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村民総出でおもてなし!空家が客室、村がリゾート!? 島根「日貫一日プロジェクト」

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当記事はSUUMOジャーナルの提供記事です

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村民総出でおもてなし!空家が客室、村がリゾート!? 島根「日貫一日プロジェクト」

中国山地の山あいにある島根県邑南(おおなん)町「日貫(ひぬい)」地区。のどかな田園風景が広がるこの場所に、新しいスタイルの宿泊施設が2019年に誕生した。地方の空き家率増加や人口減が課題となっているなか、それらを逆手に取って、「関係人口」という形であたたかなつながりを育む「日貫一日(ひぬいひとひ)プロジェクト」。その立ち上げの中心人物、一般社団法人弥禮の代表理事・徳田秀嗣さんに話を聞いた。
地域ゆかりの建築家の旧家を、1日1組限定の“籠もれる”宿に

中国山地を貫く山道を車で走ると、川沿いにのどかな田園風景が広がる小さな村、日貫に辿り着く。緑の山々が重なり、そのふもとには水を張り始めた田んぼや、住人たちが日々の糧にと育てる畑。赤褐色の石州瓦を葺いた民家が点々と続く、のんびりした村だ。

山々の間に田んぼと畑と民家。のどかな日貫の遠景(写真撮影/福角智江)

山々の間に田んぼと畑と民家。のどかな日貫の遠景(写真撮影/福角智江)

その風景に溶け込むように、村の古民家をリノベーションした宿泊棟「安田邸」がある。どこか懐かしい日本の家。その雰囲気をそのままに、緑の中にひっそりたたずむその建物は、日貫にゆかりの建築家・安田臣(かたし)氏が暮らした旧家だという。
ここは1日1組限定の宿。宿泊者は滞在中、この「安田邸」を1棟丸ごと利用することができる。建物内には、寝室はもちろん、ゆっくりくつろげる和室、キッチンやダイニング、のんびりしたテラスや、木の香りが心地よいヒノキ風呂までそろう。

(写真撮影/福角智江)

(写真撮影/福角智江)

「日貫一日」の宿泊棟「安田邸」(写真撮影/福角智江)

「日貫一日」の宿泊棟「安田邸」(写真撮影/福角智江)

のれんをくぐって建物の中に入ると、広い土間にキッチンとダイニングテーブル。大きな窓の向こうには、のどかな村の風景が広がる(写真撮影/福角智江)

のれんをくぐって建物の中に入ると、広い土間にキッチンとダイニングテーブル。大きな窓の向こうには、のどかな村の風景が広がる(写真撮影/福角智江)

土間からリビングスペースとなる和室、さらにその奥には寝室が続く。一棟貸しならではの贅沢な空間でくつろげる(写真撮影/福角智江)

土間からリビングスペースとなる和室、さらにその奥には寝室が続く。一棟貸しならではの贅沢な空間でくつろげる(写真撮影/福角智江)

浴室も驚くほどの広さ。壁も天井も木張りで、ほのかな木の香りに包まれる(写真撮影/福角智江)

浴室も驚くほどの広さ。壁も天井も木張りで、ほのかな木の香りに包まれる(写真撮影/福角智江)

日貫での一日をゆっくりと、という願いを込めた「日貫一日」

「もともとこの地域には建てられた当時のままの風情を残した古民家がいくつもあって、それを何とか地域の活性化のために活かせないかと考えたのが、このプロジェクトの始まりでした」と徳田さん。当初、自治体で観光関係の仕事をしていた徳田さんが、この地区に残る「旧山崎家住宅」の活用提案に手を挙げたのがその第一歩。残念ながらその提案は不採用となったが、その後も古民家活用の模索を続けるなかで出会ったのが「安田邸」だった。
農林水産省の農泊推進事業など、地域・産業活性のために国や行政が用意したスキームを活用するため、思いを共有できる地元の仲間たちと一般社団法人を設立。宿泊施設を計画した。「幸いにもさまざまな人とのつながりに恵まれて、建築家はもちろん、ロゴなどのデザインを手掛けるデザイナーや、フードディレクターなど、たくさんの方と一緒にプロジェクトを進めてきました」

日貫は人口440人ほどの小さな村だ(写真撮影/福角智江)

日貫は人口440人ほどの小さな村だ(写真撮影/福角智江)

しかし、一番の課題は「どうやって人を呼ぶか」。客室を区切って複数の宿泊客を受け入れるゲストハウスのような構想も挙がったなかで、徳田さんが一番しっくり来たのが、「籠もれる宿」というコンセプトだったという。「1日1組のお客様が朝から夜までのんびりと心豊かに過ごせる、そんな空間づくり、おもてなしを目指しました」。「日貫一日」という名前も、そんな想いで名づけられたものだという。

