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昨年、2015年に注目を集め、新語・流行語大賞にもノミネートされた「ミニマリスト」。ミニマリストとは最小限(ミニマル)の物で暮らす人のことです。佐々木典士(ふみお)さんはそのミニマリストを代表するお一人で、ご自身のサイトや著書で、「持たない暮らし」の魅力について情報を日々発信しています。「持たないから毎日快適なんです」と語る佐々木さんにお話を伺いました。【連載】モノを減らしてスッキリ暮らす
「2016年こそはすっきりした家で暮らしたい!」「4月の新生活に向けて片づけよう!」--年末や年頭に、そう心に期した人は多いのではないでしょうか? 家がすっきりしない最大の原因は『物が部屋の広さに対して必要以上に多いこと』。自分の物の適正量を知って、余分な物を手放せばよいのですが、「もったいないから捨てられない」となかなか実践が進まないのも実情です。そこでこの連載では、スッキリライフを送っている方々に、物の所有欲から解放された心の変遷や処分の実践方法についてうかがいます。物を減らして「今年こそ!」を実現させましょう。「物が少ないから、引越しの梱包は30分で済みました」
今、書店の整理収納関連の棚を覗くと、数々のミニマリズム本に出合います。「持たない暮らし」を実践中の人、これから取り組もうという人がそれだけ多いということなのでしょう。
佐々木典士さんが昨年6月に上梓した著書『ぼくたちに、もうモノは必要ない –断捨離からミニマリストへ-』も、発売以来8カ月で発行部数16万部を超え、多くの人に読まれているミニマリズム本となっています。
そんな佐々木さんにお会いするべく訪ねたのは、20m2・1Kの賃貸マンション。5.5畳の寝室兼リビング・ダイニングに通されると、佐々木さんが「取調室」と表現する、机と椅子だけ置かれた部屋が。著書やブログでその光景はあらかじめ認識していましたが、実際に現場を目にするとその物のなさ具合に「本当にここで暮らしているの?」と衝撃を受けます。
「物が少ないから、ここに引越してきたとき、荷物の梱包は30分でできました。移動・荷解きまで含めると1時間半です。今は、家が狭いほど興奮しますね。次に引越すならもっと小さい部屋がいい」と佐々木さんは笑います。
以前は掃除嫌いだったそうですが、「掃除機は毎日、ぞうきん掛けは時々しています。シャワーを浴びながら浴室を掃除し、食事の後にすぐ食器を洗う。物が少ないと家事の時間が激減しますし、楽しんで取りかかれます」。物が少なくなって初めて、自分は掃除が嫌いなのではなく、物が多いことで家事がおっくうになっていたことに気づいたそうです。
「僕はぐるぐるしている重いパソコンでした」今では最低限の物で暮らすことの快適さを実感している佐々木さんですが、「以前の僕はぐるぐるしている重いパソコンでした」と語ります。部屋には大きな家具が置かれ、数多くの家財道具や雑貨のほか、趣味の読書や写真に関する物も増える一方。物をたくさん持っていたけれど、満たされない思いもどんどんうずたかく積まれていました。
人は、物を有り難く大事に思うものですが、次第にその存在に慣れ、そして飽きてしまう。だから「もっともっと」となっていくのです。定期的に要・不要の見極めをして不要物を処分していかないと、物が増え続け、次第に部屋が機能不全に陥ります。
佐々木さんも「もったいない。高かった。まだ使える。いつか使うかも。使っていない自分を認めたくない」という気持ちが強く、物を集めてばかりで捨てられず、気づいたら気持ちも暮らしもフリーズ状態。「何に対しても非活動的で、自分のことが好きではありませんでした」
持っている物が手に負えない状態になると、人は意識的・無意識的に物に気を取られて、気力や時間が奪われます。そして肝心なことに手が回らなくなってしまいます。
「人間の頭脳のハードディスクは5万年前から容量が変わっていないそうです。旧石器時代の人間と同じ容量なのに、物も情報も詰め込み過ぎなんですね。パソコンをキビキビ動かすには、要らない物を減らして身軽にしていくしかないと感じました」と佐々木さん。
断捨離、こんまりさんブームに影響を受けて、少しずつ物を減らして住まいを片づいた状態にさせつつあった2013年、佐々木さんはミニマリズムと出合いました。
ふと耳にしたミニマリズムという言葉が気になって検索すると、外国のミニマリストの画像がヒット。「物に縛られない彼らの暮らしを知って、何て身軽で自由なんだと心が揺さぶられました」
そこから、思い切って持たない暮らしに突入します。どんなに気に入っている物でも、「これはなくても大丈夫ではないか」「一回手放してみたらどうなるだろう」と物を一つひとつ吟味。本棚ごとの蔵書、テレビ、ホームシアター、DVD、ゲーム機、コンポとCD、趣味のカメラ用品一式、食器と食器棚、洋服、集めていたアンティーク雑貨など、持っていた物のおよそ95%を手放したといいます。
写真や手紙などはスキャナーでデータ化したり、写真に撮るなどして、「思い出」は必要なときにいつでも見返せるようにしました。
「現代は物を持たないで済む時代です。スマホが1台あれば、固定電話もカメラも、時計やカレンダー、地図、路線図、メモ帳、ゲーム機、音楽プレイヤーも不要。また、一度物を手放しても、ネットやオークションで同じ物をふたたび入手しやすいということもあります」
