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あの人のお宅拝見[6] 憧れの料理研究家の自宅、建築家の娘がリノベーションで実現したキッチン・オリエンテッドな住まい

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当記事はSUUMOジャーナルの提供記事です

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写真撮影/片山貴博

お料理だけでなく、その洗練されたライフスタイルに多くの女性ファンを持つ、料理研究家の有元葉子さん。筆者もその一人だが、実は有元さんの長女・このみさんとは10年前に地元の活動で知り合っていた。当初は有元さんの娘さんとは知らず、建築家・八木このみさんの柔らかな物腰に惹かれ親しくなった。

今回、取材の依頼を快く受けてくださったこのみさん。母上の料理研究家・有元葉子さんはイタリアの家に滞在中でご不在だったが、自身が手掛けられた母上宅のリノベーションを案内いただきながら、ゆっくりお話を伺うことができた。

連載【あの人のお宅拝見】
『月刊 HOUSING』元編集長など住宅業界にかかわって四半世紀以上のジャーナリストVivien藤井が、暮らしを楽しむ達人のお住まいを訪問。住生活にまつわるお話を伺いながら、住まいを、そして人生を豊かにするヒントを探ります。

築30年のマンションをフルリノベーション

5年ほど前に、自分らしい住まいにしたいと新たな家探しを始めた有元葉子さん。建築家である娘のこのみさんと共に選んだのが、こちらのマンション。築30年ほどですが、全室に窓があり、その窓から豊かな緑が臨める環境が決め手だったそう。

玄関ドアを開けると、正面に大きな出窓のあるホールに圧倒された。マンションでここまで広く、明るい玄関ホールは初めて!

【画像1】玄関の床壁、廊下をモルタル仕上げで一体化したシンプルで都会的なデザイン。窓の日差しがあるので、冷たく感じない(写真撮影/片山貴博)

【画像1】玄関の床壁、廊下をモルタル仕上げで一体化したシンプルで都会的なデザイン。窓の日差しがあるので、冷たく感じない(写真撮影/片山貴博)

【画像2】玄関で左右に居室が分かれる間取り、入って右手(写真奥)が寝室などプライベートゾーン。木製フローリングで、扉が無くても視覚的に境界だと分かる。3LDKから1LDK+Nへのリノベーション(写真撮影/片山貴博)

【画像2】玄関で左右に居室が分かれる間取り、入って右手(写真奥)が寝室などプライベートゾーン。木製フローリングで、扉が無くても視覚的に境界だと分かる。3LDKから1LDK+Nへのリノベーション(写真撮影/片山貴博)

【画像3】玄関を入って左手、キッチン・リビングなどのパブリックゾーンに続く床は、玄関と同じモルタル仕上げでシームレスに。鏡を天井高まで貼り奥行きを演出(写真撮影/片山貴博)

【画像3】玄関を入って左手、キッチン・リビングなどのパブリックゾーンに続く床は、玄関と同じモルタル仕上げでシームレスに。鏡を天井高まで貼り奥行きを演出(写真撮影/片山貴博)

このみさんに、施主である母上の要望や住まいへの想いを聞いてみた。

「実は私が母の家を設計するのは、ここが2軒目なの。最初は長野県の別荘、その時は『白黒、モノトーンの家にしたい』という要望でした」

【画像4】15年前に長野県野尻湖の母上の別荘を設計、斬新な形状で海外の本にも紹介。その写真を見せてくれた、このみさん(写真撮影/片山貴博)

【画像4】15年前に長野県野尻湖の母上の別荘を設計、斬新な形状で海外の本にも紹介。その写真を見せてくれた、このみさん(写真撮影/片山貴博)

【画像5】傾斜地の等高線に沿って建物を設計。外観が山並みに調和すると共に、室内にも木々が自然と入り込む。母・葉子さんの要望通り、モノトーンのシャープな空間(写真撮影/繁田 論)

【画像5】傾斜地の等高線に沿って建物を設計。外観が山並みに調和すると共に、室内にも木々が自然と入り込む。母・葉子さんの要望通り、モノトーンのシャープな空間(写真撮影/繁田 論)

「今回は、日本の素材をできるだけ使ってほしいと言われました。デザイン的には別荘とは違って、自宅として心地よいものに。母は私と違って“甘いモノ”が好きなんですよ」と、“甘い”とはデザイン・テイストのことで、レースなど乙女チックなかわいい系らしい。私も年々、“甘いモノ”好きになってるんだなぁ……。

「心底好きだった」実家の住空間が原風景

有元さんは、娘3姉妹が成長してから料理研究家としてメディアでも有名になった方。子育て中はどんなお母様だったのでしょう?

