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都心のスモールスペース暮らしを応援する活動をしている“ライフオーガナイザー”のさいとうきいさん。ライフオーガナイザーとは、空間整理・思考整理のコンサルタントのこと。「好きな物、必要な物など家にある物は多いけれど、工夫して小さな家に暮らしています」と話すさいとうさんに、すっきり暮らすための収納・インテリア術について伺いました。●【連載】モノを減らしてスッキリ暮らす
「2016年こそはすっきりした家で暮らしたい!」「4月の新生活に向けて片づけよう!」--年末や年頭に、そう心に期した人は多いのではないでしょうか? 家がすっきりしない最大の原因は『物が部屋の広さに対して必要以上に多いこと』。自分の物の適正量を知って、余分な物を手放せばよいのですが、「もったいないから捨てられない」となかなか実践が進まないのも実情です。そこでこの連載では、スッキリライフを送っている方々に、物の所有欲から解放された心の変遷や処分の実践方法についてうかがいます。物を減らして「今年こそ!」を実現させましょう。「小さな家でも”持ちたい物は持つ”暮らしをしています」
ご自身やご家族の仕事の都合でニューヨーク、サンフランシスコ、ホーチミン、横浜、東京などで暮らし、そのほとんどが60m2未満のコンパクトな家だったという、さいとうさん。
「職場へのアクセスや生活利便性を考えて、どの街でも都心の便利な立地を選ぶことが多く、そうすると選択肢は小さな家になるのですが、そうした限られた広さの家でも『持ちたい物は持つ』という暮らしをしています。物があることで家族みんなが楽しい気分になり、暮らしが快適になるのなら、物が多少増えてもかまわないと考えているからです」
現在のお住まいは59m2・1LDK+DEN(「DEN」とはほら穴を意味する言葉で書斎や趣味のための部屋などに使う。さいとうさんのお宅では子ども部屋として使用)のマンション。ご夫婦・お子さんの3人家族と愛犬1匹が暮らす家としては、決して広いわけではありませんが、部屋の広さに合わせて選んだサイズの家具が収まり良く置かれ、すっきりとした居心地の良さを感じさせてくれます。
見えるところはすっきりしていますが、収納内は意外と物が多い、さいとう邸。
例えば、キッチンには包丁8本、まな板5枚、フライパン4つのほか、グリルパン、オーブンプレートまでそろっています。これは料理好きで道具にこだわりがある夫の愛用品。
さいとうさんがキッチンでよく使うのはハンドブレンダー、スライサーやジューサーなどで手早い調理に活躍しています。自動床拭きロボットやズボンプレッサーという便利な物もそろえています。「料理や掃除などの家事は苦手意識があるので、サポートしてくれる道具は積極的に取り入れています」
「狭い家の場合、広さに合わせて少ない物で暮らす必要に迫られることは多々ありますよね。あれこれ工夫してそれを楽しめるのなら良いのですが、我慢することが多いのはよくないのではないかと思います。必要なら物は多く持ってもいいと割り切り、限られた空間を有効に使って、隅々まで手の行き届いた生活をすることが大切なのではないでしょうか」とさいとうさんは話します。
「”1軍”をゆったり8割収納、”2軍”はぎゅっと10割収納」では、物が多くても部屋をすっきりさせるためには、どうすればいいのでしょうか。
片づけで考えるべき大切な点は「ストレスフリー」ということ。
さいとうさんが所属する日本ライフオーガナイザー協会では、片づけを「3つのS」=「1.ストレスフリー→2.すっきり→3.素敵」に分けて考えるそうです。
必要な物がどこにあるか分からない、何が入っているか分からない収納がある、よく使う物の出し入れがしづらい、といった状態なら、最初にそのストレスを取り除かなければ、いくら「すっきり」片づいた「素敵」なインテリアの家にしても、暮らしが快適にはなりません。物の適正量を見直して、使いやすい動線上に収納することが必要です。
そのため、まずは自分の物の適正量を知ることから始めましょう。
さいとうさんに教えてもらった適正量の見極め方は「何がどこにいくつあるかを把握しているか」で判断すること。把握できない物は適正量オーバー=物に圧倒されているということで、見直しのタイミングです。
