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誰もが憧れる別荘を、自分たちでつくって、気軽に利用できる「共同別荘」にする。そして各地の共同別荘を利用することで、新たな人の流れを生み出す。そんなユニークな取り組みをしているのが、徳島県にある「ハンモサーフィン協会」。2015年の設立以来、四国を中心に10の共同別荘を設け、そこを拠点にした活動が地域の活性化にもつながっているようだ。
ゲストハウスに集まる人たちの様子にヒントを得た
“ハンモサーフィン”とは、「ハンモック」とネットサーフィンなどの「サーフィン」を合体させた造語。つまり、“心地の良いハンモックのような別荘を、おもむくままに渡り歩いていくこと”を意味する。そんな由来のひとつを教えてくれたのは、同協会代表理事の柴田義帆さん。
徳島県美馬市脇町にあるゲストハウス「のどけや」のオーナーでもある柴田さん。同協会を立ち上げたきっかけは、古民家を自ら改築し開業したこのゲストハウスに、多くの外国人観光客が集う様子を目の当たりにしたことからはじまる。
「四国遍路88カ所すべてに88カ所のゲストハウスがあればおもしろいはず」。そうひらめいたものの、実際に自分が88カ所のゲストハウスを開業するのは非現実的。そこで地方の古い空き家を安く借りて別荘にする。それを徐々に増やしていき、誰もが気軽に利用できる仕組みをつくることにしたのだ。
【画像1】「のどけや」別館でくつろぐ外国人観光客(写真提供/ハンモサーフィン協会)
疲弊した地方に、人が集える場所が生まれた現在四国、淡路島に10カ所あるハンモサーフィン協会の別荘を利用したり、別荘づくりや別荘を拠点に地域活動をする場合には会員登録が必要。滞在や宿泊が可能な一般会員は年会費4万8000円(月額4000円)(税別)、またその拠点で事業も行える特別会員は年会費12万円(月額1万円)(税別)となる。これさえ払えれば、自分の別荘のように、無料で何度も宿泊できることを考えればお得ではないだろうか。
「会員はまだまだ少ないですが、積極的に勧誘しているわけではありません(笑)」と柴田さん。10カ所ある別荘のうち実際に稼動しているのは6カ所。現在本州にも拠点となる別荘の開設を目論んでいるものの、まだ総数が多いとは言えないため、会員数よりも拠点づくりや仕組みを調えることに力を入れている。
その一方で実際に稼動している高知県越知町にある別荘では、地元の人を交えたバーベキュー大会などを催し、人口12人という小さな集落に一時的にではあるが、にぎわいを生み出すことに成功している。利用されていない空き家を同町のホームページで見つけ、その後の賃貸契約に至るまでは、役場の窓口も大屋さんも同協会の趣旨を理解してスムーズに進んだという。
また徳島県三好市東祖谷にある重要伝統的建造物郡保存地区落合集落にある提携拠点「なこち」では、オーナー自身が周辺を地元ならではの視点でガイドするツアーも開催。「秘境」と呼ばれるこの山深い集落に30人ほどの参加者が集まり盛況だったという。
「定住や移住に対する助成金もいいですが、一時的に居住するためやセカンドハウスへの助成金も必要ではないでしょうか」。
過疎化する地方へ人の流れを生み出すための助成金のあり方に、柴田さんなりの考えを語る。
【画像2】高知県越知町の別荘で行われた地元の人を交えたバーベキュー(写真提供/ハンモサーフィン協会)
【画像3】高知県越知町にある別荘。修繕が必要なため格安で借りることができた。水まわりなどをDIYで修理している(写真提供/ハンモサーフィン協会)
【画像4】淡路島にある別荘。現在、管理する人材を募集中だ(写真提供/ハンモサーフィン協会)
滞在するだけじゃない別荘のあり方ゲストハウスでもある「のどけや」は、ハンモサーフィン協会の別荘としての側面ももつ。同館の1階では、特別会員が月額1万円で飲食店を経営している。昼はランチ、夜はおでんやバーなど、曜日によって異なる飲食業が会員によって展開されている。
「滞在するだけでなく、特別会員になれば、この別荘を利用して破格で事業にチャレンジできるのです」と柴田さん。白壁の古い町並みが残る脇町で、新たな人の流れが生まれたことで、地元美馬市や徳島県も同協会の活動に注目し始めた。柴田さんは県職員の研修やサテライトオフィス事業などにも力を貸している。
さらに別荘を共有オフィスであるコワーキングスペースとしても利用できるような取り組みも始めた。「観光客、会員、コワーカーなど、この拠点をさまざまな人が利用できるプラットホームにしたい」。共同別荘から始まった同協会の活動は、別荘という箱を利用して、さまざまな人が行き交い、交流する拠点づくりへと発展しているようだ。
【画像5】「のどけや別館」の工事に携わる会員。別館も使われていなかった古民家を改修して利用している(写真提供/ハンモサーフィン協会)
【画像6】改装中の「のどけや別館」の2階(写真提供/ハンモサーフィン協会)
【画像7】改装後の「のどけや別館」。窓からは四国山地の山並みを望むことができる(写真撮影/藤川満)
【画像8】改装後の「のどけや」1階で談笑する柴田さん(左)と同協会理事の長町敏明さん。このスペースは会員が経営するおでん屋やバー、食事処にも利用されている(写真撮影/藤川満)
【画像9】「のどけや」からほど近い場所には、清流穴吹川があり、川遊びを楽しむこともできる(写真提供/ハンモサーフィン協会)
【画像10】「のどけや別館」の前に立つ柴田さんと長町さん。別館は道の駅にも隣接していて観光客の利用も多い(写真撮影/藤川満)
「ただ観光するだけじゃなく、別荘を拠点にもっと気軽に地域の人と交流してもらいたい」。そんな思いのもとで活動するハンモサーフィン協会。まだ立ち上がったばかりだが、活動拠点となる別荘や共感する自治体企業も増えつつある。今後、全国へと展開していけば、地方から地方へと人の流れが大きく変わってくるかもしれない。
●取材協力この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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