/
モノが増えて部屋が手狭に感じるようになると、「もっと広い部屋に、もっと収納力のある家に引越したい」と考えるようになりますよね。でも、よくよく考えたら、モノのために家賃を払っているようなものだとは思いませんか? そこで『モノのために家賃を払うな!』の著者であるあらかわ菜美さんに、脳を活かして片付けられる回路をつくるコツをうかがいました。
モノを置くスペースに家賃を払うってバカバカしい!
なぜ人は広い家に住みたいと思うのでしょう? そう考えるのは、たくさんモノを持っているからかもしれません。しかし、本当の豊かさや暮らしのグレードを決めるのは、モノの多さや部屋数の多い家に住むことではなく、「いかにスペースをつくるか、そして落ち着いた空間で暮らせるか」だとあらかわ先生は話します。
――モノに家賃を払うのがバカバカしい! と感じるようになったきっかけはありますか?
「スペース」をはっきりと意識するようになったきっかけは、子どもたちが独立したことを機に駅の近くに引越したことですね。実際に駅からゼロ分のところに住んでみると、生活スタイルも変わってきました。あたらしい目標ができ、自宅でギターを教えたいと思うようになったんです。でも、教室として使うための部屋はありません。
見渡してみるとダイニングテーブルに椅子4つ、大きな茶だんすもありました。子どもが独立して夫婦2人だけの生活には、大きなテーブルは必要ありませんよね。そこで思い切ってそれまで使っていたモノを処分して、必要以上に大きな家具は小さなものに替えました。
部屋には2人用のテーブルと椅子、そして腰の高さくらいのチェストが1つ。そのなかに、食器も仕事で使う書類も全て収納するようにしました。すると、部屋がものすごく広く感じるんです。ちょうど目の高さのところはすべて抜けていて、遮るものが何もないので、奥行きがあります。リラックスできる快適な空間ができあがりました。
スペースはモノを置くための場所ではなく、落ち着いて暮らせる空間。そしてそこで過ごす目に見えない時間こそが私が家に求めるものであり、モノに縛られずに暮らせる真の豊かさだと思うのです。
“モノ”にいくら家賃を払っているか、試算してみよう――ご著書の中で“空間は道具”という言葉が大変興味深かったのですが、どのようなお考えか教えてください。
モノを置くには空間が必要です。例えばコップ。コップに水が入れられるのは空間があるからで、いっぱいに満たされていてはそれ以上水を汲むことはできません。タンスだってそうです。モノをしまえるのはそこに空間があるからです。だから私は“空間は道具”であるという考え方を持っています。
それは、部屋も同じ。人が快適に暮らしていくには、ストレスなく動くことができ、ゆったりとくつろぐための空間が必要です。しかし、モノを置けば置くほど、空間は埋まってしまいます。
実際に下記の計算式を使って、今部屋にあるモノのためにどのくらいの家賃がかかっているかを見える化してみてください。何年もモノのために払い続けている金額を知ったら、愕然とするかもしれません。
(STEP1)1平米当たりの家賃を割り出す
[家賃(円)]÷[住まいの広さ(平米)]=[1平米当たりの家賃(円)]
(STEP2)[モノのあるスペース]が何平米あるか概算する
(STEP3)[モノのあるスペース(平米)]×[1平米当たりの家賃(円)]⇒[モノに支払っている家賃(円)]
使わないモノであふれた家から脱却するには?――具体的にモノを減らしていくにはどのようなことを心がければよいでしょう?
私が普段心がけているのは、いかに空間をつくるかということです。ですから、どれだけの数のものを捨てたのか、ということはあまり重要ではありません。
スペースをつくるためには、大きなものから処分するのが効率的。でも、モノを減らさなければならないと考えると、なかなか思い切れず、手放せないという人もいらっしゃるでしょう。そうではなく、まずは“1/3のスペースを空ける”ことを心がけましょう。1/3の余裕があると、モノの出し入れがスムーズになりますし、新たなモノを置くスペースもできるので、毎日の動作が快適になります。そのための手段として、必然的に処分するモノが出てくると考えてみてください。
手放していいものかどうか迷う場合は、とりあえずひとまとめにして袋に入れて、スペースを空ければいいだけです。私も迷ったものは“迷い袋”にまとめていて、後でゆっくり考えて、いらないと思えば処分する。一つひとつをどうしようか考えていては、1/3のスペースはなかなかつくれるものではありません。
スッキリ暮らす生活を持続するには?――せっかく空けた1/3のスペースも、日常生活を送りながら持続するのは難しいように感じます。これを維持するにはどうすればよいのでしょうか。
せっかく快適な空間をつくっても、気がつけばすぐモノで埋まってしまい、いつの間にかいっぱいになっているという経験を誰もがおもちでしょう。でも、私はそれでいいと思います。気がついたらまた1/3を空ければ良いのです。繰り返すうちに、スペースのあることの快適さ、いっぱいにしてしまうといかに使いにくいかに気づくでしょう。そうすると、モノを詰めることが嫌になってくるはずです。
例えば「子どもが小さいころ、このまな板でじゃがいもを切ってカレーをつくったな」といった愛着のあるモノたちにも、もう十分使ったなと思えるときがやってきます。「今までありがとう」という気持ちでお別れするのです。そうやってモノを処分してスペースができたときのスッキリ感は格別ですよ。
何もないところから本当に必要なものは何なのか、生活を見直すことは自分のクセを見直すようなもの。きちんと向き合うことで、モノのために自分を苦しませたくないという気持ち、ひいては自分を愛する気持ちにも通じると考えています。
なかなか捨てられない、片付けてもすぐに元に戻ってしまう……何だか耳の痛い話です。しかし、あらかわ先生の「いかに捨てるかではなく、どれだけスペースを空けるか」という考え方は、モノではなく空間に目を向けるというもの。この方法であれば続けられそうな気がしますね。
家とは本来のびのびと体を伸ばして、一番自分らしくいられる場所であるべきです。具体的にモノがどのくらいのスペースを占有しているのかを計算して見える化したうえで、自分にとって心地よい空間を実現したいと思いました。
●取材協力この記事のライター
SUUMO
173
『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
ライフスタイルの人気ランキング
新着
カテゴリ
公式アカウント