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どれだけバッシングされても、決してこの世から消え去らない不倫。
お互い籍を入れないままの恋愛。パートナーが複数存在する恋愛。
恋愛相談家・ひろたかおりが従来の「婚姻」の外にある恋愛と、その心理を傾聴する。
— C子(39歳)は、ヨガの教室を運営するバツイチの女性だ。子どもはいない。エクササイズが好きなだけあって、引き締まった体つきの上に童顔なせいもあり、男性から声をかけられる機会が多いのが自慢だった。
久しぶりに呼び出されたとき、B子は教室の帰りだった。カフェで一緒にドリンクを買い、席に座るなり
「ねぇ、前の夫がしつこく連絡してくるんだけど、どうすればいい?」
と怒りを露わにした声で尋ねてきた。
「連絡って、よりを戻したいってこと?」コートを脱ぎながら聞き返すと、
「そう。でもね、違うの。仕事が上手くいっていないのよ。だから私のお金をあてにしてるんだと思う」
冗談じゃない、と憎々しげに口を歪めて笑いながら、C子はストローに指をかけた。
1年前に離婚してから、C子はかねてからの希望だったヨガの教室をオープンさせた。インストラクターとしての経歴も長く、それまで勤めていたスポーツジムではファンも多かったことから、生徒の数に困ることなく今も順調な経営が続いている。
「彼氏がいるって言えば?」と言うと、C子の表情が変わった。
どうして今の「彼氏」の存在を告げないのか。恋人がいるとわかれば、前の夫だって手を出そうとは思わないはずだった。
「彼氏、じゃないのよね」
ぽつりとC子がつぶやく。誰のことを指しているのか、すぐにわかったようだった。
「じゃぁ何なの」
結婚しているときからずっと親密な関係を築いてきたその男は、と続けようとして、
「だって体の関係とか、今もないし。あの人は親友って感じ?」
C子から出た言葉は、これまでも何回か耳にしてきたものだった。
離婚したのに、なぜ彼を「恋人」にしないのか、そこにはC子の思惑があった。
C子の言う「あの人」は、最初の結婚前に付き合っていた男性だった。
「本当に好きで、結婚するならこの人しかいないと思うくらい好きだった」とC子は言うが、それが叶わなかったのは、家族に反対されたことが理由だった。
彼の家は、両親が共働きのサラリーマン家庭だったらしいが、疾患を持つ兄弟がいた。そのせいでC子の家族からは交際をスタートさせたときから良い顔をされず、結婚したいとふたりで実家に行ったときは
「結婚して苦労をさせるために育てたんじゃない」
とたいそうな剣幕で追い返されたそうだった。
結婚すれば、いずれその兄弟の面倒をC子がみることになる。「私が大変な思いをするって言い張ってたけど、要は自分たちに影響があるのが嫌だったのよ」とC子は思っていた。
だが、C子は家族の反対を押し切ってまで彼と一緒になる勇気はなかった。
結婚に反対されたことが原因で彼との仲も崩れ、別れた後で出会ったのが前の夫。半年の交際で結婚を決めたのは、
「あの人じゃないなら2番目でもいいやって思ったのが本音」
と以前C子は漏らしていた。
だが、「2番目に好きな人」との結婚は、最初から上手くいかなかった。手堅い仕事をしていて年収が安定しているからと家族も歓迎してくれた前の夫は、入籍後すぐに会社を辞めてしまったのだ。
「支えてくれるよな?」と一方的な期待をC子にかけて、前の夫は以前からやりたかったというデザインの会社を立ち上げた。当時スポーツジムでインストラクターをしていたC子は、突然不安定になった生活のためにさらに仕事を増やさなければならず、「何もかも相談なく決められた」と今でもその頃の前夫に恨みを抱えている。
ストレスの多い毎日の中で、C子は元カレを思い出した。
音信不通になっていた元カレだったが、連絡してみるとあっさり返事がきた。それからふたたび会うようになり、夫の不満や仕事のことなど、何でも打ち明けるようになる。
「でも、私が人妻だから向こうが遠慮しちゃってね、どこまでも清く正しい付き合いだったのよ」
とC子は繰り返すが、夫より長い付き合いで安心して話せる元カレは、C子の毎日に欠かせない存在になっていった。彼は未婚のままであり、彼女もいなかったことが、さらにC子の「執着」を煽っていた。
聞いていると、彼のほうもC子に未練を持ったままだったことがわかる。別れた原因が自分以外のものであったことが、彼の中に後悔と希望を残していた。
結局、C子の結婚は2年足らずで終わった。その頃には「夫より顔を合わせる時間が長い」くらい彼との仲は濃いものになっていて、だがその関係はプラトニックなものだと、C子は繰り返し周りに語った。
インストラクターの仕事に疲れて帰るのは、自宅ではなく彼の家。彼と一緒にご飯を食べて、夫のいる家に帰るのは午前様。そんな生活が夫に受け入れられるはずはなく、何度も不倫を疑われた。
その度に、C子は「疲れてるのにそっちの仕事までは手伝えない」「元はと言えば勝手に会社を辞めたあなたのせいでこんなに忙しい」と夫を責め、「元カレ」と過ごす自分を正当化した。
「体の関係がなければ不倫じゃないでしょ」と言い張り、彼とのつながりはあくまで「友達」「親友」という言い方で押し通していた。
そんな状態で彼女のほうから離婚を切り出し、最後は裁判所での調停まで開いて勝ち取った離婚だった。
晴れて独身に戻ったC子だったが、彼とは今でもプラトニックな関係だと言う。
それが真実かどうかはさておき、頑なに「恋人」にするのを避けるのは、以前家族に反対されたことが尾を引いていた。
「付き合ったって、また親に反対されるって思うと気が重いの。結婚は無理だしね」
ヨガの教室をオープンさせたのも、これから先「おひとりさま」で過ごすことを考えての決断だった。ひとりで生きていく糧をしっかり得ながら、彼との関係も続けたい。そんな思惑がC子にはあった。
「2番目に好きな人」との結婚に失敗し、大騒ぎで離婚してからは腫れ物を触るような距離で家族が接してくるのも、C子にとっては苦痛だった。
「彼氏」にしない限り、何か言われることもない。その気楽さをC子は望んでいたのだ。
だが、C子はそれで良くても彼のほうはどうなのか。
いつまでも「親友」で留め置かれたまま先に進めない関係を、彼はいつまで受け入れるだろうか。彼が「親友」以外の関係を望んだとき、C子はどうするのか。
結局、自由なようでいて一番窮屈な思いをしているのはC子なのではないかと、別れた夫に手を焼く彼女を見ていると思う。
関係を曖昧にしたままでも、お互いがそれで良いなら問題はないだろう。
だが、C子の場合は、自分の人生だけを安泰にして彼を都合よく存在させようとしている。
どんな関係を持とうと自己責任だが、もし彼がそんなつながりに愛想を尽かして離れていく決心をしたとき、C子はどうするのか。
恋人関係を避けるつながりとは、そんなリスクを忘れてはならないのだ。
この記事のライター
OTONA SALONE|オトナサローネ
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