「物の適正量は人それぞれで異なります。他人から多いと思われても、自分が物の存在を把握できていればいいわけです」
さらに、物の量が収納スペースの広さに対して過多でないか、出し入れにストレスを感じないかという点も確認します。どう工夫しても収納に収まらない、出し入れするたびにほかの物が邪魔して取り出しづらく、イライラするといった場合は、物の量を見直したいものです。
「物ストレスにイラッとしたらメモに書き出しておくと、自然と改善方法を考えるようになります。また、処分を迷った物は、しまい込まず1カ所にまとめて放置しておくと、判断しやすくなりますよ」
そうして適正量以上の物を整理したら、「よく使う物を1軍、頻繁に使わない物は2軍に分けます。1軍は出し入れしやすい場所に2割の余裕を持たせた『8割収納』でゆったりしまい、2軍は比較的使いづらい場所にぎゅっと『10割収納』でしまいます。こうすることで、日常の物の出し入れのしやすさと、ある程度の収納力を確保できます」
出し入れしやすい8割収納を使うようになると、ストレスフリーの快適さを実感できるので、片づけがどんどんはかどりそうです。
「美しく整った場所を1カ所保つと、全体のイメージが上がります」狭い空間では人と物の距離が近いため、広い部屋よりも散らかりが目立ってしまいます。いつも部屋を美しく保つのは難しいというときは、部屋の1カ所にフォーカルポイント(視線が集まる見せ場)をつくって、そこは物をごちゃごちゃと置かず、美しく整えておくと、ほかの場所が少し散らかっていても、部屋全体のイメージがよく見えるそうです。
さいとう邸の見せ場はテレビコーナーで、木目が美しいテレビボードに目が引き付けられます。ソファ前にセンターテーブルを置いていないので、より広さを感じさせています。
ダイニングテーブルは面積が広いだけあって、物が置かれていると雑多な印象を生みます。「テーブルの上は聖域と考えて、物を置かないようにしましょう。そうするために私の家では、テーブルのすぐ横に、大きなオープンシェルフを置き、テーブルで使った物や書類をすぐにしまえるようにしています」
インテリアに統一感があると、部屋や家全体がまとまって見える点にも注目です。さいとう邸のインテリアは、木の家具をメインにし、色合いを茶色の濃淡、黒、白に抑えることで、すっきりした印象です。さらに、部屋に置いている加湿器や空気清浄機などの家電もスタイリッシュなデザインを選んで、目立たないようにしています。
「色数が多いと見た目にうるさいので、色は気を使います。また、清掃道具や家電等の生活感の出やすい物は死角に置くようにしています」
それから、理想の部屋のイメージを固めていないと統一感がなくすっきりしない部屋になってしまうことも。ナチュラルもいいけど、モダンな感じも好き、どちらも好きで悩む、というようにインテリアの方向性で迷う人は結構多いと思います。
そんな場合は、雑誌やWEBなどで好みのインテリア写真を集めて、家族で話し合いながら、理想を固めていくとよいそうです。お勧めはPinterest(ピンタレスト)というサービスサイト。インターネット上にある好きな画像を集めて保存しておけるサイトです。
また、インテリアや雑貨が好きという人は、つい好きな物を多めに、あちこちに飾ってしまいがちですが、「インテリアは引き算が重要」とさいとうさんは話します。飾り棚の上に物を10個飾るのと、3個飾るのでは、少ないほうが物の良さが映え、すっきり感じられるわけです。飾る物が増えたら、何か1つを減らすといった意識が大切です。
「わが家もいつもピシッと整っているわけではないですよ。だから、多少散らかっていても、それほど雑多に見えない工夫や、短時間で楽に片づく仕組みを考えています」とさいとうさんは微笑みます。
「『ラクしたがり』の私だからこそ、暮らしやすい動線にこだわって、片づけや掃除がしやすくなるよう工夫しています。物が多くてもどうしたら心地よく暮らせるか、使いやすいかを徹底的に考え、それを趣味として楽しんでいます(笑)」
部屋をすっきり見せるには、よく使う場所に物の定位置を決めることが大切。定位置がないと、あちこちにちょい置きしてしまい、部屋は雑多な印象になります。
