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僕たち「HandiHouse project」は「妄想から打ち上げまで」という合言葉を掲げて、2011年に活動を開始しました。この合言葉には、家づくりに取り組む住み手と僕たちつくり手が二人三脚のチームとなり、どんな家、どんな生活を実現したいか、そんな妄想をどうやったら実現できるのか、という計画段階から、実際に工事が始まり壊したり、壁をつくったり、床を張ったり、家具をつくったりして、汗を流して大変な思いもして、完成した後に「できたね!あれは大変だったけど、こんなうれしいこともあったよね!」と完成の喜びまで共に分かち合いましょう!という思いが込められています。
今回の連載第1回目では、僕たちがどんな想いや信念をもって活動しているのかを紹介したいと思います。【連載】施主も一緒に。新しい住まいのつくり方
普通、家づくりというのはハウスメーカーや工務店、リフォーム会社などのプロに施工をお任せするのが一般的です。ですが、自分で、自分の家づくりに参加してみたい人もいます。そんな人たちをサポートするのがHandiHouse。合言葉は「妄想から打ち上げまで」。デザインから工事までのすべてを自分たちの「手」で行う建築家集団です。坂田裕貴(cacco design studio)、中田裕一(中田製作所)、加藤渓一(studio PEACE sign)、荒木伸哉(サウノル製作所)、山崎大輔(DAY’S)の5人のメンバーとお施主さんがチームとなって、デザインや工事のすべての工程に参加するスタイルの家づくりを展開する。そんな「HandiHouse project」が手掛けた事例を通して、「自分の家を自分でつくること」によって、「住まい」という場所での暮らしがどういうものになるのかを紹介します。家づくりをとことん楽しむことで、住むほどに良くなる家をつくりたい
「妄想から打ち上げまで」という合言葉をかかげた理由は、それぞれが設計事務所のスタッフやゼネコンの現場監督所員として働いていたころに抱いていた共通の疑念があったからです。
商品としての家をつくっているだけで“家をつくる”という行為をつくり手側が楽しめていないし、それはお施主さんも一緒だなと感じていました。自分が支払うお金と引き換えに取得した商品として家を手に入れるだけでは、その後その家を本当に住みこなし楽しみつくすことは難しいと感じていました。
だから、つくる側も住む側もとことん楽しんで共につくることで、いつまでも、いや住めば住むほど楽しく過ごせるような家ができる気がしたのです。そこで、その思いを伝えるために「ゆりかごから墓場まで」というイギリスの社会福祉スローガンをもじって「妄想から打ち上げまで」という言葉を掲げることにしました。
つくり手と住み手が共に家づくりを行うことは、楽しいだけではありません。共に多くの時間を現場で過ごすことで、これまでどうやってできているのか分からなかった家のことを知ることができます。床がどうやってつくられているか、どうつくった壁なら今後棚などを固定することができるのか、そんなことを一つ一つ理解しながらみんなでつくった家は、出来上がって引越しをするころには本当の意味で“わが家”になります。そんな“わが家”での生活は、きっと住めば住むほど、時間が経つほどにその人、その家族らしさのにじみ出る良い空間になっていくはずです。
現場は舞台、家づくりはLIVEだ!そんなことを考えて、2011年から2016年12月の現在までおよそ70件の家づくりをお施主さんと共に行ってきました。たくさんのお施主さんと家づくりをしていると、さまざまな「家づくりとのかかわり方」があり、二人三脚のチームでと言っても、お施主さんによっては仕事が忙しいなどでなかなか現場に顔が出せないこともあります。
やってみたら思ったより大変だったから、予定よりもハンディにお願いする部分を増やそう、というお施主さんもいらっしゃいますし、逆に楽しくなっちゃって、こっちも自分たちでやっちゃおう、といって予定以上に自分で作業をされる方もいらっしゃいます。
しかし重要なのは作業量ではありません。工事終了後に余暇の時間でDIYに取り組むのではなく、工事期間中に現場に飛び込むということが大事なんです。
そのための仕組みとして、僕たちはデザインを決めて見積もりを作成し金額を調整する際に、お施主さんの仕事の状況やスキルに応じて、工事の一部をお施主さんにお任せします。そして、その部分の金額を見積もりから差し引きます。ただし条件は、僕らの工程にのっとって進めること。
