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どれだけバッシングされても、決してこの世から消え去らない不倫。
お互い籍を入れないままの恋愛。パートナーが複数存在する恋愛。
恋愛相談家・ひろたかおりが従来の「婚姻」の外にある恋愛と、その心理を傾聴する。
— D子(36歳)との待ち合わせは、決まって夜、仕事が終わってから食事を一緒にするのが習慣だった。
コールセンターで主任を任されているD子は独身のひとり暮らし、実家は県外にあって親の面倒をみる必要もなく、ここで気楽な生活を続けている。
「それでね、彼が週末うちでホラー映画観たいって言うんだけど、オススメある?」
3杯目になるビールのせいで、D子の頬は紅潮していた。平日の夜に居酒屋で飲む人は少なく、「レストランよりゆっくりできるから」といつも同じ店を指定されていた。
「映画もいいけど、彼氏さんは週末に家を空けて大丈夫なの?」
それを尋ねると、D子はちらりとテーブルのお皿に目をやり、焼鳥の串を取り上げると
「いつも通り『県外に出張』って彼女さんには言うらしいよ」
とケラケラと笑って肉を頬張った。
「いつまで続くんだか」
串を戻し、今度はジョッキを手にしてD子が続ける。
「ずるいよねぇ、結婚する彼女がいるのに私とも付き合いたいなんてね」
勢い良くビールを飲むD子の、細く白い喉を見つめながら、
「ねぇ、こっちと付き合えばいいのにとは思わないの?」
と訊くと、D子は唇についた泡を指で拭って
「略奪愛なんて、面倒くさいだけよ」
とまた笑った。
D子の彼は3歳下の公務員で、数年前に付き合っていたが一度別れて「友人」に戻っていた。
交際が終わった理由は、彼の浮気。当時今の部署に配属されたばかりで多忙を極めていたD子にとって、応援してくれているとばかり思っていた彼の心変わりは、まさに「青天の霹靂」だった。
「お前が忙しいからつい出来心で」という彼の言い訳を受け入れられるはずもなく、D子は別れることを選択した。だが、友人に戻った後もなんだかんだと理由を作っては彼のほうから誘われることが多く、本当は別れたくなかったD子も彼を突き放せないまま、気がつけば体の関係になっていた。
「でも、そのときの浮気相手と結婚するなんて、馬鹿にしてるよね」
以前、D子は顔を真っ赤にして怒りを露わにしながら、同じ店でジョッキをテーブルに叩きつけていた。
だが、
「そんな男、さっさと捨てちゃいなよ」
と言われると、今度はしゅんとなって肩を落とす。
「わかってるんだけど……。結構、今の関係も楽でいいんだよね。彼の家がほら、おカタいからさ、どうせ結婚なんて期待できないし」
D子はもぞもぞと歯切れの悪い言葉を返しながら下を向く。
彼の家は、両親からその祖父母にいたるまで公務員が揃う一家だった。彼の兄は省庁に勤めていて、彼自身もいわゆるキャリア組。そんな彼が小さな企業でコールセンターの主任を肩書に持つD子と付き合ったのは、「もともと将来を考えていたわけじゃない」と彼女は思っていた。
「付き合っていたって、どうせいつか終わった関係だっただろうし」
とD子は繰り返す。
彼の浮気相手は、同じ部署で働く女性だった。自分とは違う、「彼に釣り合う女性」。それがD子に追い打ちをかけた。
「私とは結婚の話なんかしなかったけど、今の彼女さんとはできるわけでしょ? そういうことよ」
もちろん、そんな彼女がいながら自分とも関係を続けようとする彼に、憎しみを抱いたこともある。「馬鹿にされている」はずっとD子が抱えている黒い感情だが、それでも彼からの誘いを断れないのは、いつしかこんなつながりでも「求められるだけマシかも」と思い始めたからだった。
「それでもさ、彼のことが好きなんだもんね」
そう言うと、D子は言葉を返さずに笑う。今は、その表情に以前のような苦しみは見えない。
「彼との結婚は諦めたけど、まぁ今の関係でもね、ひとりぼっちよりいいんじゃない?」
こんな扱いに甘んじるD子にやきもきしたことは幾度もあったが、最近は彼女がさっぱりした顔で
「次の彼氏が見つかるまでは、あの人でいいよ」
と口にするのを見ると、何も言えなくなった。
彼がこぼす今の彼女の愚痴を聞いていると、本当はよりを戻したい。私と付き合うほうが彼も楽しいはず。これがD子の本音であって、彼女自身「略奪愛」は何度か考えたはずだった。
でも、奪うことを決めたとき、必要になるであろう膨大な精神力を考えると、そこまでして彼と付き合うことが自分にとって良いのか、D子にはわからないのだった。
彼女の忙しさを理由に浮気した男、そして「元カノ」となってからも体の関係を平気で続ける男、その浮気相手と結婚する意思がある男。
そんなリアルを目の当たりにして、こんな男と復縁することが果たして本当に自分の幸せになるのか、D子は冷静に考えようとしていた。
だから、「とりあえず」次が見つかるまでは。
責任を持たずに済む、気楽な関係を続けることがD子にどんな未来をもたらすのか、彼女の次の選択を信じたい。
男性にひどい扱いを受けながらも、拒否できずにずるずると関係を続けてしまう女性は多いかもしれない。
だが、本人がそのつながりを冷静に判断して受け入れるなら、関係はまた別の方向に流れる可能性もある。
自分の幸せを捨てない意思がある限り、D子の選択は決して暗い結末にはならないだろう。それは、他人が判断することではなく、彼女がみずから手にする自分だけの了解なのだ。
#婚外恋愛
#不倫
この記事のライター
OTONA SALONE|オトナサローネ
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