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マンションの購入前から「どうやって自分の家ができるのか、せっかくつくるのであればその過程も知りたい」と考え続けていた稲葉家。繰り返し妄想していたという間取りや、仕上げを実現するパートナーとして選ばれた僕たちHandiHouse project。今回は稲葉家×HandiHouseの家づくりを紹介します。【連載】施主も一緒に。新しい住まいのつくり方
普通、家づくりというのはハウスメーカーや工務店、リフォーム会社などのプロに施工をお任せするのが一般的です。ですが、自分で、自分の家づくりに参加してみたい人もいます。そんな人たちをサポートするのがHandiHouse。合言葉は「妄想から打ち上げまで」。デザインから工事までのすべてを自分たちの「手」で行う建築家集団です。坂田裕貴(cacco design studio)、中田裕一(中田製作所)、加藤渓一(studio PEACE sign)、荒木伸哉(サウノル製作所)、山崎大輔(DAY’S)の5人のメンバーとお施主さんがチームとなって、デザインや工事のすべての工程に参加するスタイルの家づくりを展開する。そんな「HandiHouse project」が手掛けた事例を通して、「自分の家を自分でつくること」によって、「住まい」という場所での暮らしがどういうものになるのかを紹介します。HandiHouseのコンセプトに共感して依頼
数年前に都内の改修済み分譲マンションを購入し、ご夫婦と息子さんの3人で住まわれていた稲葉さんご家族。第二子の息子さんが誕生後、2LDKの間取りのこの場所では少し手狭ということもあり、横浜のマンションを購入することに。
出来合いの決まりすぎた格好良さの空間よりも、「つくりながら一緒に仕様を決める」という余白のある空間づくりが期待できることや、「自分でやれることはできるだけ携わりたい」という想いから自身も家づくりに参加できるというHandiHouse projectのコンセプトに共感され、お家づくりの依頼を決められたそうです。
これを請け、2013年の春、稲葉さんご家族とHandiHouse projectとの家づくりがスタートするのでした。
現場の空気を感じてつくるつくりかた「つくること、空間を生み出すことって面白くないですか?」。稲葉さんからいただいた言葉です。
実際に現地で作業をすすめることで見つけられる形。まぐれで生まれる線。場所のもつ固有の質感と現地で感じる想像とは違う空間。元々のイメージを一緒につくり込んでいくことで見出だせる空気感。建設業的な空間のつくり方ではなく、互いの意見を出し合い、より良くするための建設的な会話をして形成する住まい方。これが共につくることの醍醐味。
偶然の一致などから見出だせるもののほうが自分たちにとっては的を射ていて、効率の良さを優先するばかりで見落としていたものを見つける作業は遠回りかもしれないけれど、遊動するように進めていくことが自分たちには合っているのかもしれない。
稲葉さんとの会話の中からはデジタルのような精密さではなく、アナログな肌触りのような感覚を大切にした、自分のアイデンティティーが形になることへの強い気持ちがうかがえました。
“本当の仲間”とつくる仲間の家土日や祝祭日は稲葉さんのお友達が工事に参加。主に部屋の塗装を手伝っていただきました。初めはHandiHouse projectから道具の名称、使い方、手順と注意事項を説明していたのですが、解体から一緒に作業をしてきたこともあり、すっかり一通りの手順を習得された稲葉さん。
「ここはこういう風に塗る」「そこはこうなるからはみ出ても大丈夫」「あそこは目立つからね。要注意」など、現場監督のように指示を出されていました。
自分たちの住まいを自分たちでつくることの進捗を楽しまれている感じがその様子からうかがえました。さらにお友達がその気持ちに応えるように一所懸命にお手伝いをされていたのもとても印象的。単にワークショップとしてこの取り組みを行っても、自分が利用しないことからあまり良い結果とならない場合がありますが、気の置けない仲間となるとそういった問題は解消されるのかもしれません。
予測不能を楽しむ石でできたキッチンカウンターがメインの稲葉家。「自分たちで住む場所を設計から携わりつくり出すなら絶対にやりたい!」とお話をされていたそのキッチンカウンターには、何種類もある石のなかから石英石を選びました。さまざまな形やサイズがある乱形石を取り寄せ、現地で好みのサイズと形に加工をしていきました。
この作業はこのお家づくりのハイライトでした。好みのサイズと形といっても、乱形石の自然な粗雑さは損ないたくないため、ハンマーで叩いてつくっていきました。そうするとやはり思いもよらない形が生まれるのですが、これがとても良かったのです。
まぐれで生み出されるラインが良い形となり、稲葉さんの口からも「おぉ! 良いねー!」と。
さらにそれらを組み合わせることで生まれる偶然が形成していった張り石造のカウンターキッチンは、同じものは二度とつくられることはない、まさに唯一無二のものとなったのです。
予測不能の楽しさは共につくるからこそ。完成後の「大満足なキッチン!」から、その後の生活を経ての「宇宙一のキッチン!」という言葉や「朝起きてここに立って、そこから見える景色を見てる時間が本当に好き」「一日中ここに居る」という話をしてもらえると、自分の手でつくった空間だからこそ、住まいへの愛着もより強まるのだろうと思いました。
「1000%理想の住まい」工事が終了後、共に考え共につくる作業を振り返り、「食べ物を食べて身体は成長する。経験を通して心が成長すると思っているので、今回のことで自分も子どもも超成長した感じがします! 自分が積極的に家づくりに参加することは、満足感とか愛着が、参加しないそれとは比較にならないくらいヤバいです!」と話をしてくれた稲葉さん。共に生み出したLDKのカウンターでうれしそうに話をしてくれるそんな稲葉さんご家族の笑顔が、一緒に家をつくることで築くことのできた僕たちとの関係性をあらわしているようでした。
それぞれのお家でいろいろな出会いがあります。そして、そのお家での暮らしの未来を共に想像することや「住まいをつくること」は見た目がおしゃれだったり、出来がよければ良いだけではなく、共にその過程を過ごしてきた“仲間”との関係性が大切なのだと稲葉さんとのかかわりをもって改めて感じられました。
横浜の家のお手伝いをさせてもらうことで築くことのできた稲葉さんのご家族との新しい絆は、この時点からのHandiHouse projectの活動に大きく影響を与えてくれたように思います。
「1000%理想の住まいです!」今でもふと思い出す最高の言葉です。
文/荒木伸哉(サウノル製作所)
●【連載】施主も“一緒に”つくる住まい 記事一覧この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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