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環境に配慮した自給自足のエネルギーとして再生可能エネルギーの重要性が年々高まっている。太陽光、風力、水力と発電方法はさまざまだが、そのなかでも天候に左右されないエネルギーとして注目されているのが「地熱エネルギー」だ。そこで国内で初めて地熱発電に成功した大分県・別府市にて現状と今後について伺った。
地熱発電の導入数でトップ
温泉大国・別府市は源泉数2217件、毎分83058Lの湧出量を誇る。これは日本でもずば抜けて多い源泉数と湧出量で、至るところで湯けむりがたなびいている景色は、国内外問わず観光客に支持されている。そして同市はその豊かな源泉を活かして日本で初めて地熱発電を成功させた。
1919年、別府の鶴見噴気孔付近で掘削した後、1925年に東京電灯(東京電力の前身)の太刀川平治博士が深度約24mの井戸から出た噴気を利用して電灯10個分ほど(1.12kW)の発電に成功したことがきっかけで、地熱発電が全国へと広まった。その後、東日本大震災をきっかけに再生可能エネルギーの導入が進んでいるが、なんと2017年3月末時点で全国29カ所のうち17カ所が別府市と、日本の地熱発電所の約6割が同市に集まっている。
別府市の地形は扇型で、二つの断層が市街地を挟むように山から海に向かって伸びており、その断層をつたって温泉が湧き出ている。山側・中側・海側と断層を掘る位置によって違った泉質の温泉が楽しめるのが特徴だが、地熱発電に関して言えば山側の断層付近では高深度の掘削を行わなくても高温の温泉や蒸気を確保することが可能であり、それによって地熱バイナリー発電の導入が進んでいる。
固定価格買取制度(FIT制度)に関する地熱発電の買取価格は40円/1kwと太陽光に比べても高く、また天気に左右されず24時間安定供給ができるクリーンエネルギーであることから地産地消のエネルギーとして拡大が期待されている。しかし実際のところを伺うと、開発費用や設置費用、メンテナンス費用など経費が高く事業として成り立たない恐れや、メイン産業である温泉に「これ以上、掘削を続けると影響があるのではないか」という懸念の声が一部で出ていることが分かった。別府市の産業の9割はサービス業なので、温泉の湯量や温度への影響は死活問題でもあるのだ。
災害などの非常事態にも備えた取り組みは、まちのシンボルに一方、地熱発電の先駆けとして走っているのが「杉乃井ホテル」だ。このホテルでは1980年に日本のホテル業界では初めて本格的な地熱発電所として運転を開始し、当時は3000kWの発電に成功した。現在は1900kWの設備容量により、ホテル館内の約46%の電力を賄っている。
「温泉はスケールと呼ばれる『湯垢』がつくので、温泉を通る管やタンクなどのメンテナンスには費用がかかります。それでも熊本地震のときには非常電力として稼働し、ホテルなので非常食やベッドなどの提供もできる態勢が整っていたので、災害時に感謝の声をいただきました。私たちとしても続けてよかったなと思っているところです」と語る広報の東さん。
事実「震災に見舞われて一時的だが観光客が減ったときも杉乃井ホテルの明かりがついていたことは市民のこころの支えになった」という地元の声もあった。また通常時でも夏には温水プール、冬にはイルミネーションと電力を観光客の楽しめるエンタテインメントに替え、地域の魅力を発信している。
古き良き温泉熱利用でうまれた温泉たまご乱掘が懸念されてはいるが、多くの温泉が湧き出るなかでそのまま利用しないのはもったいないというのも事実である。鉄輪温泉にある「双葉荘」は、源泉から出た蒸気をさまざまな形で利用して観光客向けのサービスを提供している旅館だ。「地獄蒸し」と呼ばれる、蒸気でつくる温泉たまごは温泉独自の硫黄の香りがさらに味わいを増し、6時間以上たってもあたたかい。また蒸し湯やオンドルもじんわりと体を温めてくれるので長湯ができない人にも人気だ。古くから行われている温泉の二次利用の代表例であり、それが観光資源となるなど、最先端の有効活用法でもある。
再生可能エネルギーの自給率を上げるにはまず、個人の意識を高めることが必要このように、地熱エネルギーの取り組みは国内でも進んではいるものの、現状の施設への配慮を優先とし、使用用途などを慎重に考慮しながら進めているのが事実として見えてきた。環境にも優しく、非常事態でも使えるエネルギーは市外の人間にとってはメリットしか見えないが、温泉を生業にする人には持続可能な温泉資源の利活用が重要な課題として上がってくる。「まずは現状湧き出ている温泉の蒸気の二次利用など、現状の状態でできることから始めていき、だんだんと理解を深めていくのが必要なことかもしれません」と環境課の津川さんは語る。ある地域に依存する、ということではなく、再生可能エネルギーを私たち個人がどう生み出すか。次世代に向けてエネルギーのあり方をひとりひとりが考えていくことが大切なのかもしれない。
●取材協力この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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