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子育てをしていると「プライベートパーツを洗うとき」「性器について問われたとき」など、子どもの性にまつわる日常のシーンで迷うことがありますよね。そんな保護者の悩みについて、前回に続き、絵本『アイラブみー じぶんをたいせつにするえほん』の監修者で和光小学校・和光幼稚園前校園長の北山ひと美先生にお話をうかがいました。
■前回の記事<第一回>「性教育なんてできない」「学校でやって」親の苦手意識は、どうしたらいい?
—————————――子どもには普段から「からだは全部大事だけれど、プライベートパーツは見るのも触るのも自分だけ」と伝えていますが、「勝手に触らない」「触れるならば同意を得る」ということは、どこまで徹底すればよいのでしょうか。親がお風呂で洗ってやるときなどに迷ってしまいます。—————————
「プライベートパーツは見るのも触るのも自分だけ」ということはたしかにその通りですし、大切なことです。しかし、ご家庭にはいろいろ事情がありますし、子どもの年齢によってはなかなか難しいこともありますよね。
ここで大事なのは、触る・触らない以前に「子どもにどう思っているかを聞く」そして「子どもの意思を尊重する」ということなのです。
—————————――私も、お風呂でお尻などを洗ってあげるときは、子どもの同意を得てからにしていますが、「もし『嫌だ』と言われたら洗いづらくなるから、子どもに聞かずに洗っている」という保護者の方もいるようです。—————————
そうですね。でもね、「嫌だ」って言ったらそれは子どもにとって嫌なことなんです。親としてはやりづらくなって困るかもしれないけれど、子どもの意思が示されたらそれを大事にしなければなりません。まずはその気持ちを受け止めてあげてください。
お風呂に立って入ることができるようになる1歳半くらいからは、「ここは特に大事なところだから自分で洗おうね」とスポンジに泡をつけて渡してあげます。的外れなところを洗うこともあるので、「仕上げはやってあげるよ」と手助けをします。
それも嫌だと言われることもあるでしょう。その場合は、「今日はいいけど、明日もまたよく洗えないと、汚れたままになっちゃう。それはよくないよね」「ここは洗いづらいところだから、大人が洗ってあげた方がいいと思うな」などと、少しずつ、根気よく伝え、子どもに納得してもらいましょう。
—————————――「嫌だ」という子ども自身の意思を大切にするんですね。お風呂以外、例えばトイレなどもプライベートパーツに関わることですが、そのあたりはどうでしょうか。—————————
子ども自身を尊重するという意味では、トイレも一緒です。
まだ目が離せないトイレ練習の時期は別として、小さいころから、トイレに入ったらまず「はい、ドアを閉めようね」と習慣づけます。そうすると、子ども自身も当たり前のようにドアを閉めるようになります。これは、トイレはプライベートな場所であるということを伝えることにもなります。
もちろん、子どもが「お尻を拭いて」と言ったら手伝う、親が「もう汚れてないか見てもいいかな?」と子どもに確認して拭いてあげる、などは必要なことでしょう。しかし、「ひとりにすると失敗するだろう」「上手にできないから、ずっと見てなくては」とドアを開けたままにしておくと、子どもは「自分ではできないんだ、大人にやってもらわなきゃいけないんだ」という気持ちをずっと持ち続けることになる可能性があり、何よりもプライバシーを大切にされるべきトイレがそうではないところというメッセージになってしまいます。
—————————――日常の関わりの中でも、親として子どもを尊重するよう心がける、ということですね。—————————
—————————――男女の身体の違いに気づいた娘に「わたしもおちんちんがほしい!」「いつ生えてくるの?」と言われることがあります。そんなとき「パパは男の子だからあるの。〇〇ちゃんは女の子だから生えてこないよ」と答えていますが、この対応で問題ないでしょうか。—————————
小さい子どもによくある疑問ですね。
今回監修した『アイラブみーじぶんをたいせつにするえほん』(後述)の中にも、主人公の“みー”が妊婦さんから「おんなのひとにはあかちゃんがでてくるあなもあるよ」と男女のからだの違いを教えてもらうシーンが出てきます。
子どもから「わたしにはなぜおちんちんがないの?」「ぼくにはあるのに、ママにはなんでおちんちんがないの?」などの質問をされたら、「男の子の性器はこうで、女の子はこうで……」と、性器の違いを伝え、その違いがあるからおしっこの仕方や洗い方が違うということを教える機会につなげられたらいいでしょう。
ただし、「男の人にはあるけれど、女の人にはないの」という、女性が『欠けている』『劣っている』『不完全な存在』とも取れる表現には気をつけてください。実際、男性の性器にしても「女性にはないもの」というより、器官として別の形(陰核)で存在しています。