「小さいころから母は人を家に招いて、お料理を振る舞うのが好きでした。私たち娘には『料理は、しっかり食べて舌で覚えれば良い』という教えで、結婚して必要に迫られるまで母は特に教えようとしたり、手伝わせることもなかったんですよ」

このみさんの学生時代、母上がつくるお弁当は友達から注目の的で、わざわざ教室まで見に来る人たちがいたようです。既に料理研究家の片鱗がうかがえるお話。

「キッチンであれこれ試しながら研究している母の姿は楽しそうで、私たち姉妹も自然と料理好きにはなりました」

【画像6】「食べることは全ての基本。しっかり食べないと、体だけでなく心も育たないですよね」(このみさん)(写真撮影/片山貴博)

【画像6】「食べることは全ての基本。しっかり食べないと、体だけでなく心も育たないですよね」(このみさん)(写真撮影/片山貴博)

そのかわり、厳しく言われていたのは「片付け」だそう。「母は新聞の朝刊を読んだら、すぐに古紙置場へ片付けるような人。物は増やさない、ためないがポリシーです」。なるほど、こちらのお宅はショールームのように片付いていたのですが、それが有元家の日常のようです。

そんな、食べることを大切にして育ったこのみさんが設計する家は、キッチンが中心にあるキッチン・オリエンテッドな家。

「その家の一番良い場所を、キッチンにするプランニングを提案しています」

【画像7】大きな窓に面した明るいキッチン、タイル張りのL字型&木製のアイランド。天井板を取って配管を出した形で天井を高くした(写真撮影/片山貴博)

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カスタムメイドのアイランドキッチン(オーク材)は、キャスター付きの可動式。これは、母上の料理教室スタジオで採用し好評だったので同じ機能にしたもの。人が集まるときにはレイアウトを変えられる、便利なモバイルキッチン。

「キッチンのキャビネット収納は、引出し型でなく[扉+内引出し]を私は提案しています」。引出し型より、取り出しやすく収納力もあるからだそう。内引出しはドイツ製の頑丈なステンレス製レール。

【画像8】扉の中はスライド式の可動棚。『ラバーゼ』ブランドで料理道具をデザイン監修している有元さんのキッチンには、当然ボウルから水切りかごまで『ラバーゼ』が勢ぞろい!(写真撮影/片山貴博)

【画像8】扉の中はスライド式の可動棚。『ラバーゼ』ブランドで料理道具をデザイン監修している有元さんのキッチンには、当然ボウルから水切りかごまで『ラバーゼ』が勢ぞろい!(写真撮影/片山貴博)

【画像9】「日本は料理道具が多いので、きっちり片付けられるようプランニングします」(写真撮影/片山貴博)

【画像9】「日本は料理道具が多いので、きっちり片付けられるようプランニングします」(写真撮影/片山貴博)

ドイツの老舗GAGGENAU社のガスコンロ。アイランドにはIHコンロと鉄板焼プレートもビルトイン。

【画像10】プロ仕様のコンロをタイルのカウンタートップに収め、ノスタルジックで懐かしいデザインに仕上げたキッチン。このみさんの言う“甘い”テイスト、私は大好き!(写真撮影/片山貴博)

【画像10】プロ仕様のコンロをタイルのカウンタートップに収め、ノスタルジックで懐かしいデザインに仕上げたキッチン。このみさんの言う“甘い”テイスト、私は大好き!(写真撮影/片山貴博)

「タイル張りのカウンタートップは雰囲気が良いだけでなく、意外と使いやすいですよ。最近のタイル目地は進化していて防汚機能も高くなっています」。有元邸では、L字で窓辺のカウンターまでタイルを張り、一体で質感のあるインテリア空間に仕上げている。

飾るものでなく、実用的なものが好きな母

キッチン上部はオープンシェルフ、籠(かご)のコレクションが印象的。

【画像11】「籠は、その土地ごとの素材でつくられたものが必ずどこにでもあるので、集めるのが好きみたいです」(このみさん)(写真撮影/片山貴博)

【画像11】「籠は、その土地ごとの素材でつくられたものが必ずどこにでもあるので、集めるのが好きみたいです」(このみさん)(写真撮影/片山貴博)

「でもね、これ飾りじゃなくて日常使っているもので。こんな使い方もしていて……」と言って、取り出してくれた籠の中には……「ゴム手袋が入っているの(笑)」

【画像12】布巾とかスポンジなどが籠に収納されている。単なる紐も、こんな風にするとインテリア小物のよう(写真撮影/片山貴博)

【画像12】布巾とかスポンジなどが籠に収納されている。単なる紐も、こんな風にするとインテリア小物のよう(写真撮影/片山貴博)

