使えば、暮らしはもっと楽しくなる!」
そんな気持ちで立ち上げられたカリアゲJAPAN。空き家が増える一方の状況において、サービスを立ち上げた背景を、共同代表で一級建築士の内田勝久さんに伺いました。
「私が空き家に興味を抱いたきっかけは、自分の地元、岐阜県で景色の良い川沿いに立つ多くの空き家を見たこと。そのとき、それらの空き家は景観の良さを活かしたすてきな使い方ができそうなのに、活用されていない事実に気づきました。安く貸し出すことで、活用の仕方によっては地域の活性化につながるのではないかと考えたのです。例えば、格安店舗にして若い人の起業の場としたり、格安賃貸住宅にして二拠点生活の場として県外の人を呼び込むなど、空き家には大きな可能性があります」(内田さん、以下同)
「新築の場合なら入居時点で家は完成形。手を加えることはほとんどありませんが、古い家は入居したときがスタート。古いからこそ自由に手を加えることができる。借り手は自分らしい空間をとことん楽しめて、追求できる場となるのです」
「空き家は全国に820万戸もあふれているというのに、情報がほとんどありません。特に築30年以上もの家となると家賃相場は安く、多額の改修費を掛けられない入居者募集や管理が面倒、だから貸し出さないというオーナーさんの意向もありますし、賃料の安さやクレームリスクなどから不動産仲介会社が取り扱いを避けるという業界の傾向もあります。それらが、空き家情報が少なく、活用されない大きな原因となっています」
「一方で、近年、DIYがブームとなり、身の丈に合った家で自分らしく暮らしたいという感性をもった方が増えています。改修OKという賃貸物件は増えてきたものの、実際には、その流通量や自由度は大きくはありません。借り手のニーズの高まりに応えきれていない面があるのです。ただ、よく探してみると、『築年数が経過した家だから自由に改装OK家賃も安くてもいい、でも仲介会社が扱ってくれない』と考えるオーナーさんはいるわけです。自分好みにリノベーションしたい人にとって、未改装の空き家は魅力的に映ります。そうしたお互いの情報のミスマッチを減らして、空き家をどんどん活用していきたいのです」
自分は築浅の持ち家住まいだから空き家は関係ないという人でも、将来、実家を相続する可能性もあります。
「40代以降の年代の人が直面する問題として、“相続した実家の空き家化“があります。暮らしの拠点が地元から離れていたり、自分の家を建てたなど、『相続しても実家には住まない、かといって自分が生まれ育った家だから売却したくない』となって、空き家となるケースは多々見られます」
実は私事ながら筆者の実家も築45年以上という築古の賃貸用空き家を抱えているので、ひとごとではありません。
こうした「空き家をなんとかしたい、どうもできない空き家に光を当てたい」という気持ちから、建築設計、建築施工、WEBデザインを本業とする4人の創設メンバーによってカリアゲJAPANの仕組みが生み出されました。
「空き家があって活用せずに放置していても建物は傷む一方です。どうしようか悩んでいるオーナーさんには何らかの形で活用することをお勧めします。どんな空き家でも味付け次第でいかようにも変えることができます。私は、それまで誰にも見向きもされなかったような建物を人が楽しく暮らす場所に変えられたとき、喜びを感じますね」
最近、築古ならではの懐かしいたたずまいの建物が見直され、新築では出せない味わいを活かして改装した賃貸住宅やカフェ、店舗等が人気を集めています。
カリアゲJAPANの再生物件も古い建物の特徴をそのまま活かしつつ、手を加えているところが魅力。個性的な3事例を紹介します。
●事例1「元釣り具倉庫をベーグル店に」神奈川県三浦市
漁師の息子さんから「放置している空き家がある」という相談に応えた事例です。三浦半島の風光明媚(めいび)な立地を活かして地域に人を呼び込める活用方法をと考え、地元の小麦を使ったベーグルや三浦野菜を練り込んだクリームチーズを販売する「みやがわベーグル」の店舗に変身させました。
●事例2「築50年超の長屋を賃貸住宅に」東京都中野区
中野新橋駅から徒歩3分ほどの所にある、元々賃貸住宅として使われていた三軒長屋のうちの一軒。築50年超で内装の傷みが激しかった物件を全面リノベーションしました。オーナーとサブリース契約を交わし、賃貸住宅として貸し出し中です。
●事例3「築60年近いビルの一室を賃貸住宅に」神奈川県横浜市
馬車道駅から徒歩4分ほどという立地の複合ビルの住居部分。築年数が60年近くあるため、多くの部屋が空き家だったそう。こちらもカリアゲて、賃貸中です。
「カリアゲJAPANに“JAPAN”と入れたのは、この空き家活用のコンセプトを全国に広めたいからなんです。まずは“地方版”の手始めに、たまたま物件に縁のあった『カリアゲ横須賀三浦』『カリアゲ岐阜』をつくり、なるべく地元に密着して展開していきたいと考えています。しかし、東京を中心に活動している私たちができることには限りがあるので、今後は全国に“仲間”といえるような信頼できるエリアサポーターを見つけて、『カリアゲ◯◯』を増やしたいと考えています。拠点が増えればそれだけ地方の空き家活用が増えるわけですから」
「また現時点で、改装前の空き家情報はWEB上に掲載していませんが、今後、発信する予定です。そのためには多くの空き家情報を集めたいですね。現在、情報を提供していただく“空き家ハンター”を絶賛募集中です(笑)」
多くの空き家情報が集まれば、空き家を活用したいと考える人も次第に増えるでしょう。多くの人が活用方法を考えることでアイデアも蓄積され、空き家活用の可能性が相乗的に広がることにつながります。
思い切りアートなインテリアに改装するのもあり。開きたかった小さな雑貨店を始めるのもあり。数人で暮らすシェアハウスにするのもあり。内田さんのお話を伺って、安く自由に暮らせる空き家には、楽しい可能性がたくさん詰まっていると感じました。
●取材協力内田勝久さん
一級建築士。代表を務める株式会社キャンプサイトで建築設計、建物リノベーション事業を手掛ける。2016年に、「カリアゲJAPAN」を運営する株式会社あきやカンパニーを共同設立
この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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