なので「おちんちんは男の人にあるものだけれど、女の人も見えにくいところだけれどちゃんと男の人と同じようにおちんちんがあるんだよ」などと伝えられるといいですね。
また、「ちんちん」「おまた」という言い方も間違いではないけれど、大人になっても使えることばとして「男の子の性器」「女の子の性器」と言うんだよ、と子どもたちには伝えています。
—————————――性の多様性について深く認識する必要がある中、「男の子だから」「女の子だから」と安易に言っていけないのでは……と思うこともあります。子どもたちにはどう伝えていけばよいのでしょうか。—————————
まずはからだの構造が違うということを伝え、性の多様性についてはその上で伝えていきましょう。
性別にはいくつかあって、生まれ持った身体的な性、自分は男だ/女だと自認する心の性、好きになる性、性表現――LGBTQは性的マイノリティを表す言葉ですが、性の多様性を表す言葉として、最近は「SOGIE(ソジエ)」という表現を使います。
SOGIE(Sexual Orientation, Gender Identity and gender Expression)は、性自認と性的指向と性表現を表す言葉です。すべての人々は性の多様性の中で生きているということを表現するものとして使われています。「私たち自身が多様な性の中で生きているんだ」ということを、大人も理解していたいし、子どもたちにも伝えていきたいですよね。
トランスジェンダーの方の多くが、すでに就学前に性別違和感を感じたことがあるということを言われています。大事なのは、子どもがそういう感覚をもったときに、「そう思ってもいいんだ」と思えること。子どもの気持ちをまわりの大人が受け止めてあげることが大切です。
一方で、性別役割分業意識やジェンダーバイアスをできる限り排除するためには、保育現場や教育現場では、必要のないところでは男女を分けないということも大切です。
—————————――男女のからだの違いについて子どもに話すときは、生物学的な違いとして性器の違いをしっかりと伝えるということですね。その上で私たちは多様性の中に生きているということを子どもたちにも伝えられるよう、親自身がしっかりと学び、理解していきたいです。
性教育というとどうしても「ちょっと苦手だなぁ」と避けがちでしたが、先生のおっしゃる包括的な性教育というのは、生きることそのものを考え、自分のからだや心を大切にすることで他人も大切にできるような人間になるための教育なんだ、と感じました。※「包括的性教育」については前回の記事をご覧ください
「性教育というと『寝た子を起こすな』と言われたりしますが、子どもたちは寝てないですから」という先生の言葉が大変印象的でした。私たち大人は苦手意識があって目を背けたいから、子どもは寝ていると思い込みたいだけかもしれませんね。
生活のささいなことが子どもにとって「生きることそのものを考える大切な機会」ということを意識して、過ごしていきたいと思いました。—————————
(解説:北山ひと美先生、文・聞き手:mamaco)
※画像はイメージです
「自分を大切にできる人になってほしい!」その願いは子を持つ親共通のもの。そして、自分を大切にすることこそが性教育のはじめの一歩につながります。一方で、家庭での性教育にはハードルの高さを感じてしまいますよね。そんな親御さんたちにぴったりな本が、現在発売中の『アイラブみー じぶんをたいせつにするえほん』です。
■あらすじ5歳の「みー」は今日も元気にお散歩中。道で出会った犬のワンまるを見て、なんで自分はパンツをはいているんだろう、と不思議に思います。パパや、道ゆく人に聞いたり考えたりしながら、パンツをはく理由を探していくと、とある発見が……
NHK Eテレで放送中の番組「アイラブみー」のエピソード「なんでパンツをはいているんだろう?」が編集された本書は、5歳の主人公「みー」の体験を通して、自分の心と体を知り、大切にすることを一緒に学んでいける、わかりやすい絵本になっています。
巻末にある、北山ひと美先生や東京大学名誉教授汐見稔幸先生をはじめ「アイラブみー」の番組監修の先生方による解説やQ&Aは、読み応え抜群で思わずハッとするほど“気づき”にあふれています。
親子で楽しみながら「自分とは」そして「自分を大切にすることとは」ということを学び、子どもの自己肯定感を育みましょう。
『アイラブみー じぶんをたいせつにするえほん』(新潮社)より
■書名: アイラブみー じぶんをたいせつにするえほん■著者:絵/オバック、文/たけむらたけし■監修:東京大学名誉教授 汐見稔幸、和光小学校・和光幼稚園前校園長 北山ひと美 ほか■仕様: A4 変形(196mm×193mm)、 ハードカバー、オールカラー48ページ■価格:本体1,600円+税■ISBN:978-4-10-355181-2■発売日:2023年6月21日(発売中)■発行元:新潮社
この記事のライター
マイナビウーマン子育て
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