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賃貸に住む一人暮らしの人が亡くなった後の遺留品の処分について、親族と連絡が取れず、多額の費用や時間・手間がかかることや相続権によるトラブルなどで撤去が難しいことが問題になっています。実際にどのような問題が起こっているのか、また孤独死の現状や遺留品処分の最適な解決方法とは?
「この問題に対して非常に危機感をもっている」という、単身者の自立や生活支援のサポートなどを行うNPO法人、抱樸(ほうぼく)の奥田知志さんにお話を聞きました。
単身世帯の増加で「孤独死」が年々増えている!長寿化や核家族化の影響で単身世帯が増え、それにともない孤独死の件数も年々増えています。また、一般的に「孤独死」という言葉を聞くと身寄りのない高齢者をイメージしますが、奥田さんによると60歳以下の孤独死も増えているそうです。
「東京都の監察医務院の調査では、東京23区で65歳以上の孤独死は2015(平成27)年時点で3127件にのぼります。調査が開始された2003(平成15)年時点で1451件ですから、12年の間で2倍以上になっているのです。
また、全年代の一人暮らしの死亡者数のうち60歳以上の高齢者の割合が6割以上になりますが、逆に言えば、4割に近い割合で60歳未満の人がいるということです」(奥田さん、以下同)
一人で亡くなった人のうち10%程度は40代、15%以上が50代と聞くと、40代の筆者はドキッとしてしまいます。万一、自分が単身になったとき、頼ることができる公的なサポートなどはあるのでしょうか。
「単身者、特に住宅の確保に支援が必要な人をサポートする機関としては居住支援法人があり、その主な仕事は次の3つです。1つ目は住宅と住宅を必要としている人とを”マッチング”すること、2つ目が家賃を滞りなく支払うための”債務保証”、3つ目が”生活支援”です。
マッチングや債務保証はすでに不動産業や賃貸保証会社など、ビジネスとしても社会的な体制が確立していますが、生活支援において、特に”死”にまつわる看取り・葬儀・死後事務などはこれまで“家族の仕事”とされてきました。そのため、身寄りのない人が死に直面したときに家族機能の代わりになるものが十分に整備されていない現状があります」
孤独死で困ることの1つが「遺留品処分」たしかに、もし家族がいないと考えると、自分の看取りや葬儀、死後事務を一体誰に頼んでおけばいいのか、分かりませんね……。住まいについて言えば、大家さんに対応してもらうようなことも生じるのでしょうか。
「大家さんにとってまず必要なこととして考えられるのが“家賃や共益費の滞納分を誰に払ってもらうのか”ということと“原状回復をどうするのか”の2つだと思います。ご存じの通り住居内で死亡された場合、その住居は”事故物件”として扱われ、しばらくの間、入居者の募集が厳しくなります。
よく孤独死の問題として取り上げられるのはその2つですが、見落とされがちなのが”残置物・遺留品の処分”です」
実際に私も家族のいない人が亡くなった場合、その人が残した物を誰がどのように処理していくのか想像がつきません……。
「日本少額短期保険協会が行った調査では、孤独死の際に大家さんに生じた損害額が明らかになっています。原状回復にかかった費用の平均が約36万円ですが、残置物処理にも平均で約21万円程度かかっているのです」
大家さんの管理次第で、遺族から訴えられることも21万円! それは大家さんにとっても大きな負担です。さらに奥田さんは、残置物処理については費用の問題だけではなく、相続の権利が最もトラブルになる原因だといいます。
「相続人がはっきりしない場合でも、第三者である大家さんが亡くなった人の物を勝手に処分をすることはできません。それは使い古した家財道具など財産としての値打ちがほとんどないものでも同じです。そのため、相続人が見つからない場合、大家さんが家庭裁判所に申し立てをすることで相続財産管理人を選任する制度があります。ところが、この制度を利用するには、与納金として80万~100万円が必要です。また最終的に遺留品を国庫に引き継ぐまで平均で10カ月程度を要するため、その間の残置物の保管や管理・運搬費用も、大家さんにとっては大変な負担となります」
さらに奥田さんによると、実際に、ある不動産会社がオーナーの物件で、遺族に残された相続権がもとでトラブルになった事例などがあるといいます。
「一人暮らしの人が亡くなり、会社の倉庫で残置物を管理していたのですが、遺族が見つからず半年ほど経過したタイミングで処分をしたそうです。ところが、その後に現れた遺族が、財産を無断で遺棄したとして不動産会社に対して訴訟を起こしました。残置物の中には、思い出の品など値段を決めにくいものもあり、賠償金の請求は500万円近くにもなったそうです」
現在の法律では、本人が亡くなる前に死後の処分を承諾していただけでは財産の相続権はなくなりません。奥田さんは「一定の期間をもって公的な管理に移行することが法改正等によって認められない限り、残置物処理の問題は解決しないだろう」と言います。
法や政治が行き届かない部分を埋める、NPOの取り組みこのように現在、残置物処理の問題は本質的な解決が非常に難しい状況にあります。国会では既に遺留金について質疑がなされていたり、2017年1月には国土交通省が全国の都道府県に対して公営住宅で亡くなった単身者の残置物への対応方針を策定するよう通知したりしています。けれども、民間賃貸住宅について実行力のある法改正が行われるにはまだまだ時間がかかりそうです。
そうした国や自治体の法制度が行き届かない“穴”を埋めるべく、抱樸では独自で自立のサポートや互助の仕組みを設けています。
「抱樸の自立生活サポートセンターでは、ホームレスの方を中心に自立、介護、そして最後の看取りまでサポートしています。
また、亡くなった後にお葬式をやってくれる家族がいない人のために、月500円で入会することができる互助会も運営しています。万一のことがあったときには、互助会が家族の代わりにお葬式を執り行うのです。家の片付けや遺留品の処分は、ボランティアの人たちで行います。それでもやはり、処分後に遺族が現れて相続権を主張されるようなことがあれば、トラブルになりかねないでしょうね」
単身者でも安心して住み続けられる未来のためにこれらの問題を解決して、単身者の人でも安心して住み続けるためにはどのようにすればいいのでしょうか。改めて奥田さんの考えを聞きました。
「現在、行政で行われている空き家の撤去や休眠預金の活用等は本来、個人の財産であるものを公共性の観点から行政が手を入れられるように法制度を改定したものです。同様に残置物についても同じような手続きが取れるようにしないと、関連するさまざまな問題が放置されたままの状態になります。
多くの人にとって他人事ではなく、この問題に関心をもってもらい、国や自治体の具体的な施策につながることを望みます」
たしかに奥田さんのいう通り、訴訟リスクや処理費用の負担を大家さんだけに委ねている現状では、単身者に家を貸したくないと考える大家さんは少なくないでしょう。この状態が続けば、現在でも住宅の確保が難しい身寄りのない人や高齢者、障がい者、外国人などの人たちが一層困窮する可能性があります。
特に家族のいない単身者であれば、住む場所を失ってさらに孤立を深めることになりかねません。残置物の問題は単体の問題だけではなく、住宅確保や生活保護の問題にも、影響していく可能性があるのですね。
単身者、つまり「ひとり暮らし」になる可能性は誰にとっても無縁ではないでしょう。実際に私も将来、親がどちらか亡くなってしまったら、兄弟や子どもと疎遠になってしまったら、と考えると自分や家族のことが不安になります。
将来の不安を払しょくするために私たちができることは、まずは現在起こっている問題に興味をもち、市民として有権者として積極的に声を上げることかもしれません。
●取材協力この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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