/
2011年3月11日の東日本大震災から6年。震災前から建つマンションと、震災後に建てられたマンションとで、防災対策はどのように講じられているのだろうか? 「タワーマンションの防災対策レポート」前編では、震災を経験した「シティタワーズ豊洲ザ・ツイン」のケースをレポートした。後編では、震災後に建てられ、防災対策に取り組み始めたばかりの「ザ・パークハウス晴海タワーズ ティアロレジデンス」のケースをレポートする。
築1年。震災後に建った晴海タワーズ ティアロレジデンスがはじめたこと
訪れたのは、東京都中央区の「ザ・パークハウス晴海タワーズ ティアロレジデンス」。2016年に建てられた地上49階地下2階、免震構造のタワーマンションだ。築1年に満たないということもあり、同年11月に発足した管理組合の理事たちはまだ1期目。その管理組合が、発足6カ月目の2017年4月に初めての防災訓練を行った。
そもそもの発端は、2016年12月。理事の一人、防災担当のNさんと、ティアロレジデンス自治会長のTさんが、ほぼ同時期に理事長の牧内真吾さんに防災の取り組みについて相談をもちかけたことだった。
「もともと管理会社との契約で、2018年6月までにマンションの防災マニュアルを制定することになっていました。マニュアルづくりのための議論を机上で始めるよりは、まずはイベントを開催してみたほうが課題が見えてくるのではないかという方向に話が進み、管理組合と自治会の共催で防災訓練をすることになりました」(牧内さん)
地域を管轄する臨港消防署や中央区の防災アドバイザーに相談して助言を求める役割は、防災担当理事のNさんが担った。臨港消防署は、支援を依頼すると起震車(地震体験車)などの機材が使える日程を候補日として提示。調整の後に、開催日が決まった。中央区は、区内の約9割の世帯が集合住宅に住む(2015年国勢調査)というだけあって、マンション、とりわけタワーマンションを含む高層住宅については、防災アドバイザーの派遣や、防災に関するDVDを制作して貸し出すなど、サポート体制を整えている。牧内さんたちは、防災イベント開催のノウハウをもつマンション管理会社の協力も得ながら、その都度、ミーティングを開いて準備を進めた。
震度7の揺れ体験、煙体験、消火訓練……約300人が参加した防災訓練防災訓練当日は、朝8時から管理組合理事や自治会役員が1階エントランスのロビーに集合して、イベント会場の設営をスタート。9時には2階の共用スペースで災害対策本部設置訓練が、9時半からは1階防災センターで臨港消防署や警備会社による防災(消防総合)訓練が行われ、居住者たちも避難階段を使うなどして1階まで降りる避難訓練に参加した。
10時からは火災・地震体験訓練が始まった。避難訓練で1階に降りてきていた居住者たちが、思い思いのコーナーへと足を運んでいく。エントランス前の屋外スペースとエントランスロビーは、赤ちゃん連れ、子連れのファミリーから、高齢のご夫婦や女性二人組までと、幅広い年代の居住者で一気ににぎわった。
屋外で消火器を使っての消火訓練を体験した70代の女性は、「消火器って思ったより重いんですね。今の訓練では、その場で使うだけだったからいいけど、長い距離を運ぶのは大変かも。訓練と分かっていても慌ててしまったので、火事のときは、いかにして落ち着くかが大事だと実感しました」と、訓練から得た教訓を語ってくれた。
居住者の皆さんがひととおり体験し終えたのを見計らって、筆者も起震車(地震体験車)にチャレンジ。「直下型の揺れ」と「ちょっと離れたところが震源の場合の揺れ」のいずれかが選べるというので、迷わず「直下型」をオーダー。「思いっきり強くしちゃってください」と強気で臨んだものの、何の前兆もなくドンっと縦揺れがきて、すぐに激しい横揺れに変わると、テーブルの下にもぐってテーブルの脚にしがみつくだけで精一杯。「テーブルが固定されているからよかったけど、家のテーブルは動いちゃうだろうなー」という私の独り言に、消防隊員が「それでも、テーブルと一緒に移動すれば、常に頭は守られていることになります」とありがたい突っ込みを入れてくれた。
