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【連載小説】理想じゃない恋のはじめ方。(第3話)

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目次

理想じゃない恋のはじめ方。(第3話)

【これまでのあらすじ】

腕の骨を折る大怪我をし病院に搬送された汐里は、そこで医者として働く幼馴染の大和と10年ぶりの再会を果たす。

入院中でもプロジェクトのために夜遅くまで働く汐里。そんなとき、上司で元恋人の新実からスマホにメッセージが届く。

新実からの連絡に喜ぶ汐里だったが、告げられたのは「プロジェクトから外す」という連絡だった…

前回はこちら▼

理想じゃない恋のはじめ方。(第2話)

励まし

https://www.shutterstock.com/

プロジェクトから外された――。

状況からみれば、仕方ないと思う人もいるかもしれない。

だけど、私にとっては絶望でしかない。

ここ数日の間、不運が立て続けに起こっても、「私には仕事がある」という思いで前を向いてきた。

そんな中で、頼みの綱を切られた気分だった。

何より、あのプロジェクトは入社以来ずっと頑張ってきた私の全てが詰まっていたのに……。

「理不尽なことってあるよな」

大和が、呟くように言った。

「俺も、研修医の頃にものすごく偏屈な教授の下で働くことになって。毎日、理不尽な思いをしたよ」

「どうやって耐えたの?」

「ある人に言われたんだ、理不尽なことも一旦受け入れろって」

「……?」

よっぽど変な顔をしていたのだろう。

大和は、「何だ、そりゃって思うよな」と笑った。

「物事には必ず意味があるから。受け入れることも大事なんだって」

「それで、何か変わった?」

「受け入れたあと、どうするかは自分次第。教授から受けたパワハラを全部記録して、上に報告した」

「すご……」

爽やかな顔をしながら、やる時はやるんだ。

「しおちゃんもさ、今は辛いと思うけど、いつか見返せる日が来るから。その時まで悔しさは温存しといたら?」

「私はそんなに、ねちっこくないけど」

「励ましてる相手をディスるなよ」

不思議。大和と話していたら少し気が楽になった。

頼れる男

https://www.shutterstock.com/

「退院、おめでとう!」

「ありがとう……って、これは何?」

「退院祝いの花だけど、好みじゃなかった?」

車の運転席に座った大和が、肩をすくめた。

「そうじゃないけど……」

「喜んでもらえると思ったんだけどな」

もちろん、嬉しい。

お花をもらうのって、どれくらいぶりだろう?

新実さんは、そういうの一切しないタイプだったし……。

「感動しちゃった。ありがとう」

病院からの帰り、大和が運転手役を買って出てくれたので、ひとまず実家に戻ることにした。

空き巣被害にあった家は、さすがに気持ち悪くて帰る気になれない。

「引っ越しするんだよね? いつ頃の予定?」

「即入居可の良い物件が見つかれば、すぐにでも」

「じゃぁ、不動産会社に寄ろうか」

実家方面へと向かいかけていた車を別の車線へと移して、進路を変える。

「いいよ、そんな。せっかくの休みなのにゆっくりして」

「こういうの何て言うんだっけ……? 寄りかかった……じゃなくて、乗車じゃなくて、」

「乗りかかった船」

「そう、それ」

すごいね、よく分かったねって、屈託なく笑う。

今回の入院生活で、この笑顔にどれだけ助けられただろう。

「大人になったよね。大和がこんなに頼れる男になっていたとは知らなかった」

「惚れそうでしょ?」

「調子に乗るんじゃないよ」

生意気なやつには、デコピンだ。

「痛ぇ。手厳しいなぁ、しおちゃんは」

敵意

https://www.shutterstock.com/

退院から1週間後、仕事に復帰した。

といってもプロジェクトから外されているので、まずは再びチームに加えて欲しいと頼むところからだ。

物事を受け入れてから、どうしたいか自分で考える。

大和が言った通りにやってみよう!