そうすることで、いわゆる「お客さん」と「請負業者」の関係ではなく、「お客さん」なのに「請負業者」となるなど、関係性がごちゃ混ぜになって、気づいたら「現場」という“舞台”に自分も上がることになります。舞台に上がってこそ、本当の意味で僕らとお施主さんは共に家をつくるチームになることができると思っています。
そうやってお施主さんも家を完成させるための責任の一旦を担うことで、家づくりの表舞台に上がることになります。それは従来の家づくりのように、打ち合わせをして、確認、決定をしていたら、いつのまにか家はできていた、という体験とはかけ離れたものです。
現場で共に作業をすることで、それまで気付かなかった視点で家が見えてきます。そうすると、やっぱりここの窓の高さはもう少し高いほうが良いかもとか、実はここに壁はなくて良いかもしれないなど、たくさんのアイデアが浮かんできます。現場ならではの臨場感と緊張感のなかで、そんなひらめきの瞬間が実は家づくりの醍醐味だと確信しています。
だからこそ、これまでおよそ70件の家づくりで、それぞれのお施主さんたちと現場でああでもない、こうでもないと意見をかわしながらより良い住まいを追求し、家づくりをしていると、もうすぐ完成というときにお施主さんから「もう終わり、寂しいね。また一緒につくりたいね」と言っていただくことがあります。
とてもうれしい言葉だし、そんなときは僕たちも同じ気持ちでいます。それはどこか、大好きなバンドのLIVEで最後の曲が終わってしまうときのような、夢から覚めるような感覚に近いと思います。だけど、夢中になって家づくりをすると、本当にそんな気持ちになってしまうのです。
だから最後にアンコールの気持ちで行う打ち上げは、最高のひとときになります。
「お客さん」と「業者」という関係を超えて家づくりをすることで家が出来上がること以外に、たくさん得られるものがありました。HandiHouse projectを始めたころの僕たちの平均年齢は26歳。当然、お施主さんは僕らより先輩の方がほとんどです。
そんなお施主さんとチームとなって家づくりをするためにたくさんの会話をして、僕たちはそこからたくさんのことを学び、成長してきたと思います。もちろん、僕たちは家づくりの面で精一杯サポートしますが、お施主さんも僕たちと共に考え行動してくれることで、人生の先輩としての経験や考えに触れることができ、その言葉から多くの学びを得ることができました。
例えば、仕上げの床塗りをしながら「家は完成するけど、これからがスタートですね」と語ってくれたお施主さん。冒頭の住むほどに良くなる家という僕らのぼんやりとした妄想を、確信に変え、大きく背中を押してくれました。
僕らが学ぶばかりではありません。2013年から、お子さんがいる家族と共に家づくりをすることが増えました。僕たちは子どもたちにも同様に生の現場を体験してもらい、可能な範囲でできる作業を手伝ってもらうようにしています。普段見ることができない工事の作業に目を輝かせ、初めての体験に興奮しとても楽しんでくれます。そしてうれしいことに「ハンディさんにバイトに行きたい」とか「僕も将来建築家になりたい」「私将来は大工さんになる」と言ってくれることも少なくないのです。
建設業というと今はきつい、汚い、危険の3Kと言われ敬遠されがちですが、僕たちと共に現場を過ごした子どもたちには、家づくり、ものづくりの本当の姿を見せられていると自負しています。こういった経験を通して、家づくりはとても楽しくて、魅力的な仕事であること、そんなことを伝えていくことも僕たちの使命だと感じるようになりました。
また、アンコール気分で最高のひとときを楽しんだ打ち上げのあとも、定期的に会っているお施主さんもいます。ここまでくれば「お施主さんと業者さん」とかじゃなくて、「友達」と言ったほうが良いかもしれません。特に夏の間、HandiHouse projectのメンバー中田が神奈川の逗子海岸で海の家をやっていて、毎年夏に海で再会という元お施主さんで現お友達は多いです。なかには何度か一緒に年越しを過ごした家もあるんです。(もしかしたら迷惑かもしれませんが……)
お施主さんと共に行う家づくりは、ただ家をつくるだけではなく、そのプロセスにはたくさんの思いや出来事が凝縮されたストーリーがあります。そんなHandiHouse projectの家づくりについて、これからもっと詳しいストーリーを、メンバー5人がそれぞれ担当した家づくりを舞台にリレー形式で連載していきます。乞うご期待!!
文/坂田裕貴(cacco design studio)
●参考この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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