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一人はみんなのために、みんなは一人のために…これからの時代を生きる子供たちに、これから親になる私たち世代がしてあげられること、それは「協同」の力を身につけさせてあげること。「人の力を借りる力」「人に力を貸す力」を身につけることの大切さを、哲学・教育学者の苫野さんにわかりやすく教えていただきます。
「競争」こそが生産性を上げる。私たちの多くは、長い間そう信じてきたのではないかと思います。
でも、「競争」するより「協同」した方が、個人と全体のパフォーマンスが上がることが非常に多い、ということをご存じでしょうか。
もちろん時と場合によりますが、学力向上、芸術制作、さらには営業活動等においてさえ、競争するより協同した方が、効果的な場合が多いことが明らかにされているのです。(アルフィ・コーン 『競争社会をこえて―ノー・コンテストの時代』参照)
このことを、教育学は100年以上も前に発見し訴えてきました。
考えてみれば当然のことです。学力競争一つとっても、競争にずっと勝ち続けるのはごく一部の人たちだけです。
多くの人は、途中であきらめて、それ以上の努力を惜しむことも多いでしょう。
さらにまた、学力競争の現場では、分からないことがあっても友だちに聞くことが中々できません。聞けば一発で解決できるかもしれないのに、お互いに牽制し合って、協力し合うことができないのです。考えてみればとても非効率なことです。
それに比べて、「協同的な学び」を軸にした授業は、上手くやれば、個人と全体の学力を飛躍的に向上させる傾向があることが知られています。
先生の一方的な授業を聞くより、友だちに聞いた方がよく分かったという経験は、誰もが持っていることでしょう。
逆に、人に教えることで理解がより深まったという経験も、多くの人が持っているのではないかと思います。
必要に応じて人の力を借りる力、また、必要に応じて人に力を貸す力。そんな「協同」の力が、近年ますます注目されるようになっています。
以上のことは、文科省も十分に自覚しています。次期学習指導要領には、「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)を軸とすることが明記されましたが、これもまた、「協同」の力を最大限発揮させることを意図したものです。
大学入試も、単なる知識のつめ込み競争からの脱却を謳っています。戦後最大と言われる教育改革が、すでに始まっているのです。
そんな現代において、私たち親世代が子どもにできることは何でしょう?
まず、子どもたちにはどんどん「失敗」の経験を積ませたいものだと思います。
「競争」にばかり目が行くと、私たちはどうしても、負けてはいけない、失敗してはいけない、というプレッシャーを子どもにかけてしまいます。
その結果、子どもたちはどんどんと萎縮して、のびのびと成長していくことができなくなってしまいます。
月並みですが、私たちは「失敗から学ぶ」のです。だから子どもが失敗するチャンスを、私たち親はおおいに保障したいものだと思います。
そのためにも、「人の力を借りる」経験を、私たちはどんどん子どもに積ませるべきだと思います。
「失敗」しても、「人の力を借りる力」があれば、たいていの場合乗り切っていけるものです。
「人に頼るな」。私たち親は、何かとそう子どもに言ってしまいがちです。もちろん、何かを独力でやり抜くことは大事です。
でも私たちの人生は、人の力を借りて何かを成し遂げることの方が、圧倒的に多いはずなのです。
必要に応じて、人の力を借りること、そしてまた、必要に応じて人に力を貸すこと。これこそ、これからの時代に最も重要な力の一つなのです。
この記事のライター
苫野一徳
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1980年、兵庫県生まれ。哲学者・教育学者。早稲田大学大学院教育学研究科博士課程単位取得満期退学。博士(教育学)。現在、熊本大学准教授。著書に、『教育の力』『勉強するのは何のため?』『どのような教育が「よい」教育か』『はじめての哲学的思考』『子どもの頃から哲学者』などがある。
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