日貫という地域の魅力をじんわり味わう、心温まるおもてなし

例えば料理。通常、ホテルでは調理された料理がテーブルに並ぶが、日貫一日では宿泊者自身が料理を楽しめるように、設備が充実したキッチンが用意されている。しかも、「日貫は農業が盛んで新鮮な野菜がたくさん採れますし、石見ポークや石見和牛も有名です。せっかくなので、そうした食材を存分に味わってもらえるように、こだわりの3種類のレシピを準備しました」。事前に依頼しておけば、必要な食材を冷蔵庫などに準備しておいてくれるしくみだ。

近所の農家さんから仕入れることも多いという新鮮な野菜(写真撮影/福角智江)

近所の農家さんから仕入れることも多いという新鮮な野菜(写真撮影/福角智江)

豚本来のヘルシーさと脂の美味しさを併せ持つ石見ポーク(写真撮影/福角智江)

豚本来のヘルシーさと脂の美味しさを併せ持つ石見ポーク(写真撮影/福角智江)

自分たちで料理して食べるのも楽しい「へか(日貫伝統 すき焼き)」。味噌が効いた甘辛いお出汁で、素材のおいしさを満喫。ごはんが止まらない!(写真撮影/福角智江)

自分たちで料理して食べるのも楽しい「へか(日貫伝統 すき焼き)」。味噌が効いた甘辛いお出汁で、素材のおいしさを満喫。ごはんが止まらない!(写真撮影/福角智江)

ほかにも、室内には日貫や周辺地域のものを多く備えてある。「独特の風合いの食器類は、邑南町の森脇製陶所のもの。香りもいい野草茶は、近所に住んでいる80歳のおばあちゃんが育てているもので、今朝、煎りたてを分けていただきました」。新鮮な野菜も、近所の農家さんから買い取っているものが多いという。和室のちゃぶ台の上には、「せいかつかのじかんにつくりました」とメッセージ付きで、地元の小学生による「日貫の生き物」の手づくり図鑑も置かれている。

地元の小学生が手描きでつくった日貫の生き物図鑑(写真撮影/福角智江)

地元の小学生が手描きでつくった日貫の生き物図鑑(写真撮影/福角智江)

安田邸で使われている茶器と、ご近所さんお手製の野草茶(写真撮影/福角智江)

安田邸で使われている茶器と、ご近所さんお手製の野草茶(写真撮影/福角智江)

時間が合えば、日貫を流れる川沿いにある荘厳な滝や、かつての庄屋さんの住まいだという立派な茅葺の住宅を案内してもらえることもある。田んぼのあぜ道をのんびり歩けば、畑仕事をしている住民たちと気軽に言葉を交わせる。「これ、持って帰りんさい!」とたくさんの野菜をもらったと、うれしそうに話してくれた宿泊者の人もいたという。
のんびり過ごすほどに味わいが増す、そんな場所だ。

大きな田んぼをトラクターで耕していたのは住人の草村さん。徳田さんの姿を見るとみんな笑顔で話しかけてくれる(写真撮影/福角智江)

大きな田んぼをトラクターで耕していたのは住人の草村さん。徳田さんの姿を見るとみんな笑顔で話しかけてくれる(写真撮影/福角智江)

宿から車で10分ほどのところにある「青笹滝の観音」。普段はもっと水流が多く迫力もあるそうで、角度によって観音様のように見えるのだとか(写真撮影/福角智江)

宿から車で10分ほどのところにある「青笹滝の観音」。普段はもっと水流が多く迫力もあるそうで、角度によって観音様のように見えるのだとか(写真撮影/福角智江)

日貫の庄屋を務めた旧家・旧山崎家住宅。立派な茅葺屋根が見事(写真撮影/福角智江)

日貫の庄屋を務めた旧家・旧山崎家住宅。立派な茅葺屋根が見事(写真撮影/福角智江)

