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保育園を巣立ち、小学校に入学した子どもたち。新しい場所・先生・友人・生活に期待に胸膨らませる一方で、その心には本人すら自覚していない負荷がかかっていることがあります。
今回は、保育士のための経験共有サイト『ホイクタス』の運営者で、元保育園長として多くの子どもたちを見てきた石井大輔さんに、子どもにとっての「小1の壁」についてお聞きしました。
――石井さんは約20年の保育園長経験があり、現在も現場に赴き多くの子どもたちと関わっているそうですが、子どもにとっての『小1の壁』について、どのようにお考えでしょうか。
石井大輔さん(以下、石井)子どもを主語にして考えると、僕は『進学時ストレス』という言葉を使っているのですが、保育園を卒園して小学校に入学することで、子どもには大きなストレスがかかります。
それは、単に環境が変わるということだけではなく、保育園に行かなくなり、保育園の先生とも会えなくなり……となって、今までの世界からブツっと切り離されたように感じてしまうのです。
――子どもに『進学時ストレス』が起こっているとすれば、どのような変化が見られるのでしょうか。
石井例えば、以前より甘えてきたり、イライラしていたりというのもそうですが、「小学校に上がってから、なんとなくお調子者になった」というパターンもよく見られます。
――お調子者のようなかんじなら、「新しい環境でウキウキしているのかな」と思ってスルーしてしまいそうです。
石井そうですね。でも、進学時ストレスの存在を知っていれば、子どもにちょっとした変化があった時、「もしかしたらこの子には今、ストレスがかかっているのかもしれない」と気づくことができます。
――卒園して小学校に通うようになり、「今までの世界からブツっと切り離された」と感じてしまうとのことですが、親として何をしてあげればいいのでしょうか。
石井まず、「砂時計」をイメージさせてみるといいでしょう。
自分の人生を振り返った時、落ちていっている砂っていうのは、消えてしまうわけではなく、しっかりと溜まっていきます。
その“溜まっていく砂”は何かというと、保育園での生活や、先生やお友だちとの出会いそのもの。これらの経験一つ一つが、今のあなたを支えている、形作っているんだよと伝えてあげてほしいのです。
――保育園や先生方と一緒には過ごさなくなったけれど、今までの関わりはしっかり自分の中に蓄積され、これからの自分を後押ししてくれているということですね。
石井そうです。それが、子どもの「小学校に上がった自分も大丈夫だ!」という自信につながるのだと思います。
また、言葉だけで説明するだけでなく、ぜひ保育園に行ってみてください。保育園の先生にランドセルを見せに行くだけでもいいと思います。「かつてのあなたはここに確かにいて、そこでこれだけの人たちと出会ってきたんだ。小学校に行っても、成長を喜んでくれる人たちがここにいるんだ」と。それって大きな財産ですよね。財産なんて言葉を理解できなくても、子どもには伝わるはずです。
――子どもを連れて保育園を訪れたいと思いつつも、もしかしたらご迷惑かなと二の足を踏んでしまう保護者もいるかもしれません。卒園生が保育園に来ることを、保育士さんはどのように感じられるのでしょうか?
石井子どもたちが「先生、遊びに来たよ」って言ってくれることで、保育園の先生はとても元気になるんですよ。
保育士は、保育している子どもたちの「将来の姿」を目の当たりにする機会が多くありません。保育園にいるうちは、子どもの成長のためにいろいろな取り組みをします。小学校以降も出せる力をどうやって育んでいくかを考え、実践している園は多いです。でも、卒園してからどうなったかを知ることは、なかなかできないのです。
そんな中、卒園した子たちに会うことで、「あの頃こうだった子に、こんなことを働きかけたら、こんなふうに成長できたんだ!」という実感を得られます。だから、卒園した子どもたちと会えることは、嬉しいだけではなく、保育士のためにもなっているのです。
――そう思っていただけるのだとすれば、親としても嬉しいですね。
石井僕が園長をしていたころも「いつでも遊びに来い!」と言って子どもたちを送り出してきました。
石井実際に保育園の中に入って会うことが難しいようであれば、通ってた保育園の前を通って「ここに○年間がんばって通ったね」「今ではこんなにしっかり歩けるようになったね」「先生はいつもあなたのことを大切にしてくれたね」などと話してあげるだけでもいいでしょう。それだけでも子どもにはいい影響があります。
普段は無意識ですが、自分はやってきたことを感じさせてあげる、気づかせてあげるということは、とても大事です。
――今まで積み上げられたものを再認識させるんですね。
石井学校に行くと、勉強ができないとか、椅子に座ってられないとか、今までにない「できない自分」を感じることもあるでしょう。では、人間は何をもって“優れている”なのか。勉強ができる人もいる、スポーツが得意な人もいる、絵が得意な人もいる、全部苦手だけど心が優しい人がいる。そんな価値観の多様性を知ることも、子どもにとって必要なことです。
知り合いの娘さんの話ですが、小学校とは別に、ボランティアで絵を教えてくれる方のところに通っていたそうです。ある時、彼女は学校でいじめの対象になってしまった。でも、その時彼女は、客観的に「まあ、いじめてるあの子も大変な人だよねー」と考え、次第にいじめの対象でなくなったとか。
これはひとつに、その娘さんには学校以外にも居場所があり、学校以外の人とも繋がっていたからではないでしょうか。
学校だけだと、行き詰まることもあるでしょう。だから、それ以外の居場所、サードプレイス的なものを作っておくといいかと思います。僕はその候補の一つが「保育園」であったらいいなと考えてきました。現実にはなかなか難しいかもしれませんが、子どもが自分より小さな子の相手をしてあげたり、手伝いをして先生にありがとうと言われたり……そんな、子どもにとっての「自分を認めてもらえる場所」は貴重です。それは、保育園ではなく、習い事でも、ボーイスカウトでもいい。そうやって学校や家庭以外の人と繋がると、社会の一員としての自覚も芽生えていきますよ。
石井『小1の壁』という言葉がありますが、小学校入学で起こる変化は、親目線なのか子ども目線なのかで全く違ってきます。新しい場所で子どもは大きなストレスを感じているかもしれません。そんな時は、どうか抱きしめてあげて家庭を安心できる場所にしてください。そして、保育園の前を通るだけでもいいので、過去と今のことを話しながら「お兄ちゃん・お姉ちゃんになったね」と認めてあげてください。
保育園の先生方は、小学校に行った後も子どもたちの幸せを願い、見守っていますよ。
(話:石井大輔、取材:マイナビ子育て編集部)
※画像はイメージです
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