/
住宅取材を長年続けてきた筆者が、心底憧れる住まい。それはご近所にある、お庭も素晴らしい入母屋造りの家。愛犬と暮らすSさんの、日常を大切にするライフスタイルにも惹かれています。建物ハードと住まい方ソフトの両面で、和と洋が融合した情緒ある和モダンのお住まいを紹介します。
緑青の銅屋根が美しい、和紙とガラス工芸が彩る住まい
神奈川県逗子市の里山に囲まれた谷戸で、ひときわ目を引く白壁の門構え。
緑青屋根のグリーンと木の濃い茶色が、白壁とのコントラストで美しく映える外観です。
玄関門扉の素晴らしさが、この家への関心を高めます。
よく見る豪邸の威圧的な門でなく、板引戸の渋さが“わびさび”感すら醸し出し、里山の自然に囲まれた街並みに調和しています。
門をくぐり、庭石のアプローチを進むと玄関。
こちらも合理的でシンプルで美しい、和のたたずまいには必須、引戸の玄関。
「どうぞ、お上がりください」と、Sさん。廊下の両側は、はめ込みガラスで庭を眺めながら入っていくと
「この扉、素敵でしょ。奈良の古い知人宅を取り壊すときに、もったいないからいただいたのよ」
「この貝殻、逗子海岸に犬と散歩に行く度に拾っていたら、こんなたくさんになっちゃった(笑)」
ゴミ拾いのボランティアをしていた所、砂浜で貝が“拾って!”ってSさんに向かって光っているのだそう……。
今回、顔出しNGのSさんですが、知人が描いたパステル画肖像でご紹介。何と、50歳から始めたフラメンコを踊る姿。
「フラメンコを見たとき、それまでの私は“自分”を生きていなかったことに気づいたの」と、フラメンコダンサーがりりしい眼差しで見栄を切る姿に魅了され習い始めたそうです。
廊下から居間へ入ると、庭に面した広縁のある畳10畳の和室が広がっています。
古材を利用した表しの梁は、年季の入った焦茶色。同色の造り付け家具と共に、落ち着いた古民家のような大空間です。
畳敷にテーブル&チェア、こんな風に和洋折衷のライフスタイルでくつろぐアイデアが満載のお住まいです。
こんな細部に伝統工芸のアイデア、宝探しのように見つけるとうれしくなります。
日本的な曖昧さが豊かさをもたらす、広縁のある暮らしSさんのお住まいは、約25年前に建てた木造2階建て。
「建てるときに注文したのは、屋根。迎賓館などで見る緑青の銅板屋根にしたかったの。私、色もねグリーンが好きなのよ」
屋根にこだわるなんて、素人考えではなかなか出てこない。Sさんの感性には、いつも驚かされている筆者。
旅先や雑誌などで見たもの感動したことを、自分でやって見るのだそう。
すだれは外部からの視界を遮る役目も。ちょうど、お向かい2階からの視線を遮ることができます。高い塀を立てずに、緩やかにプライバシーを守る技に脱帽。
外側はガラスサッシ戸、和室側は障子によって囲われた板張りの広縁(ひろえん)。室内との緩衝エリアとなっている広縁は、季節ごとに寒さを遮ったり、涼を運んだり。
Sさんは、その広縁にお気に入りのものを飾っていました。
こちら側の広縁は、愛犬Doriちゃんの特等席です!
庭と居間の間にある広縁は、その面積以上に生活を豊かにしてくれるもののようです。
6月はインテリアも衣替え、季節を感じる住まい方玄関と広縁からも出られるお庭は、あまりつくり込まずに自然な趣にされています。
取材時、桜やお花の時期とズレてしまったのでSさんの写真をお借りしました。
お庭の四季を楽しむと共に、日本住宅の季節感ある伝統的な機能も見せて下さいました。
秋から冬、6月までは内側に障子戸を入れて寒さを防ぎながら、和紙の柔らかい空間で過ごす居間。
そして6月になったら、夏障子とも呼ばれる簾戸(すど)に替えるのです(わざわざ替えていただきました!)
そしてもう一つ、すてきなアイデアを拝見。和紙でつくられた四枚仕立ての屏風ですが、両面異なるデザインになっており、季節によって使い分けることができるようになっています。
ほかにも、キッチンのドアを暖簾(のれん)に替えるなど、インテリア小物でも季節を楽しむ住まい方を教えてくれました。
“天使が舞い降りる” 好きなものに囲まれると、家がパワースポットに2階のプライベートゾーンにもご案内いただきました。
「天使がたくさん、居るわよ」と、早速、階段に天女のような絵がお出迎え。
「なんだか、天使が集まってくるのよね(笑)」と寝室にも、羽の生えた天使たちの絵が……
Sさんお気に入りのスペース・デザインは、この暖炉の一角。
「昔、スペインのホテル リッツのロビーで見たとき“これはすてき!”と思ったの」、そのアイデアを取り入れたそう。
2階の寝室は、1階の古民家風とは打って変わって洋館の雰囲気になっています。
部屋のドアとバスルームへのドアも、木製の開き戸。
バスルームには、洗面との壁にはめ込まれた大きなエッチングガラス(彫刻ガラス)の作品が!
天使が舞う魅惑の寝室空間でお話を聞いていると、何だか時空が歪むような感覚になってしまいました。
「天使にほほ笑まれて、ついつい欲しくなってしまってね(笑)」、好きなものに囲まれたSさんにとってはパワースポットのような家。
ふと、窓から外を見下ろすと……
この居間で、よく、お友達やご近所さんを招いてホームパーティーをしてくださるSさん邸。
「ボケ防止に、ここでマージャンをしたりね!」と、住生活の楽しみはますます広がっている様子。
今回じっくりお話を伺って、今まで気づかなかった家の細部に改めて魅了されました。
Sさんの趣味や旅、人との出会いで築いてこられた感性が、この家に集約されていて、住まいは人の鏡なのだと実感する取材でした。
この記事のライター
SUUMO
173
『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
ライフスタイルの人気ランキング
新着
カテゴリ
公式アカウント