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共用部の使い方で嫌でも目についてしまうのが共用廊下や階段です。
私たち管理会社にも苦情が多く寄せられる部分なのですが、すぐには対処できないのが実は厄介なところ。なぜなら、騒音や自転車が止められないなどの問題と違い「今自分に直接迷惑がかかって困っている」というよりは、「危険な気がする」「見ていて何となく不愉快」というレベルから発展していくことが多いからです。
今回は共用廊下にまつわるクレームの発生と、そのクレームが悪化するメカニズムまで見ていきましょう。【連載】賃貸管理のプロに聞く
賃貸仲介・管理の現場に20年以上携わっているプロが、賃貸物件に住む人から相談の多い事例と解決方法をご紹介する連載ですそもそも、共用廊下に私物を置いてもいいの?
マンションやアパートの共用廊下に、私物を置く方がいらっしゃいます。遭遇することが多いのは、子ども用のベビーカーやおもちゃ、キックボードや自転車など。大人が使うものだと、レジャーに使う道具や、車や自転車関連の道具など。傘立てや植木鉢などを置いている方も見かけます。室内に置くには場所を取ったり汚れたりする、という種類のものが共用廊下に置かれがちです。
そもそも共用廊下に私物を置いていいのかと言うと、答えはNOです。消防法や自治体の火災予防条例にも規定があるため、消防署の査察や消防用設備等点検の際に、「共用廊下や階段に置いている物を撤去してください」と指摘されることがあります。地震や火災が発生した際に避難の邪魔になったり、火が燃え移って避難路がふさがれたりすることがないようにするためです。
邪魔にならないなら、私物を置いてもいいの?では、避難の邪魔にならなければ私物を置いてもいいのでしょうか。
「傘立てや自転車の空気入れなど小さなものをちょっと置くくらいなら、うるさく言わなくてもいいのでは?」と思う方も多いと思います。玄関ドアが廊下から少し奥まっている建物などは、そこにものを置いても廊下自体の幅には関係なく、避難の邪魔にはならないように思えますよね。
しかし、いざ火災が発生すると、そこに置いたものが廊下側に倒れないとも限りません。照明が消えて暗くなったり煙が充満したりするなかで、誰かがそれにつまずいてけがをしたり、逃げ遅れてしまったりしたとしたら、それはとても大きな問題です。
それなら、エアコンの室外機置場などの上に、廊下側にはみ出さないように倒れないものを置いた場合や、一番端の部屋で廊下部分が他の方の避難通路になっていない場合は、専用スペースとしてものを置いてもよいのでは? と思う人もいるでしょう。
実はこれもNGです。これはこれで「見苦しい」と感じる方や「子どもが触ったら危ない」と心配する方からクレームが来ることがあります。
そもそも、クレームが発生していなかったとしても、共用部分の使い方に決まりがある場合はNGです。たいていの賃貸借契約書には、階段や共用廊下に物を置くことを禁止する条文が入っています。気になった方は、チェックしてみましょう。
「もうちょっと……」、が思わぬクレームに発展クレームを言って来られる方の話をお聞きすると、たいていの方は「前々から気になっていたが、だんだん置かれるものが増えてきた」とか、「ずっと放置されているので汚い、不要なごみを放置しているのではないか」などと仰います。
私の過去の経験で「これはさすがに見苦しいし非常識だ」と思ったのは、共用廊下で洗濯物を干していた方です。現場に見に行くと、廊下の手すりだけでなく廊下に面している共用階段の手すりにまで洗濯物がずらり。手すりだけでは足りなかったのか、エレベーター前の広くなっているスペースに物干しざおが渡してあり、運動靴までぶら下がっている始末です。
クレームを言って来られた方にお聞きしたら、最初は部屋の前だけに干されていたのが、日を追うごとにだんだんと洗濯物が増えてきて今の状態になったとか。「恥ずかしくて晴れた日には人を呼ばないようにしている」と言われてしまいました。
これでは、もし募集中の空室を見に来た方がいても決まるわけがありませんので、安全の問題だけでなく、大家さんの賃貸経営にも迷惑がかかることになります。
こんなにひどい例にはめったに遭遇しませんが、共用廊下に物を置いていてご近所からクレームになるときには“ある傾向”があります。それは、「注意されないし、もう少しくらい大丈夫かな?」と少しずつ置くものを増やしたり、使わないまま放置したりと“行為がエスカレート”してきたときです。悪気なくやってしまう方がほとんどなので、廊下に置いてあったものを片付けて「すみませんでした」と謝って終わらせたいですよね。
しかしながらクレームを言って来られる側は「うるさいと思われると嫌なので、自分が苦情を言ったと相手に分からないようにしてほしい」と匿名を希望される場合がほとんど。注意された方は誰に言われたのか分からず謝ることすらできません。
同じ階にお住まいの方から不快に思われていたのに、その相手が誰だか分からないというのはやはり気分が良いものではありませんよね。共用廊下に私物を置いている方は、他人から指摘される前に、わが身を振り返り、気を付けたいものです。
安心安全快適な住環境は、みんなでつくるもの「ちょっとだけ」の気持ちで置いたものを他の人が見て「あのうちも置いているから私も置こう」と置く人が増え、「注意されないからもう少しくらい増えても大丈夫だろう」と置く量も増えていくのが、この問題の悪化のメカニズムです。
そして、われわれ管理会社がとても困るのが、私物の放置を注意したときに、「今までもずっと置いていたのに今さら注意されるのはおかしい」と言われたり、「あの人も私物を置いているのに私だけ注意されるのはずるい」と反論されてしまったりすることなのです。
共用廊下や階段に私物を置かないのは、お住まいになる方全員の安全のためや、住環境を守るためなので、おかしい、ずるいという議論になるとわれわれも本当に困ってしまいます。
置くものの種類や量や置いている期間について、どこまでが良くてどこからがダメかという決まりをつくるのは本当に難しく、入居者さん同士でクレームになった場合は、われわれも「全てダメですよ」と言わざるを得なくなります。
共用廊下は日常的に目に付きやすい部分なので、自分は普通に使っているつもりでも、もしかしたら苦々しく思っている人がいるかもしれません。
心当たりのある方はクレームになっていないうちに気をつけていただけると、ご自分も嫌な思いをしなくて済むと思います。逆に、他の人の置いている荷物が増えたり起きっぱなしになっていたりしていることに気がついた方は、ひどくなってからでは解決に時間がかかってしまうので、ぜひお早めに管理会社や大家さんに教えてくださいね。
お互いが節度をもって暮らすこと、そして、自分は良くても他人の迷惑になったり不快に思われたりする可能性があるという視点をもつことが、共同住宅で気分良く暮らす秘訣だと思います。
伊部 尚子 賃貸住宅での暮らし応援団この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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