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誰でも緊張したり、不安に思うことはあるものですが、それが強い場合は生活に支障を及ぼすこともあります。19回目の今回は、日常生活で抱える不安や気分の落ち込みなどの鬱っぽい症状について、漢方薬剤師の西崎れいな先生(KAMPO MANIA TOKYO)に教えていただきます
1. 不安や鬱っぽい症状はなぜ起きる?2. 精神症状で医療機関を受診したほうが良い基準は?3. 気分が落ち込んだときの対処法4. 精神不安に効果のある漢方薬は?
解説してくれた先生 KAMPO MANIA TOKYO 管理薬剤師西﨑れいな 先生 昭和大学薬学部卒。大手調剤薬局、多診療科クリニックの院内調剤室勤務を経て、漢方専門店にて管理薬剤師。漢方相談や漢方の啓発に努め、2021年より現職。監修を務めるKAMPO MANIAでは、自分の症状や体質からカスタマイズしてくれるサービスも受けられる。
何かに失敗したり、叱られたり、緊張や不安で心穏やかでいられないことは、誰しもあることですよね。しかし、それが度重なって毎日やる気が起きず、意欲低下が長期化してしまう場合は非常に問題です。自律神経が乱れ、体のあちこちに不調が現れるようになり、最終的にうつ病発症となると、今まで通りの生活が送れなくなってしまいます。
あらゆる精神の不調は心と体のアンバランスにより引き起こされます。身体が今どんな状態で何が起きているのかしっかり把握することが必要です。以前、イライラの回(記事はこちら)でもお話しましたが、気血水と同様に患者さんの証を見極めるものさしとして使われる「五臓六腑」という漢方の考え方を頭に入れておきましょう。なんだか最近ストレス過多で心が落ち着かない…という方は、ぜひこちらの記事も参考にしてみてくださいね。
生命維持の根幹を司る五臓六腑は「肝、心、脾、肺、腎」の5つの要素に加え、この五臓と表裏をなす「胆、小腸、胃、大腸、膀胱、三焦」の六腑で成り立ちます。
ここで少し、五臓の中でも精神症状に深く関わる心、肝、脾のお話をしておきましょう。
精神活動の中枢を担うのは「心(しん)」です。これは純粋に心臓という意味ももちながら、肝に貯蔵された血を全身に巡らせる働きや、思考や記憶、集中力などの精神活動をコントロールする役割を担っています。
「肝」には疏泄(そせつ)作用といって、気血水を全身に巡らせる働きがあります。また肝は同時に、落ち込みやイライラなどの感情の調整、血を貯蔵して必要なときに全身へ配分する役割を担っています。
「脾」は、食べ物を消化、吸収し心身を動かすための気をつくります。そして、血液(血)を生み出し、血管の外へ漏れ出ないように維持させる役割をもちます。
これらをまとめると、脾で血がつくられ、肝が血を貯蔵し、心がこの栄養となる血を全身へ送るという流れによって、体の隅々まで栄養が行き届くのです。それぞれの機能が正常に働くことで、精神が安定し、心と体の健康が保たれます。
しかし、五臓のバランスが崩れて失調すると、気の停滞(気滞)、気の逆流(気逆)など、気血水のバランスや巡りに支障をきたし、さまざまな不調となって現れてくるのです。
そうですね。最近落ち込み気味だな、不安な気持ちが続いているな、と自分で自覚できる程度であれば、のちほどご紹介する漢方薬の力を借りながら様子を見てもよいと思います。精神症状はよく似ていても、治療法が異なる病気もあるので専門的な診断が必要になります。なかなか自分だけで解決するのは難しいことも多いです。
例えば、突然発作的に発汗や手の震えなどが起きて、日常生活に支障をきたすほどのパニック障害、うつ状態とハイテンションな躁状態を繰り返す双極性障害(躁うつ病)、自分ではわかっていてもこだわりが強く特定の行動(例えば、感染症が怖くて過剰に手を洗うなど)がやめられない強迫性障害という心の病気もあります。
単純に、性格面での「心配性」ではない場合がある、ということは理解しておいた方が良いですね。
また、精神的な理由で引き起こされる体の症状、例えば、下痢や胃のむかつき・不快感などが長期化している場合にも、適切な治療やカウンセリングを行ってくれる専門医療機関の受診をおすすめします。
うつ病のサインとして、以下のような状態が2週間以上にわたって続く場合は、医療機関の受診のめやすとして知っておきましょう。
—————————1.お布団に入っても眠れない、あるいは途中で起きる日が続いている2.好きなことが楽しく感じられなくなった、何もやる気が起きない3.倦怠感、集中力の低下が感じられる4.イライラや塞ぎ込むことが多く日常生活や家族とのコミュニケーションに支障がある5.自分の体を傷つけたい、生きている意味がない、死にたいと思うことがある —————————
はい、無理に元気になろうとして意欲的に活動したり、活力をつける食べ物や飲み物をやみくもに摂り入れたりして、一度に頑張りすぎてしまう人がけっこう多いです。実はそれが逆効果になったりもします。頑張ろうと思わずに、まずはできる範囲で養生することが大切です。
メンタルの不調は、頑張っているときに現れます。週7で公私ともにフルスロットルで活動的な人が、スイッチが切れたようにパタっと心を壊してしまうこともあります。ちょっとした不調で気づけたときは、もう無理だという心のSOSだと思って、とにかくよく休むこと。本人もそうですが、周りも頑張らせようとしないことが大事です。場合によっては、仕事やプライベートをセーブして心と体が休まる時間をつくることも必要ですよ。
