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この人に必要とされている–そう感じてはじまった不倫の恋がハルカさん(46歳)に残したものは、苦い思い出のほかにもうひとつあった。それは、セックスに対する強烈な好奇心。20代のころは快感を知らないままにゆきずりのセックスをくり返し、夫とは一児をもうけたもののその後セックスレス。不倫相手とのセックスで初めて快感を知った。38歳のときだった。
セックスには中毒性がある、とハルカさんはいう。一度気持ちよくなったら、何度でも気持ちよくなりたい。さらなる刺激を、無意識のうちに求めてしまう。
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長いこと記憶を封印しているあいだも、被害の経験は確実にハルカさんの人生に影響していた。
親戚の男性から無理やり性的接触をされた。就職してからは数々のセクハラに遭った。なかでもひどいのは事務職をしていた20代前半、懇親会の席で上司が取引先の重役たちに対し「この子の胸を触ってもいいですよ」とハルカさんを紹介したのだという。信じがたいことに、実際に触ってきた男性がひとりいたそうだ。その職場では、重役から強引にホテルに連れ込まれたこともある。
ハルカさんはそんな体験を淡々と打ち明ける。セックスセラピストのモニターをやったんです、ヌードモデルで雑誌に載ったんですと話すのと変わらないトーンで。筆者が「つらい被害経験を話してくださってありがとうございます」と声をかけると、ハルカさんの目が丸くなった。
「これって、被害なんですかね?」

どこからどう聞いても被害であるにもかかわらず、ハルカさんにはその自覚がなかった。ただなぜ自分は自己肯定感が低いのかがずっと不思議だった。
性被害という自己の尊厳が奪われる体験によって、自己肯定感が下がる。セクハラや加害者は女性のそうした弱いところにつけ込んでくる。被害経験がある人がその後も何度も被害に遭うというのは、ひとつの典型だ。
「小さいころからヘンに色気のある子だといわれてきました。母子家庭で育ったのですが、母から『あんたは将来風俗で働いて、お母さんに楽をさせるのよ』とたびたびいわれてきたことも影響しているのでしょうか。気づけば、私ってエロいんだ、それしか魅力がないからこんな目に遭っても仕方ないんだと思うようになっていました。でも、ぜんぶ被害だったんですね」
10代のころから、自分が悪いのだと思い込んできたのだろう。ハルカさんには、たしかに色気がある。どこか掴みどころがなく、それが人を惹きつける。しかしそれは魅力でこそあれ、セクハラをしていい理由にはならない。原因はハルカさんにあるのではなく、加害者にある。
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40代になったいま、自己肯定感が低いままこれまでを生きてきたとハルカさんは理解している。その原因のひとつに性被害経験があることがわかった。セックスをすれば、そのときだけは肯定感が得られる。だからゆきずりの関係をくり返し、不倫にものめり込んだけど、楽になることはなかった。
「何が原因なのか自分でも何かわからなかった。被害に遭ったことを忘れていたからこれまで生きてこれたのかもしれません。一方で、常に感じていた抑圧の反動でセックスをしていたというのもあると思います。結婚前は、ずっと母から監視されていると感じていました。『こんな娘でいなきゃいけない』と強く思っていて、その窮屈さから逃げるために、ゆきずりのセックスをくり返しました」

「結婚後は、生活のなかで自分で自分を抑圧してきました。夫に稼ぎがないのだから私がなんとかしなきゃというので、いつも必死。でもうまく回らなくて、自己嫌悪に陥る毎日でした。あぁ誰かに寄りかかりたいなぁと思っていたところに現れたのが、不倫の彼だったんですね。つらい現実から目をそらすための手段だったのでしょう」
セックスは相手次第で変わるものだけれど、自分自身が変わればもっと変わる。
ハルカさんはこれまで抱えてきた鬱屈の原因を思い出したばかり。今後その事実をどう受け止め、どう向き合うかによってセックスライフや性に対する考えも変容していくのだろうか。機会があれば、またお話をうかがいたい。
この記事のライター
OTONA SALONE|オトナサローネ
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