12時前には各体験プログラムが終了し、臨港消防団の挨拶や中央区防災アドバイザーからの講評によって、この日の訓練は締めくくられた。会場の撤収作業を終えた管理組合理事と自治会役員が再び集まって反省会を開いたのが12時。この日の参加が約100世帯、約300人であったことなどが理事長の牧内さんから報告され、この日のイベントは幕を閉じたのだった。
防災マニュアルの制定と、生活実態に合わせた “カスタマイズ”が今後の課題に約100世帯、人数にして約300人が参加したという結果は、牧内さんたちが期待していたほどの参加率には及ばなかったものの、起震車(地震体験車)などの体験プログラムでは2時間ほどの開催時間中に順番待ちの列が途切れることもほとんどなく、第1回目の取り組みとしては成功したと言えるものだった。
「初めての試みでこれだけの人が参加してくれたわけですから、よしとしましょう」(牧内さん)
ともあれ、この日の防災訓練によって、防災マニュアルの制定をはじめとするこのマンションの防災への取り組みについての課題が一層明確になったのは間違いなさそうだ。
「地震も火災も、今日のように理事や自治会役員が家にいる土曜の朝に起きるわけではありません。平日の昼かもしれないし、深夜かもしれない。さまざまな状況に対応できるように、まず基本的な方針を決めていくことを考えています。そのためには、まず『共助』の意識が薄い居住者に、防災への意識を高めてもらわないと。今回の訓練で、倉庫に備蓄されている簡易トイレなどの備品を実際に目にしてもらったことでも、皆さんの防災意識に働きかけることはできたのではないかと思っています」(牧内さん)
今回の経験を踏まえ、今後は2018年6月の防災マニュアル制定に向けて管理組合と自治会とで作業を進めていくことになる。具体的には、管理会社による『防災マニュアル案』を叩き台にしながら、マンション居住者たちの生活実態に合わせてカスタマイズしていくことになるだろうと牧内さんは語る。
「防災の取り組みに成功しているほかのタワーマンションのノウハウも積極的に取り入れながら、進めていきたいと考えています。マニュアルを制定して終わりではなく、その時点から適宜、見直しを図っていく予定です」(牧内さん)
2つのマンションを取材して、マンションの防災、とりわけタワーマンションの防災については、自治体(区)や消防署によるサポート体制、バックアップ体制が整っていることがよく分かった。ただ、両マンションで防災対策に精力的に取り組むDさんと牧内さんの言葉からは、なによりも当事者である居住者自身が防災に対する意識を高め、日ごろから近隣とのコミュニケーションを図るなど、いざというときに備えることが重要なことも伝わってきた。
今回の防災訓練では、松葉杖をついた女性が煙体験ハウスに入っていく光景を目にした。確かに、けがの治療中に地震や火災に遭うことだって大いにあるわけで、けがをしていても積極的に訓練に参加する姿に心を打たれた。前編で紹介した豊洲ザ・ツインの防災訓練では、車いすの人や速く歩くのが難しい高齢者などの「避難行動要支援者」については「OK」マークの有無にかかわらず、一律に訪問して安全を確認するようにしているという話もこのとき思い出した。
そして今回、何よりも印象に残ったのは、両マンションの管理組合理事、自治会役員の皆さんの、積極的で行動的な姿勢だ。昨年度に引き続き、今年度も自宅マンションの管理組合理事を務めることになった自分の「管理会社任せ」な姿勢を反省する機会にもなった取材だった。
●取材協力この記事のライター
SUUMO
172
『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
ライフスタイルの人気ランキング
新着
カテゴリ
公式アカウント