特に定位置を決め忘れてしまうのが「借り物」(図書館の本など)「頂き物」「長時間持ち出す物」(携帯電話、鍵など)の3つですが、これらにも定位置を設けることが必要です。
さいとう家では、最初、図書館の本は定位置がなかったため、部屋のあちこちに置かれて、所在不明になることもありました。借りた本の定位置としてソファの近くにかごを置いたところ、家族みんながそこに本を戻すようになったそうです。
家族で暮らしていると、自分は片づけていても、ほかの家族が物を出しっぱなしにしてしまい、いつまでたっても片づかないといった状況は多くの家庭で見受けられます。
「そんなときは、その家族の家での行動パターンをよく観察して、つい置いてしまう物を確認します。その物の定位置を、生活動線上や物がそこに置かれていると便利な場所に設けると、自然とそこに置くようになってくれると思います。例えば私の夫は仕事から帰宅すると、携帯電話や鍵などをバラバラにちょい置きしていましたが、玄関に収納場所を設けたら、そこに置くようになりました。携帯電話の充電も玄関で行っています」
自分が片づけ下手だと感じている人は、定位置をいつも意識することで、次第に元の位置に戻す習慣が付くのではないでしょうか。
「子どもが自然と片づけられる仕組みを考え抜きました」そうした片づけ習慣が身に付く仕組みは、お子さんのおもちゃ遊びの際にもとても有効です。
親が子どもに「片づけなさい!」と言い続けていると、片づけを嫌いになってしまうのではないかと話す、さいとうさん。「だから、おもちゃで遊び終わったら、親子で『片づけ競争』をしたり、おもちゃをほうきで集める『掃除ごっこ』をしたりすることで、片づけ習慣が遊びの延長で身に付くようにしています」
おもちゃの収納では、バスケット毎に、のりもの、粘土などの種類・素材別に分類してしまうことで、お子さんはどこに何があるのか把握でき、出し入れもしやすくなっているそうです。
おもちゃやそれ以外でも、お子さんが自発的に片づけられるような環境づくりに気をつけてきました。
★さいとうきい流、子どもが自発的に片づけられるポイント5
(1)遊ぶ場所の近くにおもちゃを収納する
→おもちゃの出し入れが簡単で、散らかる範囲も最小限
(2)収納場所や棚の高さは成長に合わせて見直す
→手に取りやすいから、子どもでも楽に片づけられる
(3)ワンアクション収納&7~8割収納に
→小さい子どもでも簡単に出し入れできる
(4)しまう物は種類別・素材別など子どもが決めた分別に合わせる
→戻す場所を自分で把握しやすい
(5)5分以内で片づけられる量にする(それをおもちゃの適正量と考える)
→負担なく片づけられる
こうして、お子さんが「片づけは楽しくて簡単にできること」と認識していったおかげで、おもちゃだけでなく、自分のヘルメットやスリッパなども定位置に戻すようになったといいます。
「さらに私をまねて、洗濯物を一緒に畳んでくれたり、ティッシュペーパーがなくなるとストック棚から補充してくれるようにもなりました」と、3歳のお子さんが楽しくお手伝いをしている微笑ましい状況も生んでいます。
「最近は『物をどんどん捨てなくてはいけないのに捨てられない』『物が多いことに罪悪感がある』という人が多く見受けられます。片づけに優先度を上げられない人もいますし、物の処分や片づけが苦手という人も多い。でも、苦手ならほどほどでいいんです。毎日の暮らしがそれほど不便でなければ、つらいのに無理をして物を捨てなくてもいいのではないでしょうか。大切なのは、心地よく暮らすための工夫を『楽しむ』ことです」
そんなさいとうさんのおおらかな言葉を伺って、「何か一つ、物の置き場所を生活動線に合わせて変えてみる。収納をまずは1カ所、8割収納にしてみる。ーーそんなところから少しずつ始めていけば、工夫することがだんだん楽しくなり、物が多くても心地よい暮らしが手に入るのではないか」と感じました。
この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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