籠コレクションかと思いきや、片付けの達人らしいなんとも実用的なデコレーション。ぜひ、マネしたいアイデアです。

【画像13】籠は国内も地方によって特徴があるし、海外からでも軽いから持ち帰りやすいお土産。これぞ、暮らしの達人!(写真撮影/片山貴博)

【画像13】籠は国内も地方によって特徴があるし、海外からでも軽いから持ち帰りやすいお土産。これぞ、暮らしの達人!(写真撮影/片山貴博)

キッチンからワンルームでつながるオープンな空間は、ダイニング・リビング的な場所。中央には「母が、いつか欲しいと思っていた」著名な木工作家ジョージ・ナカシマ(米国)のラウンドテーブル。日本では香川県の桜製作所でつくられているもの。

【画像14】モルタル床に分厚いブラックウォールナット製テーブル、藤を編んだような紙パルプ製チェアにガラスのペンダント照明と、マテリアル・ミックスをこなした大人のインテリア(写真撮影/片山貴博)

【画像14】モルタル床に分厚いブラックウォールナット製テーブル、藤を編んだような紙パルプ製チェアにガラスのペンダント照明と、マテリアル・ミックスをこなした大人のインテリア(写真撮影/片山貴博)

【画像15】「この迫力あるテーブルに、パステルカラーのチェアを合わせるところが“甘いモノ”好きな母っぽい。私にはこの組み合わせは思いつきませんね(笑)」と、このみさん(写真撮影/片山貴博)

【画像15】「この迫力あるテーブルに、パステルカラーのチェアを合わせるところが“甘いモノ”好きな母っぽい。私にはこの組み合わせは思いつきませんね(笑)」と、このみさん(写真撮影/片山貴博)

クールなデザインが好きなこのみさんに対し、私を含めた有元ファンは「この女性らしいヌケ感」に惹かれるのであります。

有元家のルール「おせちづくりは、全員集合!」

二児の母でもあるこのみさんは、夫と主宰する建築事務所の建築家であり経営者。自分のことだけで一杯一杯な筆者から見ると、さぞや忙しそうで、寝込んだりしないのかと心配しますが「母こそ今だに、国内外を飛びまわって大丈夫かしらと(笑)私も好きな仕事に没頭するのは、母譲りなんでしょうね」と笑います。

【画像16】「子どものころから母は、『仕事は一生続けなさい』と言っていたの」その言葉通りこのみさんは、子育てをしながら建築の仕事を続けてきた(写真撮影/片山貴博)

【画像16】「子どものころから母は、『仕事は一生続けなさい』と言っていたの」その言葉通りこのみさんは、子育てをしながら建築の仕事を続けてきた(写真撮影/片山貴博)

「母が仕事を始めたころは、どんな仕事も断らず引き受けて頑張っている姿を見てきました。子どものために必死だったと思います。今、自分も子どもを持ち『母は立派だったなぁ』と改めて実感します」

まだまだ現役でご活躍の母・葉子さんは、独立した娘達ファミリーと顔を合わす機会も少なくなりがち。「ここ10年くらい年末のおせちづくりは家族全員、絶対参加という暗黙の厳しいルールがあるんです(笑)」

年末の数日間、家族総出でキッチンに立ち手間暇をかけてつくるおせち料理。

その充実したおせち料理は『有元家のおせち作り』という本にも収められていますが、『おせちづくりには日本料理の基本が全て入っているから、年に一度、皆でつくるのは大事なこと』という母上の想いがあるという。それだけでなく、作業の合間に出されるまかない料理が充実していて、男子の孫たちもそれを楽しみに参加するそう。流石、料理研究家。孫の代まで胃袋つかんでマス。

今回の有元邸を訪問しこのみさんのお話を伺って、母・有元葉子さんが娘たちに伝えたいことが、このおせちづくりの“時と場”に集約されているように思えました。

食を通じて人をつくる素晴らしさを伝える母、それを実現するキッチンを設計するのが娘なんて、出来過ぎなストーリーですね。私も年始をおせちで祝えるよう、年末のラストスパート頑張りたいと思います!

建築家 八木このみ(娘)
1968年東京都生まれ。1993年芝浦工業大学工学部建築工学科卒業、1995年芝浦工業大学大学院修士課程修了。2000~2001年荻津郁夫建築設計事務所勤務を経て、2001年~ 夫・八木正嗣氏と八木建築研究所を主宰。2010年~ 芝浦工業大学非常勤講師。
ホームページ【八木建築研究所】
料理研究家 有元葉子(母)
料理教室やショップ経営の他著書も多数、料理関連以外にも『有元葉子・このみ・くるみ・めぐみ 母から娘へ伝える暮らしの流儀』など、新刊は『有元葉子の料理教室 春夏秋冬レシピ』。
ホームページ【@ da arimoto yoko】

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この記事のライター

SUUMO

『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。

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