そうして物を減らせば減らすほど、気持ちが楽に、身軽になっていくのを実感したといいます。
「物を減らすことで心が豊かになりました。かつては、持っている物に自分の価値を投影して、人と比べて落ち込むこともありましたが、今は本当に必要な物だけに囲まれて、人と比較することはなくなり、物に煩わされることもないから、時間が増え、集中力や行動力が高まりました」
95%の物を手放した佐々木さんですが、手放して後悔したことは1度もないそうです。
「一番迷った物はテレビです。映画好きですし、テレビ番組も録画してよく観ていましたから。でも、録画がたまる一方で、消化しきれなくても観る義務はないのに、たまっていることが次第にプレッシャーになるわけです。思い切ってテレビを捨ててみたらとてもスッキリしましたよ。パソコンがあれば、観たい映画は有料ですがネットでレンタルできますし、番組はオンデマンドで観ることができます。本当に観たい物だけ観るようになって、時間をだらだらと過ごすことがなくなりました」
10年以上かけて集めた蔵書を丸ごと古書店に買い取ってもらったときはかなり思い切ったそう。「好きな本がたくさんありましたが、積んだままの本も多く、『読まなくては』とどこか心の負担になっていたんですね。本棚ごと手放したらものすごい解放感を味わいました」
さらに、「ときめく物までも捨てました」と佐々木さん。こんまりさんこと近藤麻理恵さんの「心がときめく物だけを手元に残す」というメソッドを実践している人は多いでしょうが、佐々木さんは自分が好きで大切にしていた旅の記念品までも「捨ててみたらどうなるか」とふと思って、実行したそうです。「手元になくなっても思い出は残るので大丈夫でした。それに、大好きな物でも手放せることが分かり、最小限の物で暮らす自信がつきましたよ」
お気に入りのフットマッサージャーを2回手放したこともあるそうです。一度処分した後、またどうしても足裏の凝り解消に使いたいと感じて買い直し、その後、再度手放したそう。「処分した後、足裏が凝るのは姿勢や歩き方が悪いからかもしれないと考え、気をつけていたら凝らなくなりました。捨てることで根本の原因を考えるようになり、悩みが解消したので、2回目に手放して良かったと感じています。また必要と感じたら買い直せばいいですしね」
ちなみに佐々木さんはここや著書のなかで「捨てる」と言っていますが、単純にゴミとして捨てるのではなく、古書店やリサイクルショップ、ネットオークション、ツイッター、ブログなどを活用して手放しているそうです。「お店やネットを通じて必要な人にお渡しできるというのは素晴らしいシステムですね」
「5回迷ったら捨てる。なくても何とかなる物が本当に多いんです」捨てたいけれど捨てられない、どうすればいいですか?と人から聞かれることが多いそうですが、「私の場合、いらないかもと5回迷ったら捨てることにしています。捨てないでいると、その『捨てたい気持ち』とずっとつき合って行かなければならないわけです。その物を見る度に『捨てる?捨てない?』と1000回以上は悩むことになるので、選択の基準をもつことは大切です」
佐々木さんの捨て基準には、「1年使わなければ捨てる・1つ買ったら捨てる・もう一度買いたいと思わない物は捨てる・忘れていた物は捨てる・視覚的に目障りな物は捨てる」など、いくつもあります。
しかし、「捨てる基準は人によって当然違ってきます。物がたくさんあっても、その状態がその人にとって幸せなのであれば減らす必要はないと思います」と佐々木さん。
ミニマリズムが注目されている今、「物が少なければいい」「物を極限まで減らさないとスッキリ快適にならない」と思い込んでしまう人がいるかもしれません。逆に「私には無理。テレビや蔵書、思い出品まで思い切れない」と感じる人も当然多いことでしょう。
物をどんどん減らせばいいということではなく、一番考えるべきなのは「それがあることで暮らしに支障が生じているか否か」ということ。物が多すぎて自分のハードディスクがぐるぐる状態だったり、スッキリ暮らせていなかったりしたら、「もったいない・高かった」なんて思ったとしても、佐々木さんの思い切りの良さを見習って、一度手放してみるとよいのではないでしょうか。
「物を最小限まで減らしたら、物に対して感謝の気持ちが自然とわき起こるようになりました」と佐々木さんは語ります。数が減って物を意識する機会が増えたことで、便利で快適、心地よく暮らせるのはその物のおかげだということを実感しやすくなるのでしょう。そうして日々感謝の気持ちで過ごすのは、とても幸せなことだと思います。
佐々木さんのようなミニマムな暮らしを実践するのはハードルが高く、誰でもできることではありませんが、「自分にとって本当に必要な物」を一つひとつ見極めて、思い切って少しずつ物を手放していくと、暮らしがスッキリして、物に対する感謝の気持ちまでも持てるようになるのかもしれません。
そんな感謝の境地に至るには、実践あるのみだと強く感じました。
この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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