自分が置かれている状況で、緊張や不安の元凶はどこにあるのかがわかっているのなら、その解消のための行動は大事です。責任のある立場にいて、突然ポジションを変えるのは難しいと思いますが、仕事を部下に振ってみるとか、介護や育児でストレスを抱えているなら、周囲に相談して手伝ってもらうなど、負担の配分をしてみてください。つまり、思い切って「外注」するのです。つかの間の休みをとって、せっかく心身の疲れをとっても、戻ればまた同じ負担がのしかかる状況では、漢方薬の助けをいくら借りても根本的な解決になりません。何事も完璧にこなそうとせず、「まいっか」と思える心の持ち方も大切です。
先ほど、休みましょうと言いましたが、毎日寝てばかりいるのも気の巡りが悪くなってしまうのでおすすめできません。お天気がいい日に、日を浴びながらウォーキングなどの軽い有酸素運動をすることは、うつ症状を改善に導くことがわかっています。また、おなかの調子が悪いときは無理せず消化の良いものをとり、気血を補う食事を積極的にとりましょう。胃腸の機能を高めて気を補う食材は、お米や山芋、キノコ類、ナツメ、大豆などです。セロリ、パセリ、シソなどの香りの強い野菜は気の巡りをよくします。レバーやシジミ、アサリ、また生薬としても使われるクコの実は、肝の回復を助けるといわれています。
はい、先ほどあらゆる精神症状と「五臓六腑」の関係性についてお話しました。肝、脾、心の異常により全身のバランスが崩れて、生命エネルギーである気の巡りが悪くなることにより、心の不調が現れます。足りないものは補って、過剰な状態は落ち着かせることで、お互いに支え合っている五臓六腑が整い、気血水のバランスを取り戻します。
例えば、不安感や気分の落ち込みによく使用される漢方薬は半夏厚朴湯。精神症状以外に、喉に何か詰まったような違和感を感じるかどうかが、この漢方薬を選択するヒントになります。
漢方薬局などで専門家に心の不調を相談する際は、夜眠れない、喉に違和感がある、便秘や下痢が続いているなど、他にも思い当たる症状は一通りお話してみてくださいね。そうすることで、それぞれに合った漢方薬のご提案ができるはずです。
【体質、症状】気分が落ち込みやすく塞ぎがち、不安で緊張しやすい方。風邪など引いていないのに、痰がからんでいる様な喉の違和感・つかえ感がある場合に有効です。神経性の胃炎や嘔吐にも用いられます。【効能】気分の落ち込みなどの精神症状に使われる代表的な漢方薬で、気の巡りが悪くなった「気滞」を改善します。半夏にはつかえをとって水や気の停滞を改善させる作用があり、厚朴は湿をとって呼吸を楽にします。検査をしても何も異常がなく、ストレスから喉になにか種のようなものが詰まったような症状(梅核気)に有効とされています。妊婦さんのつわりにも用いられます。【使われている生薬】半夏、茯苓、厚朴、蘇葉、生姜
【体質、症状】胃腸が弱く食欲がない、疲れやすいなどの症状がある気虚体質の方。また、貧血傾向で顔色が悪く、心身が疲れて不眠や不安がある方に向いています。【効能】「帰脾」とは、消化吸収を司る脾の機能を、元の状態に戻すことを意味します。もともと虚弱体質で、心労が重なり、心や脾の働きが低下している状態に有効な漢方薬です。遠志(おんじ)はハギの根のことで、精神を穏やかに安定させる働きがあります。生姜、木香は気の巡りをよくします。他にも気血を補い不安をやわらげる生薬の組み合わせによって、心と体の不調を改善していきます。【使われている生薬】黄耆、酸棗仁、人参、白朮、茯苓、遠志、大棗、当帰、甘草、生姜、木香、竜眼肉
【体質、症状】胃腸が弱く神経質、気の流れが滞っている気滞体質の方に有効です。感情のコントロールができなくなる、気分が塞ぎがち、不眠、自律神経失調症などに用いられます。【効能】香蘇散は風邪のひき始めの薬としてよく用いられる漢方薬です。麻黄を含まないので、胃腸の弱い高齢者や妊婦さんの風邪薬として使われます。同時に「理気薬(りきやく)」といって、気の巡りをよくする生薬である香附子や蘇葉(シソの葉っぱ)が含まれており、エネルギーが全身を巡るのを助けます。神経質で不安感が強い方の、ストレスに伴う不調によく用いられます。【使われている主な生薬】香附子、蘇葉、生姜、陳皮、甘草
薬剤師の先生から漢方について学ぶ「ママのお悩み漢方相談室〜不調な私の取扱説明書〜」。第19回の今回は、不安やうつっぽいといったメンタルの不調におすすめの漢方薬についてお伝えしました。誰でも一時的に不安になったりすることはありますが、長期化すると体にも不調が出ます。適切に医師に相談し、生活の見直しも行なっていきましょう。漢方薬の中にも心の不調に効果が期待できるものがありますので、上手に取り入れたいですね。
(解説:西﨑れいな)
※写真はイメージです
参考文献症状からチャートで選ぶ漢方薬(翔泳社)生薬と漢方薬の辞典(日本文芸社)まずはこれだけ!漢方薬(じほう)漢方薬辞典(主婦と生活社)みんなのメンタルヘルス(厚生労働省)
この記事のライター
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