「ご迷惑をおかけしてすみませんでした」

深々と頭を下げた私に、新実さんは「いや」と短く答えた。

「怪我はもう良いのか?」

「はい、問題ありません。それで、あの……プロジェクトチームに戻してください」

「そうだな……いや、当分は雑務を頼む」

「え?」

「まだまだ本調子じゃないだろ」

「平気です! これまで通り……いえ、今まで以上に働きます」

「そうは言ってもまだリハビリとかあるだろ。それに、やっとプロジェクトチームがまとまり始めたところなんだ。かき回したくない」

「かき回すって、元々あの案は私が、」

そこまで言いかけたところで、新実さんが大きく2回手を叩いた。

業務準備に取りかかっていた社員たちが、一斉に注目する。

「ちょっといいか、報告がある」

新実さんはそう言うと、部屋の端っこの方にいた雪村さんに向けて手招きをした。

「私事で申し訳ないが、このたび雪村さんと婚約する運びとなった」

「わー、おめでとうございます!」

部署内に驚きの声と祝福の言葉が飛び交う。

隣にいた旭日も目を丸くしながら、私の服を引っ張った。

「先輩、知ってました?」

「いや……うん、まぁ」

知っていたけど、改めて聞かされると胸の奥が痛くなる。

新実さんの隣に立ち、恥ずかしそうにしながらも微笑む雪村さんを見ていられなくて視線を床に落とした。

あの場所にいるのは、私だったのに……。

「ごめん、ちょっと」

いたたまれなくなった私は、電話がかかってきたフリをしてその場から離れた。

祝福ムードに包まれる中、笑顔を続ける自信がない。

あの2人はいつから付き合っていたのだろう?雪村さんがうちの部に配属されてから?それともその前から?

二股をかけられていたこともショックだけど、全然気が付かなかった自分の鈍感さにも嫌気がさす。

「……ダメだ、ダメ! 切り替えないと」

いつまでもうじうじしていられないし、今はとにかく仕事で挽回しないと!

自分に喝を入れるため、近くにあった自動販売機から少し高めの栄養ドリンクを購入しようと考えた。

しかし、まだ手が上手く使えずモタモタしてしまう。

財布の小銭入れと格闘していると、背後から声をかけられた。

「手伝いましょうか?」

雪村さんだった。

「あっ、ううん、大丈夫」

「高杉さんって、いつもそうですよね」

「そうって?」

「自分は1人で何でもできる。他人に頼りたくないって。顔に書いてあります」

強い、あからさまな敵意。

控えめでいつも恥ずかしそうに笑っている雪村さんとは別人みたい。

「リハビリの一環だから、できることは自分でしないと」

「そういうところが可愛くないって言ってましたよ」

「え?」

「あいつは強いから1人でも生きていけるって。新実さんと付き合っていたんですよね?」

「彼から聞いたの?」

社内で私と新実さんのことを知っている人はいない。

別に知られて困ることではないけど、あえて言わなかった。2人だけの秘密。

その踏み込んで欲しくない場所に、ずかずかと入られて不愉快な気持ちでいっぱいになる。

おそらく、その感情が顔に出ていたのだろう。

雪村さんの顔つきが一気に変わった。

「私、高杉さんのこと大っ嫌いなんです。顔を見るのも嫌なくらい」

「そう。別に興味ないから理由は聞かないし、嫌われていても特に困らないからいいよ」

「本当に困らないですか?」

「……どういう意味?」

嫌な予感がする。

雪村さんは「これ言っちゃってもいいのかなぁ」と勿体つけてから、私の耳元に口を寄せた。

「例のプロジェクトから高杉さんを外すようにお願いしたのは、私です」

「はっ?」

「あれ~忘れちゃったんですか? 私の伯父さんが常務だってこと」

「……」

「私をあんまり怒らせない方がいいですよ。じゃないと、彼氏だけじゃなく職も失うことになりますよ」

勝ち誇ったような表情で鼻を鳴らす。

悪魔のような顔をした雪村さんに呆然としてしまい、何も言い返せなかった。

本当の私

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「信じられない!」

「しおちゃん、落ち着いて!」

退社後、むしゃくしゃした気持ちがおさまらない私は大和に連絡を入れた。

ちょうど彼も仕事が上がりだったようで、近くの居酒屋で落ち合って愚痴を聞いてもらうことにした。

「何が『職も失うことになりますよ』よ。小娘が」

「小娘って、歳いくつなの?」

「26? 27だったかな……知らない!」

「俺と同じくらいじゃん」

ビールと、お通しの枝豆が運ばれてきた。

乾杯をするのも待ちきれずジョッキに手を伸ばしたところで、大和に止められた。

「しおちゃんは、こっちのノンアルね」

「えー! やだ」

「嫌じゃない。骨折が完治するまで禁酒だってば」

「そんなぁ」

大和の意地悪、ちょっとくらい飲ませてよ。

「それで? 何か言い返したの?」

「何にも言えなかった」

「しおちゃんらしくないじゃん。ぎゃふんと言わせちゃえば良かったのに」

「ねぇ、私らしいって何?」

強気で、負けず嫌いで、根性派で?

強いから1人でも生きていける? そんなわけないでしょ、私だって本当は――。

「知ってるよ、本当のしおちゃんは繊細で不器用で、泣き虫だ」

目の前にいる大和の顔がぼやけて見える。

子供のようにしゃくりあげて泣いてしまった私に、彼は何も言わず。

着ていたパーカーを頭からかぶせて、隠してくれた。

理想じゃない恋のはじめ方。第4話に続く…


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この記事のライター

folk

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