フロント「一揖(いちゆう)」は住民との交流の場。人の集まるイベントも

「この場所に宿泊施設をつくるという話をしたとき、近所の人たちの多くは半信半疑のようでした。こんなところに泊まりに来る人が居るのか?と(笑)。しかし、プレオープンで試泊を受け付けていた半年ほどの間に、ほぼ毎日明かりがともるのを見ていた人も多いようで、少しずつ、興味を持ってくれる人も増えてきました」
カフェやイベントスペースとしても利用できる日貫一日のフロント「一揖」は、近所の人が集まることも多く、地域の人が気軽に集まっておしゃべりできる社交場にもなっている。かつて電子部品工場だったという建物をリノベーションし、「会釈する」という意味の「一揖」と名付けた。現在は、宿泊者の朝食場所になっているほか、日貫にコーヒーの焙煎所ができたことで、スタッフが焙煎した豆でコーヒーを淹れる、カフェ営業も定着してきている。

カフェやイベントスペースとしても利用できるフロント「一揖」。かつての部品工場時代を知っていて「なつかしい!」という人も(写真撮影/福角智江)

カフェやイベントスペースとしても利用できるフロント「一揖」。かつての部品工場時代を知っていて「なつかしい!」という人も(写真撮影/福角智江)

「一揖」のカウンターは、日貫一日のフロントであり、カフェのキッチンでもある(写真撮影/福角智江)

「一揖」のカウンターは、日貫一日のフロントであり、カフェのキッチンでもある(写真撮影/福角智江)

アームズ式という焙煎方法を採用した後味がすっきりとしたコーヒー。生豆の状態から、手作業で丁寧に豆を選別し、お湯で洗ってから焙煎を行っている。豊かな香りにも癒やされる(写真撮影/福角智江)

アームズ式という焙煎方法を採用した後味がすっきりとしたコーヒー。生豆の状態から、手作業で丁寧に豆を選別し、お湯で洗ってから焙煎を行っている。豊かな香りにも癒やされる(写真撮影/福角智江)

最近では、日貫に移住してきた若者が「食で繋がる 日貫の台所」と銘打って、「一揖」に集まって、地域のみんなでご飯をつくり、一緒に食べる、そんなイベントも定期開催。「今後は宿泊者も巻き込みながら、住人と宿泊者が交流できる場にもなればいいですね」(徳田さん)

地域の住人の皆さんが関わりやすい、「お仕事」スタイルで笑顔の循環

「日貫一日では、木製のお風呂の掃除や、朝食の支度など、地元のお母さんたちにお給料を払ってお手伝いしてもらってるんです。このプロジェクトを長く続けていくためには、地域の方を巻き込みながら、いかに楽しく運営していけるかが大切だと思うんです」と徳田さん。
地域おこしというと、ボランティアという形で関わるケースも少なくない。しかし、徳田さんたちがこだわるのは、興味をもってくれた人にあくまで「仕事」として、何らかの形で関わってもらえる機会をつくるということ。「きちんと報酬があるということが強いやりがいと人のつながりを生み、ひいては日貫全体を盛り上げていく力になると信じています」
朝食の支度にやってきては、「ええなぁ」と満足そうにテーブルに並んだ料理を眺めるお母さん。宿泊者の方から「野菜がおいしい!」という感想を聞いて、畑仕事にも力が入るお父さん。「日貫一日に関わることで、地域のみなさんの笑顔が増えるとうれしいですね」

日貫に縁を持つ次世代の若者たちをスタッフに迎え、持続可能な施設運営を

最近、日貫一日のスタッフに新たに2人が加わり、計3人になった。立ち上げメンバーである夫と一緒に日貫にやってきたという湯浅さん。邑南町に住むおじいちゃんと一緒に暮らすために京都の大学を卒業後に日貫に来たという倉さん。そして、以前は公務員をしていたが、日貫一日に興味をもって関わるようになったという、地元出身の上田さん。それぞれが不思議な縁をたどって、今は日貫一日で働いている。
「日貫を盛り上げたいという想いを継いで活動してくれる次の世代の存在はとても重要です。このスタッフがそろったことで、その布石ができました。今後は彼女たちも一緒に、プロジェクトを盛り上げていけたらいいですね」

日貫一日で働くスタッフのみなさん(左から2番目が徳田さん)。みんなそれぞれの縁で、このプロジェクトに関わっている(写真撮影/福角智江)

日貫一日で働くスタッフのみなさん(左から2番目が徳田さん)。みんなそれぞれの縁で、このプロジェクトに関わっている(写真撮影/福角智江)

取材の最後に、「今度は施設のすぐ裏にある神社の境内でマルシェを企画しているんですよ」と教えてくれた徳田さん。「昔のお宮さんのお祭りみたいな雰囲気で、フリーマーケットとかをしてもいいかな~」。そう話す徳田さんは笑顔満面。日貫に新たな人の笑顔が満ちるのが目に見える、そんな素敵な笑顔だった。

●取材協力
日貫一日

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