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コロナ禍の影響でテレワークへ移行し、「どこに住んでもいいんじゃないか」と考えた人は多いのでは?実際に、毎日通勤しないなら、と郊外に住み替えるケースもあるそう。なかには、それをさらに発展させ、日本各地の多拠点暮らしを始めた会社員も。今回は、そんな新しい暮らし方を実践している定塚仰一さんにインタビュー。
「実は会社に承諾をもらうのが大変だった」というエピソードをはじめ、多拠点居住を選んだ経緯、各拠点での暮らし方、今後の展望など、あれこれ聞いてみた。
インタ―ネットの広告会社で働く社会人3年目の定塚さんが、多拠点居住を始めたのは今年6月。利用しているのは、定額住み放題サービス「ADDress」。全国にある空き家・空き別荘を活用した拠点に、どこでも好きな時に暮らすことができるシステムだ。
もともと学生時代から、世界各国をホームスティしながら旅をしたり、地方活性化のサークル活動もしていた定塚さん。当然、この新しい暮らし方には興味をひかれていたそう。ただ、当時利用できる拠点に、郊外が多く、通勤という観点から二の足を踏んでいたそう。
「面白そうだなとは思っていたものの、会社員のうちは無理かなと。とにかく満員電車が苦手だから、新宿にある会社に徒歩通勤もできる距離の住まいに、友人とルームシェアをしていました」
そんななか、緊急事態宣言を受け、会社はテレワークとなり「ほぼ自宅で引きこもり生活に。『別に新宿に住んでいる意味ないな』と感じちゃったんです。今だったら、どこにでも暮らせる。多拠点もアリじゃないか!と俄然現実味を帯びてきました」
会社へ多拠点居住を交渉。平日はメイン拠点の習志野でただし、大きなハードルも。会社の就労規則から、特定の自宅を持たない働き方は規則に違反してしまうことになっていたのだ。
「僕は顔や名前を出して、何かしら発信していきたかったし、会社に嘘をついたり、規約違反するのは嫌だった。そこで会社の人事と話し合い、ルール内で運用出来るように、特定のメイン拠点で住民票を取得できるしくみを利用し、平日のテレワークは常にその拠点で行うという形に。週末だけを他の拠点を利用するスタイルとなりました」
交渉した結果、特定のメイン拠点で住民票を取得できる仕組みを利用し、平日のテレワークはその拠点で行うという形に。週末だけ他の拠点を利用するというスタイルになった。
そして驚くべきは、実は定塚さん、この多拠点暮らしと同時に、結婚をしたというのだ。
「彼女は今実家に暮らしていて、一緒に暮らすのは年明けの予定。彼女には“いいんじゃない”と賛成してもらいました。実はこのADDressは、契約者と同伴なら、家族一緒に追加費用なしで利用できるので、週末は彼女と別拠点で過ごしているんです」
一方、休日はあらゆる場所に足を運んでいる定塚さん。南伊豆の温泉のある家、海が目の前にある元は民宿だった南房総の家、歴史ある街にたたずむ鎌倉の家etc.
そこにあるのは、高揚感だ。「やはりテンションが上がります。森に囲まれた家なら、ベランダでコーヒーを飲みながら朝ごはんを食べたいなと考えたり、知らないまちを探検したり。今週末はどこに行こうか考えるのが楽しい。場所を変えるだけで、何気ない日常そのものが新鮮に感じられます」
ホテルのように1泊ごとの費用がかからず、気軽に利用できるのもメリットで、自然豊かな郊外や地方の拠点だけでなく、日本橋や品川など都心のゲストハウス拠点を利用することもある。
各拠点で出会う人は”生き方の見本市”。気づきを与えてくれるさらに、定塚さんの多拠点生活で得られたのは、人との出会いだ。20代から50代まで、さまざまな人たちと出会うことで、常に刺激を得られる。
例えば、習志野をメイン拠点にしているのは、大手メーカーの経営企画室で働く家守さんの20代男性と、登録者数1万人以上の飲食系ユーチューバーなど、個性豊かな顔ぶれ。ほかにも、数日だけ利用する人が入れ替わり立ち替わりやってくる。北海道から来た元・保育士さん、キャンピングカーで鉄塔のメンテナンス業をしながら旅する夫婦、次の仕事が始まる前の合間にやってくるビジネスパーソン、モラトリアム期間の仮住まい、実家とは別の住まいとして選ぶ人もいる。もちろん、自分が週末に訪れる習志野以外の家でも、また新しい出会いがある。
「まるで働き方、生き方の見本市。こうした新しい暮らし方を選ぶ人って、自由で面白い人が多くて、話をしていて楽しいです。それに、自分の人生に迷ったり悩んでいる人もいて、どこか自分探しの側面も。いろんな人と話すことで、自分の仕事の意外な面白さを再発見したり、今、社会で求められていることを肌で感じたり、とても刺激的です」
今まで、学生時代に、世界22カ国の家族と共同生活をした記録を書籍化したり、副業で、旅の中で知り合った農家や職人さんのPR動画を企画・制作するなど、常に旅と人との出会いを大切にしていた定塚さん。エネルギッシュな生き方をするアクティブな自由人という印象を持つが、新卒として就職して以来は「ずっと会社と家の往復の3年間でした」と意外な発言も。
「少し縮こまった生活をしていましたね。それでいて飛び出すのが怖い。コンフォートゾーン(心地よいゾーン)にいた感じでした」
そんな毎日の中、新型コロナウイルスが直撃。「否応なしに働き方、暮らし方を考えざるをえない状況になりました。また、今回、多拠点暮らしを会社に交渉したことで、社会のほうも変化を余儀なくされていると実感。会社員でもフリーランスでも変わらず、変化に順応し新しい事に進んで取り組んで、個人の力をどれだけ強められるかが大事だと再認識しました」
消費行動も変わった。この多拠点居住の開始とともに、持っていた家具や家電はほぼインターネットのフリマサイトで譲渡や売却をした。もともと古着好きで洋服もたくさん持っていたが、思い切って断捨離を敢行した。
「完全に捨てる前に、最小限のモノで暮らせていけるか1週間ほど生活をしたら、案外大丈夫だったんですよ。モノを持たないから買わないで済み、ミニマムな暮らしを実践できています」
結婚後は、夫婦ふたりの拠点の部屋を借りつつ、今のサービスを利用し、ふたりでさまざまな場所に旅したいと考えているという。いつかは自分の家を提供するホストファミリーにもなってみたいという野望も。常に自分にフィットした暮らし方を軽やかに変えていきたい定塚さん。今後の活動がどうなるか楽しみだ。
●取材協力この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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