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私たちが商品やサービスの購入を検討するうえで、ひとつの参考になる“広告”。その広告においては、「大げさな表現」、いわゆる誇大表現を用いることはNG。消費者の適正な選択を妨げることになるため、なかには禁止されていたり条件付きで使用を認められたりしている表現もあります。それは、不動産広告でも同じこと。しかし、昭和初期には今ではNGな表現が不動産広告でまかり通っていたそう。その実態をリサーチしました。
“誇大表現”に分類されるワードとは?
広告の図鑑『新聞広告美術大系』(大空社)を参照すると、昭和戦前期の不動産広告は主に新聞広告が多く、小さなスペースに物件や土地の情報が文字でぎっしりとつづられています。
例えば昭和9年から11年ごろを見てみると、“海望絶佳”や“眺望絶佳”というように、風景がすぐれていて美しいことを指す“絶佳”という言葉が多用されているのが目につきます。また、“最も健康な住宅地”“模範的な住宅地”という表現も気になります。
そこで、不動産関係の法律に詳しい、三平聡史(みひら・さとし)弁護士に聞いてみると、それらの言葉は法律によって規制されていて、安易に使用できないそう。
「これらは、“特定用語”に分類される表現です。特定用語とは、使うときに裏付けになる正確な資料が無ければ使えないものになります。例えば、『日本一』『特選』のような、人それぞれの評価によって変わる言葉は使ってはダメなものが多いです。特定用語を使う場合、面積などの数字で根拠を示す必要があります。つまり『根拠なく使ってはいけない』ということになります」(三平弁護士)
“絶佳”はもとより“最も健康”や“模範的”といった比較対象の指定が難しい言葉は、根拠を持ち出すのは難しいものです。ということは、暗に「使わないように」ということの表れだとも考えられます。
「規制はあくまで消費者の不利益になるから行うものです。土地や家を買うということは普通、人生で何度もないことです。庶民にとっては高い買いものです。それが被害の大きさにつながります。言葉一つで、高額の物を買ってしまうリスクもあるということで、広告表現は一層慎重になるべきだというメッセージなのです」
不動産広告の取り締まり強化は昭和55年ごろからでは、いつからこうした規制が設けられたのでしょうか?
「昭和55年(1980年)の『宅建業法の改正』が代表的な規制です。戦後活発になった住宅地の開発や交通機関の発達、住宅ローンの普及などが進んでいたことなどが影響していて、『新駅ができて土地の価格が上がる』とか、可能性の低い高いに限らず、予想や噂をもとに売るケースも増えていました。ただ、売り手もルール自体がないことで、どこまでが良くてどこからが悪いのか、と言われても分からないわけです。やはりルールをつくってもらわないとサービスを提供する側も困る状況だったので、まずは消費者保護の観点から、宅建業者は契約を成立させるために購入者へ事実と違ったことを伝えてはいけない、というルールをつくりました」
これにより、不確実なもの、変動的なものを広告に記載するのは止めようという流れができたそう。
「誤解を招くようなものはダメだという話です。客観的に同じ理解を得られるようにしていかないとフェアではありません。そして、昔と今では言葉の使い方が全然違いますが、模範住宅地であれば『模範って何?』『健康って何?』という疑問が残る訳で、共通理解ができません。ただ、当時の人はそれに価値を見出していたことも読み取れます」
ほかにも「今がご購入の絶好期であろうと思います」という表現も見受けられたのですが、購入時期の良し悪しを印象付ける表現も使ってはいけないようです。
「購入を焦らせてはいけないというルールがあるので、それに抵触してしまうでしょう。例えば、『今だけです』という言い方もできません。明確に規制されている言葉は、広告だけでなくセールストークでもNGです」
ルールなき昭和の時代を経て、現在の法規制が出来上がったようです。企業も消費者に誤解を与えないような慎重な表現をする必要がありますが、同時に消費者側も広告の言葉を真に受けずに、信頼に足る情報を見抜く目を持たなければいけないのかもしれません。
●取材協力この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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